(ゲリ)86 ゲリーという男
(ゲリー)
「……なんだと?ウォンが街で騒ぎを起こしたのか。」
【聖儀式塔】に向かっている馬車の中、俺は肩にとまっている<電音鳥>に向かって、怒りを滲ませる。
すると、その先にいる<サンド>からは、大きなため息をつく音がした。
<電音鳥>
体長20cm程黒い鳥型Gランクモンスター
魔力の糸を繋いだ相手の声をどこでも届ける事ができる特技を持つ
強さは最弱レベルだがこの特技を使い、天敵の天敵と魔力を繋いで鳴き声を出して追い払ったり、獲物を狩る際、混乱させる目的で使ったりしている
ただし、肉食の彼らは人に協力する事で楽に肉が手に入る事を学んだため、現在は人と友好関係を築く共生モンスターとして有名
スキルによる通信ジャミングを受けないため、戦闘機関などでは重宝されている
《どうやら他の部下が愚かにも計画をペラペラ話し、それをジョアン様に聞かれてしまったらしいですね。
逃げ出したジョアン様を追いかけている際に、低級エリアからさほど離れていない場所でちょっとした騒ぎになったと。》
「面倒かけやがって、あの無能なクソガキが。
……まぁ、いい。なら計画していた低級エリアを含めて更に広範囲のエリアを潰すか。
ちょうど街の中に別荘が欲しいと頼まれていたのでな。リゾート地として新しく作り直すにはちょうど良かったか。」
俺はつい先日、電音鳥を使って届いた話を思い出し、ニヤッと口端を歪めて笑った。
◇◇
痩せた土地に、気候の変動が多い土地。
それを所有していた俺の実家である男爵家は、貴族と口を出せない程貧しく、平民と大して変わらぬ家であった。
『今日も生きていける事に感謝を……。』
そう毎食ひもじい食事を前に祈るのが、家族の決まり事で、そんな貧乏くさくて無欲な両親を、俺は心の底から嫌悪していた。
こんな最下層の暮らしは嫌だ。
『上』を見て見れば、広くて立派な家に住み、毎日美味しい物をたらふく食べ、最高級の家具や服を好きなだけ買い、そしていい女を沢山周りに囲っては幸せな生活をしているヤツだっている。
ふざけんじゃねぇぞっ!!
毎日毎日不満を抱え、自分の置かれた生まれと環境を憎み────気がつけば、俺は寝ている両親に斧を振り上げていた。
『ゲリー!?』
『何をするの!!』
それに気づいた両親は揃って悲鳴を上げたが……俺は容赦なくその斧を下ろす。
だって俺は悪くない。
悪いのは、俺をこんなクソみたいな環境に産み落とし、今もなおココにいる様に強制している両親だ。
だから────……そんな『悪』は倒さないと駄目じゃん?
『や……やめ……。』
『やめ……て……ゲ……リー……どうして……?』
斧を振り下ろす毎に、悪の根源である両親は悲鳴をあげながら小さくなっていき……最後は物言わぬミンチ肉になった。
コレが俺を苦しめたモノ……?
ただの肉になってしまったモノを、ぐちゃぐちゃに踏み潰してやった後、俺は思わず笑ってしまう。
あ〜もっと早くこうしてやればよかった!
その時の俺は20歳。
当主である父が死んだのだから、今度は俺が当主になる予定だが……それからは少々面倒な事になった。
金目当ての強盗を仕立て上げ、上手く誤魔化そうとしたのだが、俺の家が金目のものなど皆無なクソ貧乏なせいで上層部の一部が疑問を持ったらしい。
俺が殺したのでは?と、詳しい調査をという話になっていきそうだったが────そこで救世主が舞い降りた。
それがこの国のナンバー2のポジションについている雲の上の方、公爵系【ロゼイル家】の現当主<ガレット>様だ。
『なんと痛ましい事件なのでしょう。実のご両親を亡くし、さぞや気落ちしている中、こんなあり得ない容疑までかけられるなんて……。いささか非人道的だとは想いませんか?』
ガレット様はそう言って周りを黙らせ、俺を解放して下さったのだ。
緊張でガチガチになっていた俺を見て、ガレット様は慈愛の神様の様に微笑み、俺に言った。
「ゲリー、アナタは現在Eランクモンスターと契約していますよね?」
「────は、はい!初めての儀式で運よく……。」
しどろもどろに説明すると、ガレット様の笑みは深くなっていく。
「凄い才能ですね。Eランクと契約できるには、それなりの魔力量も然ることながら、契約するための才能も必要です。
アナタの様な能力を持っている方を探していました。どうか私の話を聞いてくれないか?」
遥か雲の上の方からそう言われれば「勿論です!」と答えるしかない。
内心ドキドキしながらガレット様の話を聞くと、要は『自分の派閥拡大のために仲間になって欲しい』との事だった。
こ、これは凄い話だぞ……!
こんなクソ田舎の男爵如きに転がってきたビッグチャンス。
上手く取り入る事ができれば俺は────……。
上流階級の仲間入り♡
欲望が目に宿り、、恐らく恐ろしいまでにギラギラと輝いていたと思うが……ガレット様は気にせず話を続けた。
「現在のらりくらりと協力要請を拒んでいる弱小貴族達ですが、厄介な事にそれぞれ特殊性が強く、それに関して中に潜り混む事が難しいのですよ。面倒な法律が多くてね。
だから、アナタにはモンスターとの契約で有名な、男爵家【シリンズ家】に婿入りしていただきたいのですよ。
あの家は現在一人娘であったローレンという女性が当主を務めているのですが、シリンズ家は代々Eランク以上のモンスターと契約できた者しか婿になれないという面倒な決まりがあるんです。
まずはそこに入り、油断させて家を乗っ取って下さい。
あそこは実りも多い良い土地ですので、いい収入源になるでしょうから。」
「は、はぁ……。」
同じ男爵家の中でも格上の男爵家【シリンズ家】は、代々モンスターとの契約によって街を豊かにしてきたと聞く。
そんな男爵家に婿入りとなれば……?
頭の中でこれからの明るい未来を思い浮かべ、口角が上へと上がり始めると、ガレット様はクスッと笑いながら俺の耳元へ顔を近づけた。
「シリンズ家のローレン嬢は、随分と控えめな女性でね。
その仕事の手腕は素晴らしいのですが、表舞台に立つのが苦手な女性なんだとか……。
まだ男を知らないまっさらな女性を『使う』能力も、アナタは長けているとお聞きしました。
私はキッカケを与えるだけですが、もっともっとその街を大きく発展していただけたなら……いつか我々の近くに居場所ができるかもしれませんねぇ?」
「────っ!!」
思わず背筋が凍りつくような悪のカリスマ性を目の当たりにして、俺は立ち尽くす。
今まで不満しかない自分の境遇に腹を立て、八つ当たりする様に女性を口説いては手酷く捨ててきた。
こんなクソみたいな人生を歩んでいる俺の愛を求め、そして惨めに捨てられる女の姿は、俺に優越感と爽快感による快感を与えてくれるからだ。
だから、男を知らぬ様な女を騙すのは大得意。
そんな女を騙して自分の欲望を叶えるのは楽しいし、こんな格上の相手と同じ土俵に行けるかもしれないという一世一代のチャンスまで与えられる……コレを絶対に逃すものか!
「承知いたしました。このゲリー、必ずやご期待に添えましょう!」
俺はすぐに深々と頭を下げて誓いを口にすると……ガレット様は美しい顔で微笑んだ。




