第9話 レッツバトル
「…見つからない!!」
コリン、ローリィ、ハルの三人は森の畔にて嘆いていた。
出発したのは朝早く。
それなのに今はもう太陽がてっぺんにきてしまっている。
三人にとっては一瞬の出来事のように思えた。
出発し、人を見つけ、片っ端から白い少女の行方を聞きまわっていたのだ。
「…収穫は?」
「……ゼロよ…」
「はぁ…ずっと聞いてまわってましたけど、ここまで収穫がないのはさすがに答えますね…」
コリンは木に寄りかかり、ローリィはあぐらをかき、ハルは草むらに座り込んでしまった。
「そもそも、コリンはなんで白い少女を探しているのよ。大した情報も知らない癖に」
「…それは私が聞きたい」
「意味わっかんないし!じゃあなに?これじゃああたしとハルはコリンに振り回されてるってことじゃないの!」
「あ、あの、ローリィさん…」
ハルが止めようとしたが、時既に遅し。
この二人が言い争いをし始めたら、きっと誰にも止めることは出来ない。
それはハルもわかっていた。
いや…リリンは別か。
「ふん…私はお前に一緒に任務についてこいと言った覚えはない。勝手についてきたのはお前のほうだ」
「何よ!その口の聞き方!気に入らない!そもそも白い少女を探せっていう任務が無理な話よ!すぐに消えちゃったし特徴もよく見えなかったし!白い少女を探すくらいなら、かぐや姫の何題のほうが簡単に思えてくるよっ!」
「…か…かぐや姫…?」
「ハルは別に知らなくていいの!」
「え…えぇ…?」
コリンとローリィは睨みながら、お互いに火花を散らしていた。
こんな状態があと何時間続くのかと、ハルは頭を抱えながらそのまま眠る体勢になった。
その時
「……ん…?」
「なんか…変な臭いがするわね…」
「花の、香り…?…あ、あれれ…、」
「うぇっ!?ちょ、ちょっとハル!?」
ハルはよろよろと起き上がったかと思うと、そのまままたバタリと倒れ込んでしまった。
「……この臭い…催眠効果のある…魔法…!?」
「だ、だめー…ねむいぃ…」
コリンとローリィも眠気に勝てず、その場にバタリと倒れ込んでしまった。
――――――――――――
「……んっ…」
目を覚ましたコリン。
太陽はまだてっぺん。あれからあまり時間は経過していなかったようだ。
しかしコリンは、ある変化に気がついた。
「…ローリィとハルがいない…それにここはさっきいた畔じゃない…」
「あっ、起きたんですね!」
「…っ!?」
「うわっ!?」
コリンはすぐさま体を起こし、杖を召喚して声のしたほうに魔法を放った。
「い…いきなり攻撃してくるなんて酷いですっ!」
「…?…お前は誰だ?」
声の主は、髪をおさげにくくり、全体的に緑の色を使った服を纏った小さな少女だった。攻撃をくらって尻餅をついてしまっている。
(ミニスカートのせいで下着が丸見えだが、そこは突っ込まないでおこう。)
「うー…いたた…」
「ほう…サークル族か」
「…あっ…はい!そうです!」
紫色の瞳に黒色の髪。コリンはすぐに自分と同じ種族であるということに気がついた。
「コリンさんをここまで運ぶの、大変でしたぁー」
目の前の少女は立ち上がり、苦笑いをした。
コリンはすぐさま少女の放った言葉に反応し、少女に近付いた。
「わわっ!?」
「ちょっと待て。何故お前は私の名前を知っている?そして何故ここに私を運んだ?……まさかあの催眠魔法はお前の仕業か?」
「ま、待って下さいよぉ!そんなにいっぱい質問されるとどれから答えたらいいかわかりません!」
「なら一つずつ質問してやろう。催眠魔法はお前の仕業か?」
「…そ…そうです」
「なら何故私をここに運んだ?」
「え…えっと…」
「何故お前は私の名前を知っている?」
「……ふふん♪」
「……!」
少女はコリンから離れ、一回転して後ろに遠ざかった。
