(ゲリー)87 今後の計画は……
(ゲリー)
◇◇
「サンド、お前は低級エリア近くの防壁外で準備しておけ。
これから騒ぎが大きくなる前に、大掛かりな山崩れを起こす。
どうせならジョアンもそれに巻き込まれてくれるなら助かるが……そっちはどうなっている?」
《────はっ!それが……一度騒ぎになったという報告が入った後、連絡が繋がらず詳細は不明です。
恐らくジョアン様が街民共にいらぬ事を言ったのか、その鎮火に時間が掛かっているのかもしれません。》
「────チっ!面倒事を起こしやがって、あのクソガキが。」
忌々しさに歯ぎしりをしながら、一応俺の血が半分入ったガキ……ジョアンの事を思い浮かべる。
ジョアンは母親に似て、非常に物静かで大人しい性格をしていて、未だにモンスターの契約一つできない無能だ。
だから捨て置いても構わないが……生きててもらうと、俺の愛人との子供に家を継がす事はできない。
婿入りというのはとても面倒で、実力なくとも正当な血筋を持つ子息に権利が行ってしまう上、万が一ジョアンが存命中に他の子供が出来てしまえば、その子供は不義の子として、全ての権利を剥奪されてしまうのだ。
だから生きててもらっては困るのだ。
「……まぁ、ちょうどいいタイミングではあったか。
そろそろ行動に移せという、精霊王様の思し召しってヤツかもな?」
クックッと笑いを漏らすと、俺の指示を待つサンドに向かって言った。
「この街から誰一人出ない様、護衛達を車乗り場に向かわせ街を完全封鎖しろ。
本日大規模な山崩れを起こした後は、盛大な人間狩りをするぞ。
低級エリアにいる奴らが暴れだしたら切り捨ててもいい。ただし勿体ないから殺すなよ?適当に動けなくしたら肉塊状態にして敷地内の倉庫に保管しておけ。
俺はもっともっと上に行く。そのためにもっと強いモンスターと契約しなければ……。」
《承知いたしました。ウォンにも連絡がつき次第、そう伝えます。では……。》
ブツッとサンドの魔力気配がなくなり、電音鳥は空へ飛び立つ。
それをご機嫌で見守ると、目的地に到着した馬車が止まったので意気揚々と外に出て塔の中へと入って行った。
◇◇
「これはこれはゲリー様。<召喚の間>はもう既に準備してありますので、どうぞ中へ。」
【聖儀式塔】を担当している教会に属する神官長が、俺に深々と頭を下げて精霊神の像が立つ場所への道を作る。
聖儀式塔の中は一階部分が、誰でも祈りを捧げる事ができる共用スペースで、要は教会の様な場所。
そして、最上階の屋外スペースにモンスターを召喚する魔法陣が設置されている。
そこを<召喚の間>といい、巨大なモンスターが召喚される前提で作られているため、亜空間を使った元の空間よりかなり広い空間になっているのだ。
そのため、実際は基底を上にした逆三角形の様な形をしているはずだが、外から見ると上に行けば行くほど細い塔の形に見えるというわけだ。
神官長に即されるまま精霊神の前に立つと、足元に魔法陣が浮かび上がり、俺はあっという間に<召喚の間>へ。
白色の亜空間で広がった床に、上は現実世界の青空が広がっていて、実に心地良い。
「今日こそは新しい加護を持つモンスターが召喚できるといいが……。
ただ、仮に召喚できたとしても契約コストが高すぎると、別の代償を払わなければならないからな。さて、どうするか……。」
顎に手を当て、俺はその際の対応法について考えてみた。
モンスターとの召喚自体は、恐らく惹かれやすい何かがあると言われていて、その中の最も有力視されているのが、血筋だ。
その血は人間には分からないが、モンスターにとっては匂いが人によって違うのでは?と言われていて、好む匂いがあるのではないかとも言われているのだ。
それが合っているのかは分からないが、現に代々モンスターとの契約によって領を治めてきた【シリンズ家】も、大体の子孫達はみんなモンスターと契約できたらしいし、その要素があるのは間違いないと俺は考えている。
ただし、稀にその血筋を持っていても、ジョアンの様に全く反応がない血を持って生まれてくる場合もあるが……。
「好まれる血筋を持つ者の血を大量にばら撒いたら、高レベルなモンスターを召喚できるとも言われているしな。」
昔聞いた事がある話を思い出し、ククッと笑うと、頭には邪魔で邪魔で仕方ない正妻、ローレンの姿が頭の中に浮かんだ。
ローレンの最後の使い方は、もう決まっている。
あとはタイミングだけだが、そこで考えるのが契約コストについてだ。
あまり自分との実力の差があるモンスターだと、魔力の提供の他に、相手モンスターが満足する何かを与えなければならない。
ちなみに俺の今の契約モンスターであるドン・スネークは、昔ここを嗅ぎ回っていた諜報員の男を殺した際に、召喚できたモンスターだった。
その諜報員は、モンスターに好まれる血筋を持っていたのか、偶然か……どちらにせよ、運が良かったと思う。
しかし、召喚できたはいいが、レベルの差があり過ぎて契約コストが発生してしまった。
『一体どうすれば……。』
その恐ろしく圧倒的な存在感に震えながら考えていると、突然頭に直接響く声が聞こえたのだ。
『たく……さん……食べ……たい……。』
どうやらこれは召喚した際に聞こえるモンスターの声だったらしく、俺はすぐにバラバラになっている諜報員の男で遊んでいる仲間たちを指さした。
すると、ドン・スネークは、仲間達をあっという間に全員丸呑みにしてしまったのだ。
『ギャァァァァァァッ!!』
『げ、ゲリー様っ!!一体何をっ!!!』
阿鼻叫喚な悲鳴が聞こえる中、俺の中には力が漲ってきて、俺はこうしてドン・スネークとの契約を成立させた。
それからは定期的に人を食わせないといけなくなり、最初はただ食わせていたのだが……それがガレット様より紹介された護衛の一人が持つ召喚モンスターの加護と、非常に相性が良い事が判明する。
これなら苦労して魔力コストを稼がなくても、儀式ができる!
まさに誰も困らない最高の方法であった。
勿論今よりもっといい契約モンスターが召喚できた際は、ドン・スネークは新しい契約モンスターに始末してもらう予定だが、また『人の捕食』を要求してくれるかは分からない。
人の捕食なら大した契約コストではないので、良いのだが……。
死んでも誰も困らない人間は、この世に沢山いる。
俺はそれを使って、世の役に立っているのだから……別に悪い事をしているわけではないだろう?
「結局運次第って事か。まぁ、どうにかなるだろう。では……。」
俺が心の中で命じれば、足元には魔法陣が広がり、大きなドン・スネークが現れた。
いつもなら面倒くさそうなオーラが漂っているのに、どうやら誰かを食ってきたのか、機嫌は良いようだ。
「さぁ、これより召喚を始める。頼んだぞ、ドン・スネーク。」
そう伝えると、ドン・スネークの体から魔力が溢れ出て、それが部屋に設置されている召喚陣へと流れていく。
その光がどんどんと強く鳴っていくのを見つめながら────俺はニヤッと口元を大きく歪めて笑った。




