(ジョアン)82 どうか……!
(ジョアン)
「俺のクラフト・マンティスが授かった加護は、<バフの加護>。
仲間にバフ効果を与える事ができる加護らしいんだが、こいつが与える事ができるバフ効果は魔力充電だけなんだわ。
────で、本来得意な工作をして、こうやって受け入れやすい形にして〜バフを与えるってわけ。
ほら、こんなんでもまだ生きてるんだぜぇ?
このまま生きて行く事も可能だし、別の形に変える事だってできる。
戦闘特化じゃなくても、俺はコレが結構気に入っているんだ。
おもしれぇから♡」
やがて大きな気配がすぐそこまで近づいてくると、ウォンはまるで聖歌隊の指揮者の様に両手を大きく振って、鼻歌にしては大き過ぎる声で歌を歌いだした。
その合間合間に、2つの肉団子からは「たすけ……くださ……。」「おゆる……し……を……。」という息も絶え絶えな声が聞こえ、背筋が凍る。
しかし、ウォンとウォンと一緒に来た護衛達は、ゲラゲラと本当に楽しそうに笑っていて……それがとても不気味で更に恐怖を感じた。
「お気に入りの奴隷は、もう少し凝った形にして遊ぶんだが、相手がモンスターだとこの卵みたいな形が好きみたいでな。
一番食いつきがいい。
これで儀式の一回分……には足りねぇか。」
ウォンがハァ……と大きなため息をついた瞬間、姿を現したのは見上げるほど大きな蛇型のモンスター<ドン・スネーク>だ!
父の契約したモンスター<ドン・スネーク>
敷地内に住まわせているとは聞いていたが、実際見るのは初めてで、その見上げるような巨体を見て、体からは血の気が引いていくのを感じた。
ドン・スネークは、肉団子にされた二人を目で捉えると……大きな口を歪めて、まるで笑っているような表情を見せる。
「ひ、ひぃぃぃっ!!!」
「い、嫌だぁぁぁっ!!!」
肉団子にされた二人は大声で泣き叫んだが、ドン・スネークは容赦なくそんな二人を────ゆっくりゆっくりと飲み込んでいったのだ。
「…………っ。」
あっという間に二人もの人間が食べられてしまい、息が止まりそうなくらいの恐怖を感じながらも、僕は父様が異常な数の儀式の回数を可能にしている方法を知った。
クラフト・マンティスの加護。
バフの効果を与えるため、ああして人を魔力電池の様に変え必要な魔力コストとして使っていたらしい。
<魔力電池>
魔力を貯めておける親指サイズの筒状の魔道具
様々な場所で使用されるが、安価ではない
「────くっ!!」
僕は弾かれた様にその場を走りだす。
早く……早くどうにかしなければ、街の人達の命が……!
そして……母様の命も……っ。
僕は護衛がうじゃうじゃいる屋敷とは反対方向、屋敷の外へ向かい、走り続けたが、それをウォン達は余裕そうに笑いながら見ていた。
◇◇
「どうしよう……どうすればいいんだ。僕は……っ。」
とにかくどうにかしないという想いから走り続けたが……ここで街の人達に叫んで伝えた所で誰も信じてはくれないだろう。
こんな力のない子どもの自分の話など、一体誰が信じる?
「……ハァ……ハァ……それに助けを乞うたら、その者を巻き込んでしまう事にもなる……。そうしたら命を狙われる事だって……。」
僕は大きく首を振って、それは駄目だと決意した。
無能とて僕は貴族の子息。
領民を守る事は、僕の責任と義務だ。
「…………どうすれば……どうすればいいんだ。
守備隊に……いや、駄目だ。父様の息がかかっているかもしれない。
冒険者や傭兵ギルドは、父様が撤退させてしまったし……このままどうにか隣街の民間ギルドへ行き悪事を告発するしか……。」
ブツブツと今後の計画を考えている間にも、自分を追いかける気配は強くなってきたので、見つからない様にジグザグと人と人との間をすり抜けては存在をあやふやなモノにしていく。
この街は契約したモンスターだらけ。
つまり、魔力気配はモンスターのモノもあるため、人とモンスターが多いほど、専門のスキルがない限りは正確な追跡は難しいはず。
そう考えての逃走方法だったが、それは大当たりだった様で……追いかけてくるウォン達の気配は少しだけ戸惑っているような動きを見せた。
薄暗い裏路地に隠れ、コッソリ人混みに視線を向けると、ウォン達がキョロキョロと周囲を見渡している姿が目に入る。
これなら街を出る馬車にまぎれて逃げられるかも……!
