第3話 任務開始
「着いたー!結構遠かったねー」
「そうだな…」
二人は本部を出てしばらく歩き、任務先へと着いた。
ラケーターは目立った行動はできない。
そのため任務先への移動手段は、徒歩または町から出ている汽車だけだ。
「リリン様もラケーター専用の乗り物とか発明してくれたらいいのに…」
「……リリン様がそんなことができると思っているのか?」
「わかってるよ。まあ、あたしはそんなものいらないけどね。あたしは忍だし、サークル族にはないトライ族きっての足の速さがあるし♪」
「………」
先程からコリンは、ローリィのこの嫌味にしか聞こえない発言に腹を立ててばかりいた。
後悔しかなかった。
――あの時、きっぱりと断っていたらどんなによかったか…
「任務の内容は覚えているな?」
「この付近の集落の全滅。この辺はサークル族のなかでも魔法の能力が高いものが多いから、暗殺レベルで殺しに行かないとめんどくさいことになるね」
「ああ…目立った奇襲は返って仇となる」
「クスクス…」
「……なにがおかしい?」
ローリィはコリンと集落を互いに見ながら、笑い出した。
「いやさ、なんか滑稽だなって」
「滑稽…?」
「だって、サークル族がサークル族を今から殺そうとしてるんでしょ?それってなんていうと思う?同胞殺しっていうんだよ……っ!?」
笑いながら言うローリィの目の前に、杖が現れた。
コリン専用……正しくはリリンから譲り受けた、リリンの杖だ。
赤い大きな水晶は、今にも魔法を放ちそうな光を放っていた。
「…それがなんだ?」
「えっ…」
「ラケーターにはそんなことは関係ない。お前だってラケーターだ。お前が今まで任務で殺した人間が全てお前と違う種族だと思っているのか?」
コリンの目はローリィを嘲笑っていた。
それは、今まで多くの人間を殺してきた者の目だった。
「……っ、ふん、うっさいわね、魔法しか使えないサークル族の癖にさ!」
「黙っていろ」
「…んっ…!?」
コリンは突然ローリィの口を手で塞ぐと、物陰に身を隠した。
「な、なにして…!」
「大声を出すと気付かれる…。忍がそんなことも忘れたのか?」
「…っ!……」
ローリィは大人しくなった。
「それと、先程からサークル族が魔法しか使えないと思っているようだが、そんなことはないのだぞ?」
「…どういうことよ」
「こういうことだ」
「…っ!」
コリンは杖を消し、服の胸ポケットに入っていた小さなナイフを二本取り出した。
「暗殺にはこちらのほうが最適だ。さっさといくぞ、忍」
「……あたしの名前はローリィだっつの!」
ローリィも自分のバッグから武器を取り出した。
杭のような先端が上下に付いているクナイだ。
「そのクナイ…トライ族専用のだな」
「トライ族にしか扱えない代物だよ。クスクス…」
「まあお前には魔法の杖は扱えないがな」
「なによっ!差別反対っ!」
「人のことは言えないと思うが…」
二人は言い争いをしながら、走り始めた。