第19話 鰻 焼蔵と言う男2
小原は鰻と共にスタジアムに向かっていた
そんなに距離があるわけじゃない 歩いて5分程度だろうか?
小原は自分からは特に話しかけることは無かった
(鰻)あ、おっさんは 新しい監督なんすかね?
(小原)ああ、違いますよ ただのマッサージ担当です 家元さんにバイトで雇われまして
(鰻)あ、バイトなんすか てっきり 偉い人なのかと、、、
バイト というのに 少し気持ちが楽になったのか?はたまた 見下されたのか
鰻はおもむろに話し出した
(鰻)あ、母親から聞いたんですよね?父の事とか
(小原)ああ、ハイそうですね 別に言いませんよ?家元さんには
(鰻)あ、いや まあ そっすね まあ黙っててもらった方が、、、
家元には理由を言ってなかったのだろうか? まあ個人的な理由を言う必要は無い
大抵のプロも 辞めたいときは(一身上の都合)くらいしか 言わないものだ
(小原)でも 気持ちはわかりますよ 私の親もそうでしたから
(鰻)え?おっさんもそうだったんですか?
(小原)ええ 母親がやっぱりがんで 抗がん剤治療になりまして
女性なのに 髪の毛がほとんど抜け落ちて ウィッグを買ってきて被って
体重も20キロくらい落ちて 頬はこけて やつれて 本当に見てるだけで 辛かったです
まあ、今はぴんぴんしてますからね 過ぎた話ですけども
(鰻)あ、じゃあ うちの親父もそのうち 元気になるんですかね?
(小原)まあ 医者じゃないのでなんとも言えませんが
症状が段々悪くなってるわけじゃないのですよね?
(鰻)あ、それはそうですね ちょっとずつですが 食事もするようになったり
(小原)じゃあまあ 悪くはなってないのでは? ひどい場合は少しずつ元気なくなるはずですし
(鰻)あ、じゃあ よかった少し安心しました
鰻は胸に手を置いて はあ と一言ため息をついた
本当に心配だったのだろうか? まあ 彼の若さで 親がどんどんやつれていくのを見るのは
例えようが無いくらい 切ない 彼としては 頭がぐちゃぐちゃになるくらい 心配してたのだろう
(鰻)ホント 家元さんには申し訳ないって思ってるんですよ
去年 フェニックスがNFLからN3昇格間近の時 父が検査でひっかかって
で、入院だの 腹切るだのってなって もうパニックになっちゃって
母さんが 手 包丁の切り間違いで血まみれにしながら ウナギの仕込みしてたりして
だから 昇格戦終わったら 辞めるって言って したら 家元さんに 登録だけさせてくれとか言われて
その時は 落ち着いたら戻るって約束したんすけど、、、
そこまで言うと 何か溜めてたものが 噴き出したのだろう
鰻はぼろぼろと泣き出した
(鰻)もう、なんか 母親、、、が がんになったら ど、どうしようって、、、
鰻はそんなことを考えていたのか、、、そのまま 鰻は泣き崩れてうずくまってしまった
父がいなくなるかもしれない そして 無理をさせれば 母も、、、
そんな どうしようもない 最悪の想像が頭から離れなくなった
痛いほどよくわかる、、、
だが、、、
小原は先人として(彼が気づいていない事)を伝える義務があると思い語り掛ける
(小原)鰻さん 酷なようですが 私には伝える義務があると思うので言いますね
まもなく フェニックスは無くなります
(鰻)え? ど、どういうことですか?
(小原)フェニックスは今年連敗続きで週末の試合で負ければ降格が確定します
週末はNFLとの入れ替え戦なのです
(鰻)ええっ そんな
鰻はまったく知らなかったのだろう 日々の仕事に追われ 情報を確認する暇も無かったのか
もしくは フェニックスの話を聞くと辛かったのか?
小原の話を聞くと 驚いた様子を見せていた
(鰻)で、でも 所詮相手はアマチュアのチームですし 勝てますよね?
フェニックス結構強い人居ますし
(小原)私も詳しくは知らないですが 鰻さんが知ってる選手はおそらく9人近く引き抜かれています
今、去年の主力で残っているのは 九蘇真面目さんくらいだったはず
(鰻)ええ?川西さんとか いないんですか?
(小原)川西って小岩のストライカーですか? ああ、彼は市川だったんですね
(鰻)ええ?小岩に行ってたんですか 川西さん
小岩のエース川西が市川所属だったとは驚いた
確かに 彼がうちに居れば 色んな戦略がたてれただろう
彼クラスの選手が後8人もいたのだとしたら 全然今シーズンの成績は変わっていたかもしれない
小原は近くにあった ベンチに腰掛けると リュックに入れていた自分のノートパソコンを
おもむろに出した
(小原)PSマネジメントってゲームのシミュレーターを使って100戦以上シミュレートしたので
見てください
そう言うと 小原は鰻にPCを見せ シミュレーターの(試合開始)のボタンを押した
結果は0-0で引き分け
(鰻)あ、引き分けじゃないですか これなら、、、
が、後のPKで 3-0で 市川は敗北する
(鰻)あ、負けた
(小原)ここまでは 運がイイと0-0になるのですが 必ずPKは負けるんです
PKは経験が勝敗を分けるので うちのチームは明らかに経験が足らない
家元さんもGKとしては 今期のNリーグで最もセーブ率が低い選手です
実際足のケガもありますし 試合ではシミュレーターより 悪い内容になるかもしれません
(鰻)市川が点を入れた事は 100戦やって一度もないのですか?
(小原)無いです 残念ながら ありとあらゆる 奇策やフォーメーションを試しましたが
守備が得意な印西から点を取ることはできませんでした
鰻はしばらく 呆然としていたが おもむろに口を開いた
(鰻)ぼ、僕が居たらどうなりますかね?
小原はその言葉を聞くと 無言で 鰻をチームに入れたパターンで試合を始めた
ぴっぴー 1-0で市川の勝利
(鰻)うっわ こんな戦法で、、、
そう言うと鰻は黙った
(小原)これが 私が伝えたかった事です
そう言うと小原はPCをリュックにしまって スタジアムに向かった
そのまま立ち尽くす鰻を残して
第20話に続く




