85 把握した
(ルーク)
「……っ……ガっ……!?」
「痴漢は全て駆除すべし。生まれてきた事を後悔させてやる。」
セレンが顔面血だらけになった痴漢男にニヤッ〜と笑うと、他の仲間たちは後退りして逃げようとしたが……セレンからは逃げられない!
どんどん捕まってはボッコボコにされていく男達と、外見が可憐で可愛らしい少女。
そのミスマッチバトルに、興奮し歓声まで上げ始めた街の人達の様子をただ見つめ、俺は仏の様に微笑んだ。
「手加減しているみたいだから死にはしないだろう。
────で、少年……いや、ジョアン君は、一体何を伝えたくて逃げていたのかな?」
「……っ………!」
ジョアンは安堵からか……その場にヘナヘナとへたり込む。
そして何かを言いたげに口を開け閉めしていたが────すぐにグッと口を閉じて俺を見上げた。
「此度の事、感謝する。しかし、あなた達はこの後すぐに街を出た方がいい。
相当な強さを持っているとお見受けする。だから、逃げ切る事はできるだろう。」
「あ〜……うん、まぁね。それはできるが……ジョアン君はちょっと困っているんじゃないか?
ならさ、貴族みたいだし、俺達に命じればいいじゃん。『自分のために協力しろって』さ。」
今まで耳に入ってくる貴族のありふれた話を思い出しながらそう言ってやると、ジョアンは迷うことなく首を振る。
「これは僕が戦わなければならない戦いです。上には上の、下には下の戦いがある。
上の戦いに下を巻き込めば、必ず下から順番に消される。
助けを乞うとはそういう事だと……ローレン母様から教えてもらった。」
「……なるほど、それは確かに正解だな。
うん。そのローレンママはよく分かって────ん??ローレン…………ジョアン……シリンズ……??」
チリッ!と記憶に何か引っかかりを覚えたが、どうしても思い出せない。
どっかで聞いた事がある様な……?
……ま、いっか!
思い出せないならそこまで大事な事じゃなかったのだと、諦める事にした。
大事な事ならそのうち思い出すだろう♬
アッサリ諦めた俺は、精一杯胸を張っているジョアンの頭をペンッ!と叩く。
するとジョアンは「痛っ!」と叫び、叩かれた頭を押さえて俺をキョトンと見上げてきたので、俺は何かを払う様に片手を振った。
「間違ってはないが、それじゃあ〜下を守る事もできないな。
今のお前は無力。戦う力がない生まれたての子鹿みたいなモンだ。
そんな弱いヤツは、そもそもこの無常な世の中で何も守れんのよ。残念ながら。」
「────っ!!」
図星だったのだろう。
ジョアンはカァ〜!と真っ赤になって、悲しげに俯く。
そんなジョアンにトドメを差すように、俺はチクチクと嫁いびりする姑の様に話を続けた。
「そんなヤツが『自分一人で〜』なんて言っても、結局最後は全員を巻き込んでバッド・エンドだ。
どんな事情があるのかは知らないが、それは間違いないんじゃねぇ〜の?」
「そ……それは……だって……。僕は……っどうしたら……っ。」
ジョアンは頭を抱えて、顔を大きく歪め、髪の毛を掻きむしる。
俺は、どうしようもない絶望に震えているジョアンの鼻をキュムッと摘んでやった。
「だったら、それをどうにかしてくれそうなヤツにめちゃくちゃ頼んで、助けを乞うしかない。
それが今、お前が選べるベストな選択肢じゃねぇの?
自分でできねぇ事は人を頼る、やってもらう。それで世界は回ってんだ。
全てができるヤツなんて世の中にはいないからさ、だから足りない分は他のヤツに頼んでやってもらって……いつか他の誰かを助けてやればいい。
上に立つ者ならこれって意外に大事な事なんだぞ〜。
一人だけで頑張る組織は絶対潰れっから。」
「────っ!」
ジョアンは泣きそうな顔をした後、すぐに地面に額を勢いよくつけ、俺とセレンに向かって大声で叫ぶ。
「お願いしますっ!!どうか助けて下さい!!このままだと、低級エリアの街の人達と母様は……俺の父、ゲリーに消されます。だから僕は……それを止めたいんですっ!」
「────えっ……?ゲリー様が……?」
「ローレン様が殺される?」
ジョアンの必死の訴えに、街の人達はざわざわし始めた。
多分あまりに衝撃的な内容に、半信半疑といった様子だろう。
視線は自然とセレンによってボコボコにされた痴漢男達へと向かい、その視線に気づいた痴漢男達は、『それ以上言うんじゃねぇ!!』とジョアンを脅すように睨んだが……ジョアンはそれを無視して言った。
「父はモンスターと契約するために、この街の人達の命を使おうとしているんです。今は何も返せませんが、この恩は必ず……!」
貴族の子息が平民……だと思っている俺とセレンに頭を下げる。
それがどんなに屈辱的であり得ない事かを知っているからこそ、周りの人達は驚いている様で、ざわつく声が大きくなった。
俺はハァ……と大きなため息をつくと、クルッとジョアンに背中を向けて、「セレン。」と名を呼ぶ。
後ろからは絶望した様な暗い雰囲気が漂ったが、続く言葉にそれは吹き飛んだ。
「セレンは街中で待機。臨機応変に好きに動いていい。俺とジョアンはゲリーの元に殴り込みをする。頼んだぞ。」
「分かりました。お任せ下さい。」
セレンはギャーギャーと叫び続ける痴漢男たちを殴りとばして強制的に黙らせると、近くの街人に縄を貰い、縛っていく。
俺は信じられない!と言わんばかりに目を見開くジョアンに、こいこいと手を招いた。
「最初にコイツらが来た時、俺達を助けようとしただろう?
あのまま逃げちまえばよかったのにさ。
絶対に敵わない相手に必死に立ち向かおうとする姿、めちゃくちゃかっこ良かったぞ。
それで貸し借りはチャラでいい。」
「────えっ!!そ、そんな事……っ。」
熟れに熟れたトマト色の顔色でそっぽを向くジョアンは、年相応の子供に見えるが……その心は既に立派な貴族子息のモノ。
必死に全てを助けようとする姿。
それに感動したから力になりたいと思うのは、人として当然の事だろう?
俺はすぐにジョアンの脇に手を差し入れ、そのままその体を持ち上げると、更に真っ赤になってしまったジョアンを地面に立たせてやった。
「ゲリーはあの【聖儀式塔】とかいう場所にいるんだろう?だったら向かうはそこか。」
「────!は、はい!」
ジョアンが大きく頷いたのを見て、俺は街の中心にドドンッとそびえ立つ塔を見上げる。
事情は大体把握した。
『魔力のバフを持つモンスター』『低級エリアの人達と母親が殺される』『この街の人達の命を使おうとしている』
この3つから予想するに、ゲリーのおかしなほど頻繁に行われている儀式は、人の命を消費して魔力コストを払っていたという事。
大方、今までどうにかして調達していた魔力コスト用の人間が、何らかの理由で足りなくなって、とうとう街の人を使う事にしたって所だろう。
「馬鹿野郎が……。」
ポツリと呟いた後は、この場はセレンに任せ、俺はジョアンと共に街の中心に建っている【聖儀式塔】とやらへと向かって走った。
そんな俺達をジッと見つめる瞳には一切気づかずに……。




