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痛快都市伝説 the Reverse  作者: 玄瑞
第一章
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時差

 数学の授業が終わって昼休み。

 疲れたからここで休む、と言っていた伝説少女を教室に残して、友人達と学食へ行った。

 男だけの気楽な時間だ。

 うどんを食って自分の席に戻ってみると、赤い髪の伝説少女が机に突っ伏して居眠りをしている。横を向いている寝顔がどこかあどけなくて少しカワ……図々しくて憎たらしい。いつ何を要求してくるかわからない、悪魔の誘惑に屈してはいけない。

 起こすか起こさないか、迷った。

 しかし考えてみれば、起こす手段がない。声をかけるのは周りの奴が怪しむ。椅子を引くのは後が怖い。机を揺するか? いや、寝起きが悪かったら危険だ。手で吹っ飛ばされるかもしれない。

 ためしに後ろからそっと肩を叩こうとしたものの、手が空を切った。

 シンクロとやらがどういう理屈なのか、よくわからない。体ごとぶつかったのだから、こちらからもさわれそうなものだが。

 そのままにして、次の体育の授業を受けに行った。

 約一時間後、グラウンドから戻って俺が着替えを終えても、まだ寝ていた。

 夜中に大騒ぎするからだ。もっとも、いま大騒ぎされても困るので、放置を継続する。

 次の時限は、椅子の上で重なって過ごすことにした。

 これは少し面倒だ。

 教科書は机の端に置くからいいとして、ノートがまともに使えない。

 伝説少女の頭が邪魔になっている。

 ……そうだ。こいつの頭の中で字を書けば、記憶や性格が書き換えられるかもしれない。やってみよう。

 大脳がありそうな位置でシャーペンを動かした。

『常識人』『恥じらい』『暴力反対』『反省』『迷惑かけたらきちんとお詫び』。

 よし、こんなところだろう。

「何やっとるん?」

 隣の席にいる女子生徒が尋ねてきた。

「シャーペンの調子がイマイチなんだよな」

「ふうん」

 誤魔化し終えたら、今度はノートの書き込みにチャレンジだ。ブラインドタッチならぬ、ブラインド・ライティング。

 数行書いて、ノートを持ち上げる。

 ひどく汚い字がそこにあった。読めるレベルではあるが、文字の列は激しく乱れていて、見苦しいことこの上ない。

「それ、シャーペンやなくて、書き手の腕が悪いんやわ」

 覗くな。笑うな。

「ふふっ、すごく綺麗だねー」

 寝ている少女も笑いつつ言った。

 くそ、寝言でバカにしてくるとは。お前のせいだろ。

 この様子だと、脳ミソ書き換え手術は失敗に終わりそうだ。


 それにしても、自分の腹から女の子の上半身が突き出ている光景というのは、気分のいいものじゃない。

 謎の寄生生物に食い破られているみたいだ。

 ハリガネムシみたいに尻から出るのとどっちがマシか。

 ハリガネムシは、カマキリを宿主にすることで知られる寄生虫。寄生されたカマキリが水辺に近づくと、お尻からコンニチハして、うねうねうねうね……。と以前に見た動画を思い出してしまい、寒気がした。

 特に腹と脚が冷える。

 うどんが消化不良となって下から流出したらどうしよう。

 やがて、少女が目を覚ますことなく最後の時限が終了した。

 四本足に見えることを除けば、下半身は正常だ。実によかった。

 学校の『大』用トイレは利用したくない。

 ハリガネムシが出なくても、舞い戻った花子さんがブチギレして昼間に出てくるかもしれない。他の男子生徒に見つかることも避けたい。

 ホームルームも終わり、周りの生徒が次々と席を立つ。

 椅子をそっと動かして、俺も同様に立ち上がった。伝説少女はまだ椅子の上で睡眠中だ。

 このまま帰ろうと思い、背を向けて歩き出そうとしたとき、うしろで大声がした。

「待って!」

 振り向いた。

 声は伝説少女ナギーのものだったが、姿勢が変わっていない。また寝言らしい。表情はしかめっ面になっているが、起きる気配が無い。

 俺は再び背を向けて歩き出した。

 今度は声がしなかった。

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