そんな一筋の希望が見えたが────そんなモノはすぐに打ち砕かれた。
「────チッ!思ったよりも面倒なガキだな。」
面白くなさそうに悪態をついたウォンは、突然近くを歩いていた少女の腕を掴むと、そのまま首に腕を回して羽交い締めに。
更に頬に小型のナイフが当てられる。
「……えっ……?何……?」
「本物……?────あれ、もしかしてウォン様じゃない?」
「本当だ。ウォン様だわ。一体何を……。」
すると、周囲の人達が何事かと目を見開き、明るい街中野雰囲気はあっという間に緊迫した空気へと変わった。
羽交い締めにされた赤い大きなリボンをつけた少女は、恐怖からか微動だにしない。
そして恐らく一緒に歩いていた者か?近くに立っている同じ歳くらいの少年も、同じくまったく動じず、少女と羽交い締めにしているウォンを見ていた。
「いい加減手間かけさすんじゃねぇぞ、クソガキが。さっさと出てこい!!
そうしねぇと、まずはこの可愛〜いお嬢さんが犠牲になるぞ?
んん〜♬お嬢さん、随分と可愛い顔をしているねぇ〜♡
少しだけナイフを横に動かすだけで、この可愛いお顔にぃ〜大きな大きなキズがついちゃうかな〜?嫁入り前なのに、これじゃあ傷物にされちゃうね。」
ウォンは上機嫌でそう言って、ピタピタとナイフをその少女の頬に当てる。
このまま素直に出ていけば、僕は確実に殺される。
それは分かっていた。
だが────……。
「その者を離せ。僕はここにいる。」
迷う事なく足を踏み出す。
貴族に生まれたからには、下の者達を犠牲にしてまで自分の命を大事にするべきではない。
それは絶対に守るべき、貴族の責任と義務に当たる。
堂々と出てきた僕を見て、ウォン達はニヤ〜と大きく口元を歪めて笑った。
「ハイハイ、我が儘は大概にして帰りましょうねぇ〜?ジョアン坊ちゃま?
まったく〜お勉強が嫌だからって家出なんてしないでくださいよぉ。貴族たるもの、しっかりと将来のためにやるべきことをやって下さいね?恥ずかしい。」
ニヤニヤしながらそう言ったウォンに同調する様に、周りの護衛達も頷けば、周りにいる街人達も、『勉強が嫌で逃げ出した怠惰な貴族子息』というホラ話を信じた様だ。
先程の緊迫した空気が、和らいでいった気がした。
このまま僕は連れ戻されて口封じに殺される。
だが、このままでは母様や街の人達も……。
僕はフッと小さく笑うと────ポケットからナイフを取り出し自分の首元へ当てて、ウォン達を睨みつけた。
「全てをお前たちの思い通りにさせるものか。────絶対にな。」
死への恐怖を必死に飲み込み、ナイフを持つ手に力を入れる。
ここで僕が派手に死ねば、流石に上層部が動くはずだ。
そうしたらこれだけ好き勝手してきたんだ、絶対に隠そうとしても証拠はいくつかは出てくるはず。
そして少なくとも、現在起こそうとしている低級エリアの襲撃は一旦白紙にするしかなくなるだろう。
流石にこんな事をするとは思わなかったウォン達が、目を見開いて止めようとしたが、手遅れだ。
「……どうか……っ。誰かが悪に正義の鉄槌を下してくださります様に……っ!」
そうして覚悟を決めて目をギュッと閉じてナイフを横に動かした────はずなのに、僕の手からはいつの間にかナイフが失くなっていた。
「────えっ?」
予想していた痛みが襲ってこなくて、驚き目を開くと……目の前に一人の少年が立っているのが目に入る。
特に突出した外見を持たない恐らく平民の少年。
あの人質に取られた少女と一緒にいたらしい少年だった。
「……あっ………あ…………。」
「んん〜?どうしたんだ、少年。世界に絶望すんの早すぎんだろ〜。ちょっとおじさんとお話してみようか。」
その手には僕が持っていたはずのナイフが握られていて……僕は呆然としながら『おじさんって誰?』と混乱しながら考えていた。




