84 GOGO!
(ルーク)
「その少女から手を離せ。か弱き一般女性に手を出すなど、貴族の護衛にあるまじき行為だ。」
「……これは、ジョアン様が逃げ出したからでしょう?
大人しくしているならこの少女は当然解放しますよほら、さっさと────……。」
痴漢男はヘラヘラと笑いながら喋り始めたが、最後まで言えなかった。
我慢の限界を迎えたセレンに、腕をへし折られたから!
「ぎ、ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
「汚らしい腕をさっさと退けろ。気色悪い変態男め。」
痴漢男は変な方向に曲がった腕を離し、後ろに下がると、一番近くにいた仲間の男が即座に抜いた剣でセレンに斬りかかる────が、アッサリ避けたセレンはその男の真横に。
「────へっ?」
間が抜けた男の声を最後に、そいつはセレンの裏拳を喰らい、そのまま数本の前歯と血しぶきだけ残して吹っ飛んでいった。
「「「………………。」」」
ジョアン少年は勿論、街の人達もこれにはびっくりしたみたいで、目玉がポーン!と飛び出し、セレンを凝視している。
そうそう、セレンって凄く可愛らしい顔をしているから、まさか強いなんて思われないんだよなぁ……。
しかし、その内面は、売られた喧嘩は全て買う、我がパーティー1番の好戦的かつ短気な特攻隊長だ。
「まさか、最初に死ぬモブキャラがこんな強キャラになるとは……。」
腕を振ってコキコキと鳴らすセレンの顔は、阿修羅の様。
それを遠い目で見つめていると、突然痴漢男は盛大に逆ギレをし始めた。
「こ、こ、こ、この無礼者ぉぉぉぉぉ!!
平民の女如きが、この俺をゲリー様の専属護衛と知っての事かっ!!フザケやがってぇぇぇぇ!!」
「護衛がその程度の実力で務まるのか?随分平和で暇な街なんだな、ココは。」
セレンが煽る煽る!
いつもフザケては飄々と流すアッシュと喧嘩ばかりするから、これが普通になっている様だが……今更ながら、コレは普通じゃないと教えないといけないかもしれない。
オロオロと愛弟子の将来を心配していると、目が点になっていたジョアンが、ハッ!とした様子で叫ぶ。
「い、いけない!ウォンは加護つきのクラフト・マンティスと契約しているんだ!皆、逃げろ!!」
ジョアンの声と同時に、ウォンは魔力を練って片手を地面に着けた。
すると、ウォンを中心とした足元に魔法陣が浮かび、目の前に大きな体のクラフト・マンティスが姿を現す。
【クラフト・マンティス】
<レベル30>
体力:800
攻撃:120
魔力:50
知力:2
物理防御力:200
魔法防御力:220
精神力:110
俊敏:90
現在の状態:ウォンと契約状態
(加護)
【魔力バフの加護】
自身のクラフトした獲物を魔力エネルギーに変換し、バフとして与える事ができる加護
思わずスキルを使ってクラフト・マンティスを見た後、『あっ!』と驚いた。
か、加護がついている!
「魔力を与えるバフか。なるほど〜。」
色んな加護があるもんだと感動している間にも、ジョアンは周囲の人達に向かって逃げる様に指示を出す。
その姿は小さいながら上に立つ者としての器が見え隠れして……俺は大体の事情を察知した。
「もういいわ、めんどくせぇし〜。こっちでもいいんだよ、調達するのは。
ここも低級エリアに近い下層民が住むエリアだし、そう対して変わらんだろう。」
ヘッと馬鹿にしたように笑う痴漢男を前に、ジョアンは震える足で、皆の逃げる時間を稼ごうと必死に立ち続けている。
「セレン。いいぞ。」
「わかった。これくらい武器を使うまでもない。」
セレンはトンッと軽く飛んで、クラフト・マンティスの前へ。
「あっ!」と叫んで手を伸ばすジョアンを他所に、セレンは振り下ろされるクラフト・マンティスの鎌を見上げながら、引いた拳で────……。
────パンッ!!
クラフト・マンティスの胴体にセレンのストレートパンチ。
すると、打ち込まれた場所からグニャリと凹み、そのまま胴体に大きな穴が開く。
《ギギギッ……?》
自分の体の大部分がなくなった事で、鎌と手足、そして首は無惨にも地面に落下し、クラフト・マンティスは一瞬不思議そうな顔をしていたが……遅れて遅ってきた痛みに対し断末魔の声を上げて絶命した。
「────……はっ?」
「な……な……なな……っ?」
痴漢男と仲間たちは、ワナワナと震えて滝のような汗を掻く。
どうやら今のモンスターの強さに絶対的な自信があった様だが、セレンがアッサリ倒してしまったからだろう。
「ばっ、馬鹿な……っ!俺の……俺のクラフト・マンティスが……っ!」
「野生のクラフト・マンティスと強さは殆ど変わらないな。いや、寧ろ野生のほうが強い……?
本当に契約モンスターなのか?
普通契約モンスターは、野生のモンスターより格段に強いと聞いた事があったが……。」
クラフト・マンティスの首を踏み潰して完全なトドメを刺したセレンは、不思議そうな顔でソレを見下ろす。
俺も同じく『う〜ん……?』と首を大きく傾げた。
契約したモンスターは、契約者の魔力提供を受けた影響か、一般モンスターより格段に強くなるらしいのだが、それにプラスして加護とは別の特殊な能力を授かる事もあると聞く。
そう考えると、確かにセレンによって倒されたクラフト・マンティスにそれは感じなかったが……やはりこれには条件があるのだろうか?
「おっ、俺に手を出せば、ゲリー様が黙ってないぞ!何と言ってもお貴族様なんだからな!!」
「ほぅほぅ、お貴族様か。それは困るが……。」
セレンはチラッと俺の方へ視線を向けてきたので、俺はにっこり笑顔を見せた。
「────GO!」
「────はっ!」
俺が首を掻っ切るジェスチャーと共に『OKサイン』を出すと、セレンは痴漢男の真ん前へ飛び、その頭を鷲掴む。
「────はへっ?」
そして間が抜けた声を漏らしたそいつの顔を、セレンは自分の持ち上げた膝へ打ち付けた。