「私の名前はサリー・アクア!貴方と同じサークル族です!質問は後でいっぱいしてくれて構いません!ですから今は……」
サリーは手を上に翳すと、そこから杖が召喚された。
コリンの杖とは少し形状の違う…何故か杖から翼がはえているサークル族の杖を、サリーはコリンに向かって突きつけた。
「いざ、尋常に勝負です!」
「何故そうなる…」
―――――――――――
一方、ローリィもコリンと同じような状況に陥っていた。
ローリィの目覚めた場所は森の入口。そして視線の先にはローリィと似た少女が立っていた。
青色の瞳に茶色の髪…そう、ローリィと同じトライ族だ。
少女は橙色を主に使った服を着ていて、頭にはどこかの民族を思わせるかのような羽根のついたカチューシャをつけていた。
そして、少女の左側には剣が…
「わたくしの名前はイオン・キャロライン。さあ、お手合わせ願いますわ」
イオンと名乗った少女は脇差から剣を抜き、両手で構えた。
「……なにそれ、訳わかんない」
「ガクッ…もう!ノリが悪いですわローリィさん!」
「ノリも何も…いろいろ質問したいけど、いろんな事情で省くよ」
「ふふ…的確な判断ですわね。それに貴方はそういう性格でいて欲しいですわ」
「初対面の人にそんなこと言われたくないなー…」
「いいのよ」
「いくない」
「…そんなことはさておき、早く手合わせしてくださらないかしら?同じトライ族同士、力比べがしたいのですわ」
「ったく…しょうがないねぇ。何が狙いなのか知らないけど、今日はあんたに従ってあげる」
ローリィは鞄からクナイを取り出し、右手で持って前で構えた。
二人の目は、真剣そのものだった。
―――――――――――
一方こちらはハル。
場所は先程いた畔と変わっていないが、そこには先程まではいなかった人間がハルを見下ろしていた。
ハルは……寝たままだ。
「…すぴー…」
「………起きぬ」
「……すぅ…私のツインテールは食べものじゃないですってぇ…」
「…………」
「…ん…あれれ…?」
「起きたか…」
「…!?うわぁっ!?あ、貴方は一体…!?」
ハルは目の前に見たその人間にびっくりし、後ろへ飛んだ。
その人間は顏から下まで全て黒いフードで覆われていたのだ。ハルが驚くのも無理はない。
「…?あぁ…驚かせてしまったようだな…すまない…」
「あっ…」
その人間は顏を覆っているフードを取った。
コリンよりも少し年上なのだろう、ハルは息を飲んだ。
赤く睫毛の長い瞳が、ハルを見据えている。
「…お…女の人…それに、貴方はもしかして…」
「ああ、フラン族だ」
「わあぁ…」
ハルは初めて出会った同類に好奇心の目を向けた。
実のところ、ハルはあまり自分の同類は家族以外にあまり見たことがなかったのだ。
だから物珍しいのだろう。
「あっ、私の名前はハルっていいます!一応…風術師です!」
「…コレット」
「えっ?」
「私の名だ」
「…!わ、わかりました!コレットさん、よろしくお願い致します!…って…よろしくお願い致します…?」
「………」
コレットは何も言わない。ハルを見据えているだけだ。
「……っ!?」
だが、コレットの周りにはゆっくりと黒い蝶が漂い始めた。
「こ、この蝶は一体…」
「黒蝶を操る…私の特殊能力だ」
「…特殊…?」
「フラン族は特別な力を持っているものが多い。それは先天性後天性と様々だが…お前の風を操る能力もフラン族の血が流れているからだ」
「な、なるほど…」
「……さて。そろそろサリー達の遊びに付き合ってやるか」
「わっ…!?…っっ!」
コレットがハルに指をさしたかと思うと、蝶達は一斉に槍となり、ハル目掛けて飛んできた。
ハルはすかさずペンダントに魔力をため、風でその蝶を防いだ。
「ほう…」
「い…いきなり攻撃なんて心臓に悪いですよ…。でも、いい運動になりそうです!」
「はあ…後でサリーをしっかり叱っておかないとな」
こうして、同類同士の戦いがはじまる