二章「想像」
「ふう、どっか行ったみたいだな」
崖の中腹、木々が倒れて引っ掛かり、木の葉のクッションとなっている地点に瑠色の姿はあった。全身打撲と擦り傷だらけ、整えていた黒の短髪もくしゃくしゃになりながらも、確かに生きていた。
「いってえ。一番ダメージ少なそうなの選んだのに。何だよ、『想像』なんて全然使えねえじゃんか」
瑠色はぼろぼろになった学生服と、擦り傷ばかりの自分の手を見る。
「……つうか、どうやってここから降りよう」
木々が重なっているとはいえ、まともな足場などは当然無い。今でも少し動いただけでずり落ちそうなくらいの状況だ。
「えらく困ってるみたいだな、助けてやろうか?」
どこからいつのまに現れたのか、瑠色の目の前にうさぎの人形が浮かんでいた。おまけに喋った、中々渋い声で。
「あっ! お前、昨日のやつ!」
瑠色はうさぎが浮かんでいることにも、喋ることにも驚かなかった。昨日一度驚いているからだ。そして、この縫いぐるみこそ、瑠色が災難にあった原因だ。
「昨日のやつ? 失礼な、昨日も言ったろ、俺の名前はビートだ。そんな態度じゃあ助けてやらないぞ」
ビートと名乗った真っ白な縫いぐるみはぷかぷか浮かびながら、瑠色の周りをうろちょろしだした。
「助けろよ! 大体、お前のせいでこんなことになったんだぞ」
瑠色は首をビートに合わせながら動かす。
「俺のせい? 違うね、俺はただの使い魔だ。命令に忠実に動いてるだけさ」ビートは動きを止めた。
「まあ、今回は特別に助けてやるよ。ほら」
瞬間、ビートの体から光が放たれた。その光は瑠色の体を包み、崖上まで軽々持ち上げた。
「……こんなことができたのか。縫いぐるみのくせに」
瑠色は立ち上がった。案の定、節々に痛みが走った。
「全く、次は助けんぞ。それより、昨日は『想像』の能力を渡しただけだったな。詳しい説明をしてやりに来たんだ、有難く思え」
崖上まで滑るように飛んできたビートが口を出す。
「ほとんど無理矢理渡されたけどな」
瑠色がビートをにらみつける。
「仕方ないだろ、お前は選ばれたんだ。嫌でも受け取ってもらうさ。とにかく、説明を始めるぞ!」