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9.

 岩屋とサザキは、ライタントの家にいた。バッテリーのところまでぎりぎりコードは引っ張りこむことができた。だが、問題となっているのは、バッテリーが動くかどうかである。岩屋はまずその確認をする必要があった。

 バッテリーは、ライタントの家の地下に置いてあった。縦3メートル、横5メートル、高さ2メートルという巨大な直方体は、地下室の4分の1を占めていた。スイッチ類は中国語のような言語で書かれていたが、岩屋はその内容については、なんとなく察しがつく。わからないことはライタントに聞けばいいと、簡単に思っていた。

 とはいうものの、ケーブル端子がいくつかあり、どれが正しいものかを調べるところから始めなければならないのは、大変なことだった。


「えっと、このコードは、ここだな……」

 いつも通りに、独り言をつぶやきながら、岩屋はバッテリーの配線を確認していた。サザキは、そんな岩屋の後ろから、ジッと手元を見つめている。ライタントは、二人を見守るように、部屋の入り口のところで、作業が終わるのを待っていた。ちゃんとできると信頼をしているようだ。

 すでにケーブルに電気は通っているので、端子をつなげ終わった途端に、バッテリーは充電を始める。駆動音がやかましく鳴りはじめると、3人は部屋を出て、地上へと戻った。

「これで電気は使えますよ。ただ、常時充電状態になるので、ガンガンに使い続けることがいいでしょうね」

「ありがとうございます、先生」

 ライタントは、岩屋に感謝の意味で深々と頭を下げる。だが、焦った岩屋は、すぐにライタントの肩に手をやり、話しかけた。

「なんの。これでも昔は大学で教鞭をとっていましたからね」

「大学で!」

 言い過ぎたかと、岩屋は後悔をした。だがライタントは目を輝かせている。失敗ではなかったようだが、この世界では、大学は何か特別な意味があるに違いない。そこまで岩屋が考えると、ライタントは説明を始めた。

「現在の大学堂は、おおよそ100年前に、当時の統一王が建てた老京大学堂を頂点とし、階層構造をしています。私は、大学堂へ行くための知力と財力が足りず、行くことは叶いませんでした。だが、このようにして大学堂で教鞭をとってくださっていた先生がいらっしゃるのは、おそらくは天の定め。いかがでしょうか、ここでお教えいただけませんでしょうか、大学堂で教えていらっしゃったことを」

 ライタントの言葉は、岩屋の胸に突き刺さる。その目は澄んでおり、学問に対する真剣さがうかがえたからである。だが、岩屋の決心はつかない。なぜならば、岩屋はここにたまたま来てしまっただけであり、本当にここで勉強を教えることがいいこちなのかがわからなかったからだ。だが、心中察したか、ライタントはさらに岩屋へと語りかける。

「なにかお望みがあれば、おっしゃっていただきたい。学ぶ場所は私が確保しましょう。お金が欲しいのでしたら、いくばくかではございますが、お支払いしましょう」

 だが、岩屋の関心はそこではなかった。

「私は、ただ研究がしたいのだ」

 岩屋の言葉に、ライタントはすぐに反応する。必要なことは全てを与えてでも、岩屋をここに引き止め、できるだけその知識を吸収しようとしているのだ。その真剣さは、岩屋をすでに揺り動かしていた。

「では、家を建てましょう。あんな物置ではなく、先生の指示通りに、家を組み立てましょう」

「……そうか、そこまでして学びたいのか」

 長年、一つの物事に傾注していた岩屋は、この心を失っていたのかもしれない。そのことにやっと気づいた。そして、なぜ、ライタントの言葉にここまで揺り動かされるのかも。

「分かりました。里長さんのお言葉、確かに納得しました」

「では……!」

 顔が明るくなっていくライタントに、岩屋は真剣に言う。

「覚悟はできているのですね。学ぶと言うのは並大抵なことではありません」

「できております」

「では、もう一つだけ条件を」

 すぐ横にいたサザキの頭を、ポンポンとなでる。サザキは少し不思議そうな顔をしつつも、どうやら嬉しそうだ。そんな表情をしている。

「サザキを助手にしたい」

「サザキ、いいかい?」

 ライタントの問いかけに、全力でうなづく。それをしっかりと見届けてから、岩屋はこの話を、正式に引き受けることとなった。

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