83 お話しよう
(ルーク)
目の前には、目と口をポカンと開けている10歳ちょっとくらいの美少年がいて、俺の手にはその少年が自分の首を掻っ切ろうとしていたナイフが握られている。
自害自体は色んな理由があるから何とも言えないが、流石に十代の半ばにも達してなさそうな少年がするのには早すぎる。
よって、絶対に周りが悪い。そう判断した。
ホタホタ〜と胡散臭さ全開の大人の笑みを浮かべて少年に『悩みがあれば聞くよ!』とさり気なく言ってみた。
すると、少年は怯えてしまったのか微動だにしないため、助けを求めてセレンに視線を向けたが……セレンは突然抱きついてきた痴漢(?)に怒りを顕にしていて、それどころじゃないらしい。
すっごい顔でブスくれている!
「選んだ相手が悪かったな。え〜と……セレン────。」
『手加減でGO!』と言おうとしたその時、突然セレンに抱きついている男が面倒くさそうに喋りだした。
「フザケたことしようとしやがって……っ!あ〜……あぶっなぁ〜!
ったく、いい加減にしろや、契約できない無能子息が。
おい、そこの平民!そのナイフをこっちに渡せ。」
痴漢男は、ペタペタとセレンの頬にナイフを当てて、後ろに控えている数人の仲間らしき男達に向かって顎を上に動かし何やら合図を出す。
すると、突然ボンヤリしていた少年が俺の前に立った。
「なんてことをしてくれたんだ……っ。せっかくのチャンスだったのに……!早くそのナイフを返してくれ!」
「いやいや、駄目だって。だからおじさんと話を〜……。」
またしても自害しようとしている子供を優しく叱咤すると、その少年は辛そうに顔を歪めて首を横に振る。
「彼らの目的は僕なんだ。巻き込んですまない。あの少女も必ず助けなければ……。────クッ、どうしたら……っ……。」
「???」
その少年は随分と追い詰められている様子で、真っ青な顔でガタガタ震えている。
益々理由が分からず首を傾げたが、遠巻きで様子を伺っている街の人達に向かい、その少年は叫んだ。
「僕はシリンズ家の<ジョアン・ドン・シリンズ>!
逃げ出せる者達は今すぐ街を出よ!ここにいればいつかは……皆、殺されるぞ!」
物騒な物言いにギョッとする街の人達だったが、あまりにも突飛押しのない話だったのと、痴漢男とその仲間たちが、笑い飛ばした事で肩の力を抜く。
「ハァ……何を言ってらっしゃるんですかね。ジョアン様は……。
駄目ですよ〜小説の中の事と現実を一緒にしちゃ〜!
ゲリー様は、街民の事を第一に考えているとても素晴らしいご当主様ですよ。それはこの街が発展している事からも分かる事。
ジョアン様こそ、そんな父親を敬う事もせず、毎日毎日我が儘と妄想話ばかり……今回なんて、ご自分がモンスターと契約できないからといって、街の人の契約モンスターに悪さしようとして飛び出したんですよね?」
べらべらと流暢に飛び出す言葉は、非常に説得力があり、更に痴漢男が持つ本来の爽やかな空気感というか、いわゆるできる男オーラに街の人達はそちらを信じた様だ。
なんとなく『勉強から逃げちゃ駄目よ〜。』という叱咤混じりの呆れ顔を少年……ジョアンに向け始めた。
「ちっ違う……っ!本当なんだ!このままだと皆……いつかは殺され────っ。」
「ハイハイ、お仕事中の街の人達に迷惑かけてはいけませんよ。そんな物騒な嘘を言って、いつも使用人達を困らせて……。
そんな事では立派なご当主様にはなれませんよ!これからしっかり勉強しましょうね。」
ヤレヤレ〜と大げさに肩を竦めた痴漢男の仲間たちは、そのままジョアン少年に近づき、手を伸ばした────が、その手が少年に触れる前に、俺が手を掴んで阻止する。
「────あ”?なんだ?」
「いや〜。とりあえず落ち着こうぜ。ほら、後ろに下がんなよ、お兄さん。」
俺は掴んだ手を前に軽く押し出すと、少年に手を伸ばそうとした男は後ろへ吹っ飛んでしまい、男たちは一斉に俺を睨みつけてきた。
「おい、何のつもりだ?平民のガキが。死にてぇのか?」
「いやいや、何のつもりも何も、どうせお前らの方が嘘言ってんだろ?柄悪そうだし……。
そもそも大人が子供相手に何やってんだ、ロクデナシ共が。」
俺は100%の確信を持ってそう言ってやると、全員どんどんと雰囲気は険悪なモノになっていく。
正直見たわけではないので、いつもなら真意を確かめるまで口を出さないが、あきらかにこの現状はおかしい。
仮に子供が嘘を言っているとしても、自害までしようとするなんてあり得ないだろ〜……。
俺が随分と断言した言い方をしたからか、怒りを滲ませた痴漢の男は、大きな舌打ちをした後、俺に向かって怒鳴り散らした。
「証拠もないのに何舐めた口叩くんじゃねぇぞ?そもそもてめぇには関係ねぇだろうが!
今すぐ不敬罪で死罪にしてやってもいいんだぞ?
ほらほら、この女は妹か?それとも恋人か?そうしたらこの女も一緒に死罪になるが?
────あ、でも〜女の方は皆で楽しく遊んでからになるかもな?」
「……あ〜……うん、別に遊んだっていいけど、多分楽しくないと思うぞ?痛いだろうし……。」
セレンと遊ぶには実力の差があり過ぎて、手加減しても死ぬ可能性大なり。
そう確信して言ってやったのだが、痴漢男達はゲラゲラと下品に笑うだけで……。
街の人達はやはり戸惑いながらその様子を見ていたが、そんな中、意を決した様子のジョアンが一歩前に出た。




