(アッシュ)91 バカみたいだね
(アッシュ)
「へぇ〜結構強いんだ、アンタ」
影から上半身を出して誂うように言ってやれば、ローレンは今更ながらに足をガクガクと震わせ、その場にへたり込んでしまう。
「……元々私は戦うのが苦手だし、したくないの。
マーメイドだって、いつもは疲れた時におでこを冷やして貰うくらいしか……。」
へたり込んでるローレンがこめかみを抑えて唸ると、マーメイドはそんなローレンの頭にちょこんと座った。
どうやらローレンの頭を冷やしてくれている様だ。
「契約の事はよく知らなかったけど、それだけ強いならさっさと逃げ出せたんじゃないの?」
「…………。」
最初ローレンを見た時、それなりの実力があるのは分かった。
だからココから抜け出せる方法なんていくらでもあるのに……と不思議に思ったのだ。
気まぐれに質問してみれば、ローレンは困った様に眉を下げながら笑う。
「ありもしない愛情を信じたかったのかな……。初めてだったから。優しい言葉をかけられたの。
私、両親が厳しかったから褒められたことなかったし、早くに死んじゃったから……。
孤独って怖いわね、自分の視界や意思を全部奪う。」
「……バカみたいだね。」
これはローレンに言った言葉ではない。
ローレンを通して浮かんだ自分に向けた言葉だ。
一歩外に出た事で、自分の今までいた場所がどんなにクソみたいな場所だったのかを知った。
孤独は自分の視界を隠し、進もうとする足を奪う。
ソコを出ないと、孤独は癒せないのに────ホント不思議。
ローレンは俺の暴言の様な言葉に対し全く気を悪くした様子はなくて、震えている手を思い切り叩く。
「そう。バカみたいだった。子供まで巻き込んで……何やってたんのかしらね。
貴方に『お前は加害者だ』って言われて、突然目が覚めちゃった。」
「まぁ、これから頑張れば?」
素っ気なくそう答えると、ローレンはコロコロと少女の様に笑ったが、すぐに真剣な表現に変わった。
「ゲリーの契約モンスターの持つ加護は、こんなレベルじゃないわ。多分、相当な契約コストを払って手に入れたのよ。
きっと私のマーメイドでは倒せない。
だからどうにかして、この事を上層部へ伝えないと……。」
「証拠がないと上は動かないからねぇ。でも───モンスターにつく加護ってそんなにすごいんだ?
『加護はその者の器の強さによって強さが決まる』『加護にもランクがある』『何かの条件をクリアーする事で、そのランクレベルも上がっていく』
そう言ってたけど……。」
モンスターとの契約や加護については、ある種特殊性があるため、その筋の人に聞くか、もしくはこれから受ける予定の聖グラウンド学院の様な、より詳しい教育機関に行かないと知識を得ることはできない。
だから気まぐれに、その事について聞いてみる事にした。
あとでルークに自慢してやろうかな♬
その程度の軽い気持ちで聞いてやったのだが、ローレンは結構真剣な顔で、それに答える。
「一般人は、教会で行われるモンスターとの儀式に成功して初めて、神官たちから説明を受ける。
だから知らない人が多いんだけど、モンスターは召喚しただけでは従ってくれないし、ましてや加護付きならなおさら。
そうすると、自分の足りない分のレベル差は何かで埋めないといけないんだけど……同じモンスター、同じ加護でも結構な差があることが知られているの。」
「へぇ、不思議な話だね。」
ローレンはコクリッと頷き、サンドがぶっ飛ばされて、コチラを攻撃してこない食膳・ワームを見つめた。
「最初にモンスターに運良くついている加護にはランクがあって、それはランダム、もしくはモンスターが何かしらの行動をして加護を手にした時の状況にもよるのかも。
でも、その後は契約者と共に手にした経験によってそのランクは変化するみたい。
それはモンスターだけじゃなくて、加護を持った人間も同じみたいだから、間違いないわ。」
「なるほどね。じゃあ、モンスターだけに頼ってるだけだとああなるって事か。
頑張るいい子しか強くなれないって事?」
俺が倒れているサンドを見て、プッと笑ってやると、ローレンはゆっくり首を横に振る。
「残念だけど、ランクを変化させるのは世で言われる様な善の行動だけじゃないみたい。
ゲリーみたいに、人を傷つけば傷つけるほどランクが上がる事もある。
多分そういった相性もあるんじゃないかしら。」
「ふ〜ん。相性ねぇ?」
精霊は気まぐれだというのは常識的に知られている。
つまり、気まぐれに人やモンスターに加護を与え、その与えられた加護をランクアップさせられるかは相性と努力……そういう事。
まぁ、結局人生って運と努力の総合で、ただボンヤリしているだけだと、な〜んにも手に入らない。
でも、そう考えると積極的に動いて人を使う様なクソ野郎も得しちゃうのか……。────ムカつく。
思わずムッとししながら、影から飛び出し着地した瞬間────サンドが突然ムクッ!と起き上がり、血まみれの顔でローレンを指さした。
「て、て、てめぇぇぇ!!許さねぇ!!
