10.
この世界の家は、少なくともこの里では、近くにある森から木材を切り出して作るようだ。明らかに豊富すぎる森林地帯があるおかげで、木材には苦労しない。だが、この木々は根を強固に張り巡らせるため、地面から10センチメートルより深いところは、絡まり合う蔦のような根をみることができる。そのためか、開墾は難しいようだ。だが、これからはきっと変わる。それは岩屋という存在がいるからだ。バッテリーへ通電を果たしたその日の午後には、里全員を集めての集会を開いていた。
ライタントが、集会の最初に、集まった全員に話しかける。
「この先生は、昔は大学で教鞭をとっていらっしゃった、偉い方だ。この地にいてくださることを約束してください、また、学校を作ること、サザキを助手とすることを条件とし、我々に学問を教えてくださるそうだ。そのためには、先生の家を建てなければならない。このことに異議がある者は?」
誰も何も言わない。集会は、一番広い庭があるライタントの家の軒先で行われていたが、ここまで静まり返っていると、この目の前の人が本当にいるのかが心配になる。岩屋は、ライタントのすぐ横に立ちながら、そんなことを考えていた。
「では、先生、一言お願いします」
急に振られた岩屋ではあったが、すぐに気持ちを入れ替える。そして、ライタントが立っていたところへと歩を進め、そして、その場に居る全員に向かい、話しだす。
「ここにお集まりのみなさん、岩屋と言います。本日は、私の為にお集まりいただき、誠にありがとうございます。大学で教鞭をとっていたのは、昔のことではあります。しかしながら、私の専門分野については、まだ教える水準にあるでしょう」
ここで、初めて拍手が起きた。その拍手は、延々と数分間にわたり続く。飽きたと岩屋が思った時、ようやく長い拍手は終わった。
「そういうことなので、これから先生の家の工事に入る。みんな、よろしく頼む」
おう、と力を入れる声を一斉にあげる。だが、工事をするのは、里の人間のうち、3分の2ぐらいだ。他は、子育て中や妊娠中の母親、それにサザキのような子供だ。そのため、岩屋はかなり時間がかかることを覚悟していた。
だが、それは1日経たず、杞憂だと分かることとなる。それも、素晴らしい形で。