赫映の名の下に、そして、新たな物語へ
この物語も、ここで一つの区切りとします。
これは、千年の借りを背負った一人の少女(赫映もんろ)と、色を失った世界で懸命に生きるもう一人の少女(岬)、そして、二人の狭間で絆を見出した一人の青年(尚)の、静かで、少し切なく、そして温かい物語でした。
色とは何か。命とは何か。罪と赦しとは。受け継ぐこと、そして、新しく始めること──。
もし、この物語があなたの心に、ほんの少しでも、静かな共鳴を呼び起こしたなら。もし、もんろの最期の決断や、岬の一歩一歩の歩みに、胸を打たれるものがあるなら。それは、私にとって、何よりも嬉しいことです。
この物語を紡いだのは、私です。色あふれる世界の片隅で、小さな光と影を見つめ、言葉に紡ぐ者です。
私の物語は、いつも、どこかで「欠け」を抱えながら、それでも前を向いて歩こうとする人々を描きます。圧倒的な力ではなく、ほころびや優しさ、そして静かな決意が、世界をほんの少しずつ変えていく瞬間を書き留めたいと思っています。
あなたは、この物語のどのような瞬間に、心を動かされたでしょうか。
赫映もんろが、自らの全てを賭けて世界に色を還した、あの決断の瞬間。
それとも、岬が、初めて「自分の歌」を口にした、診療所の黄昏のひととき。
はたまた、ただ、桜の花びらが舞う中、手を繋いで歩く、それだけの平和な時間。
物語は終わります。でも、彼らの生きる世界は、これからも続いていきます。
岬の歌は、これからどんな旋律を紡ぎ、どんな人に届くのでしょう。
尚と岬の静かな診療所には、これからもどんな「色」を求める人々が訪れるのでしょう。
色彩塔の光は、何十年、何百年後まで、優しく輝き続けるのでしょう──。
そして、もしかしたら、この世界の別の場所で、また別の、「色にまつわる物語」 が始まっているかもしれません。
例えば…
色彩塔の光を、ある「特殊な感受性」 を持つ少年が、文字通り「食べる」ことができると気付いてしまった、というファンタジー。
もんろの歌のデモテープが、なぜか「未来から来た少女」 の手に渡り、歴史改変を防ぐ(あるいは引き起こす?)キーとなる、SF青春物語。
あるいは、「色を盗む泥棒」 と、「色を守る絵描き」 の、静かでユーモラスな追いかけっこ。舞台は、色あふれる小さな港町。
そんな風に、「色」 や 「感覚」 、 「記憶」 や 「優しい不思議」 をテーマにした物語を、私はこれからも紡いでいきたいと思っています。
もし、そんな「静かで、どこか不思議で、心の琴線に触れる物語」 に、またお付き合いいただけるようでしたら──
私の名前と、私が愛する「物語の種」を見つける視点を、どうか覚えていてください。
新しい物語のページを開く時、そこにはきっと、あなたへのささやかな「色」と「言葉」の招待状を用意しておきます。
それでは最後に、この物語の舞台となった、あの診療所からのメッセージを。
三年の月日は、確かに、ゆっくりと景色を変えていた。
診療所の前庭の桜は、今では毎年、見事な花を咲かせるようになった。近所の人々が、開花を楽しみに訪れる、小さな名所となっている。岬は、相変わらずそこで、季節の花を慈しむ。時折、患者の子どもたちに、花の名前や、その花にまつわる小さな物語を教えている。彼女の声は、とても優しい。
私たちの日常は、静かなものだ。診療所の仕事。庭の手入れ。一緒に作る夕食。季節ごとの、小さな旅。特別なことは、何も起こらない。それが、どれほどありがたく、幸せなことかを、私たちは知っている。
岬は、歌い続けている。もんろの歌を、時折、懐かしそうに口ずさむこともある。だが、彼女の歌のほとんどは、今、彼女自身のものだ。彼女が紡ぐ詞は、風の匂い、雨音、診療所を訪れる人々のほのかな笑顔、そして、私との何気ない会話から生まれる。旋律は、もんろのものとは違う、どこか穏やかで、土地に根づいたような温かさを持っている。彼女は、レコーディングもデビューも望まない。ただ、この場所で、必要とする人(かつてもんろの歌に救われたように、何かに悩む人)のために、そっと歌えればそれでいい、と言う。
時折、遠藤結衣と宗一郎が、今ではもう歩き回るようになった元気な娘を連れて訪ねてくる。その子の名は、「もん」とつけられた。結衣は、「もんろさんからもらった、たくさんの『紋様』のように、彩り豊かな人生を歩んでほしくて」と説明してくれた。小さな「もん」は、岬のことが大好きだ。彼女が優しい声で歌う、オリジナルの子守唄でないと、なかなか寝付かない。
この静かな日常の向こう側、東京の空のどこか高くで、あの色彩塔は、今でも変わらず、優しい「もんろ色」に輝き続けている。もはや、人々はその色に特別な奇跡を求めたりはしない。街の灯りの一つ、心落ち着く風景の一部として、そこにある。ただ、ごくたまに、心細くなった誰かが、ふとその優しい光を見上げ、「ああ、きれいだな」と呟く。それだけで十分なのだ。もんろが残した色は、そうして、人々の日常に静かに溶け込み、ささやかな救済であり続けている。
とある街の小さな診療所より
この世界は、まだまだ、言葉にできないほどの 「美しい色」 と、そっと耳を澄ませば聞こえる 「かすかな物語」 であふれています。
あなた自身の中に、あるいはあなたの日常のすぐそばに、そんな 「特別な色」 や 「心に残るメロディ」 はありませんか?
私たちの診療所は、体の不調だけでなく、「心の色が少し褪せてしまった時」 にも、開いています。話を聞くこと、庭の花を見ること、あるいは、ただ静かな時間を共有すること。そんなささやかなことから、ほんの少し、心に色が戻ってくることもあるかもしれません。
開所時間: 心に少し余白ができた時。ふと、誰かの温もりが恋しくなった時。
担当: 岬(優しい歌声とお茶の出せる準看護師)、私(聞き役に回るのが専門の元・物書き志望)
すべてのささやかな色と物語を、大切に。
あなたのその 「感じたこと」 を、大切に育ててください。
赫映もんろと岬の物語は、ここで終わります。
どうか、あなたの今日という日にも、優しい色と、温かな物語が訪れますように。
また、いつか、別の物語のなかで、お会いできますことを。
(了)