ワーム!何してんだよ、このグズ!!とっととそいつを始末しろぉぉぉ!!」
《…………。》
顔を真っ赤にして怒り狂うサンドとは反対に、ワームの方は冷静に、サンドとローレンの契約モンスターを見比べる。
すると突然サンドがワームに向かってキレだした。
「────はぁっ!?今はそんな事言ってる場合じゃねぇだろうが!そもそもお前が弱いからこんな事になってんだ!!
後で適当な人間食わしてやっから、それで我慢しろ!!」
まるで何かしらの会話が成り立っている様に怒鳴るサンドに違和感を感じたが、ローレンは何か察した様だ。
首を静かに振っていたから。
《グォォォォ!!!》
ワームは突然雄叫びのような声を出すと、何と俺達に────ではなく、契約者であるサンドへ食らいついた。
「…………っ!!??……がっ……??」
すると、上半身をスッポリ食いつかれたサンドは苦しそうなうめき声をあげてバタバタと足をバタつかせる。
「ひっ……あ……た、たすけ……う……や、やめっ……!!あああああああっ!!!」
そのまま悲鳴を上げていた様だが、ワームは気にせず身体を蠕動させて、ゆっくりゆっくりとサンドの身体を奥へと押し込んでいった。
────ゴクンッ。
そして飲み込む音が聞こえた後、少しだけワームの身体の中で何かが蠢いている様に見えたが……その動きはやがて完全に消える。
《グググ〜ッ♬》
美味しく食べてご機嫌になったらしいワーム。
更に倒れているサンドの仲間たちも、ついでとばかりに次々と飲み込んでいき、阿鼻叫喚の悲鳴がなくなる頃には、その場に残ったのは俺達だけになってしまった。
「…………。」
「あ〜らら。」
ローレンが目を瞑って黙ってる傍ら、なるほどねと納得しながら手を後ろで組んだ。
多分、あのミミズもどきには、マーメイドを相手にするリスクを犯してまで、戦う絆も情もなし、それをするなら、それ相応のコストを寄越せとでも言ったんだろう。
────が、それを断ったため契約はアッサリと破棄され、元々人間を襲うモンスターに戻ったと、そういう事だと思われる。
「なんにせよ自分だけに都合のいい関係なんてないって事だね。ご愁傷さま。」
俺の軽い調子にローレンは青ざめていたが、その直後にワームがこちらを向いたのでハッ!とした表情で叫んだ。
「下がって!土の中から攻撃が来る!」
ローレンが叫ぶのと同時に、ワームは土の中へ。
アタックのタイミングを悟らせないためか、気配を消してアチラコチラと土の中を動き回る。
「土の中は土の加護の力が最も生きる場所。低ランクとはいえ、手強いはず!」
「ふ〜ん。そう。」
ローレンとマーメイドが警戒する中────俺はトンッと軽く片足で地面を踏んだ。
すると────……。
────…………ドンッ!!!
《ピギャっ……っ!!》
地面を踏み込んだ時に生じた衝撃波を、ちょうど真下にいたヤツに当ててやると、弱々しい小さな鳴き声が聞こえた。
そして、先ほどの攻撃時に空いた穴から大量の血が噴水の様に勢いよく飛び出す。
「─────はっ……?」
「もうその攻撃には飽きたかな?ちょうどいいから土の中でさようなら。」
ローレンは、雨のように木々に降り注ぐ真っ赤な血を呆然と見つめていたが、血が出きったのか、ピュッ!と音を立てて噴出が止まったタイミングで、恐怖に引き攣った表情を俺に向けてきた。
ちなみに、マーメイドはローレンの後ろに隠れて、魚の足だけ少し見えている。
「あ、あなた……凄く強いのね……。」
汗をドバっとかきながら俺を見つめるローレンに、笑顔で答えてやった次の瞬間────……。
────ドンドンドン!!
今度は連続した爆発音が森の中の至る所で聞こえ、地鳴りが聞こえたと思ったら地面が大きく揺れる。
「……?」
「──っ!!しまった!」
周囲を見回す俺の横でローレンは絶叫をあげた。
どうやら何かが多方面で爆発したようで、山の上の方から地滑りが起き始めたのが視界に入る。
時限性の爆弾魔法の様だ。
「最初から各所に爆弾が仕掛けられてたんだわ!このままじゃ山崩れが起きて街が!」
ローレンが焦った様子で走り出そうとしたその時────宙に沢山のスクリーンのような物が浮かび上がり、そこに映る画像を見て、ローレンは足を止めた。




