(ジョアン)81 困るんだよな〜
(ジョアン)
「………っ。」
一体この者たちは、何を言っているんだ……っ!?
低級エリアは、残念ながら生活や仕事に役に立つモンスターと契約できなかった者達が住むエリアで、この街では一番身分が低い平民が沢山住んでいる。
それでも必死に自分達ができる事を探し、キチンと働いて税を治めてくれている善良な街民達だ。
そんな彼らに一体何をするつもりなのか……?
少なくとも何か命に関わる恐ろしい事である事は間違いない。
「〜……っ────っ。」
上げそうになった声を必死に押し殺し口元を塞ぐと、男達は何かを思い出したかの様に手の平に拳をポンッと打ち付ける。
「そういや、そろそろ実行に移すって言ってたけど、もしかして今回ついでにやっちまうのかな?
ジョアン様とローレン様の始末は。
あの無能がいる限り、愛人との子供が生まれても跡取りは、正妻の子供になっちまうもんな。」
「ハァ〜……めんどくせぇよな〜貴族って。法律法律ってよ。
だから相続問題上、無能な長男息子を始末する貴族様が多いらしいな。
ただウチの場合、その息子の方はいいとして、問題はローレン様を始末したら誰が仕事をやるのかって事だ。
お貴族様のエグい量の書類仕事に現地視察に……もしかして俺達もやらされんじゃね?
俺、嫌なんだけど〜。今のまま楽して暮らしたいから、ローレン様だけ生かして飼ってくれねぇかな〜。」
「確かに〜ww」
ゲラゲラ笑う二人の大きな笑い声。
しかし、そんな音はまったく僕の頭には入ってこなかった。
『僕と母様を始末する。』、それを……父が計画しているそうだ。
「そ……そんな……。」
母様と僕を酷く扱う父であったが、心のどこかでほんの一欠片でも、家族としての情はあると思っていたが……そんなモノは微塵もなかったらしい。
「し、知らせなきゃ……っ。街の人達と……母様に……。」
ソロリソロリとその場から後ずさっていると、突然奥の茂みから数人の男たちが現れ、喋っていた護衛の二人へと近づいていった。
あれは────……。
「ウォ、ウォン様っ!!」
「てっきりゲリー様の儀式についていかれるのかと……。」
数人の護衛仲間たちを引き連れてやってきたのは、父の専属護衛の一人<ウォン>。
長い藍色の髪を後ろで一つに縛り、格好こそ護衛の鎧を着ているが、戦う事など出来なさそうな甘いマスクとスリムな体型をしている。
そして、ニヤついた口元を下に大きく垂れている目元は、どことなく胡散臭い。
そんなウォンの突然の登場に、今まで軽快に喋っていた二人は背筋を伸ばして頭を下げたが、ウォンは後ろに連れている数人の護衛仲間達と目を見合わせ、ニヤッと笑う。
「────あぁ、これから向かおうと思っているよ。
ただ、俺はちょいとしくじった無能達を始末しようかと思ってな〜。
まったく……これだから三流は困る。」
「?は、はぁ……。何か不味い事をした奴らがいるんですか?」
肩を大きく竦めたウォンに、二人は揉み手をしながら分かりやすくゴマをすると、突然ウォンの足元に召喚魔法陣が光り、そこから巨大なカマキリ型のモンスターが現れた。
<クラフト・マンティス>だ!
〈召喚魔法陣〉
自分の契約しているモンスターを呼び出す魔法陣の事
<クラフト・マンティス>
体長5m越えのカマキリ型Eランクモンスター
大きな顎は肉を引きちぎるのに向いていて、獲物を食べる時に、まるで芸術品の様に色々な形に変えて食べる事からクラフトという名前がついた
直線型の物理攻撃のみであるため、強さ自体はそこまでではないが、一度大きな鎌に捕まったら脱出は難しい
「この程度の気配すら気づかないようじゃ〜これからも役に立つ事はねぇもんな。
せいぜい最後くらい魔力コストになって人生終えろよ♡」
「……えっ?な、なにを言って……?」
ニコニコ笑っているのに目は笑っていないウォンの顔を見て、護衛二人は一歩二歩と後ずさるが、突然クラフト・マンティスが護衛の一人を巨大な鎌手で捕まえた。
そして大きな悲鳴を上げるその護衛の腹にクラフト・マンティスは噛みつくと、そのままガリガリという音を立てて肉を引きちぎって形を変えていく。
「ぎゃぁぁぁぁぁっ!!!!あっ、あぁぁぁぁ────っ!!が……っががががっ!!」
その護衛の男はなんとかその鎌から逃げようと身を捩るが、その鎌から逃げる事はできずに体は形を変え、丸い卵の様な形へ。
苦痛と痛みの末にできた『人間肉団子』……その表現が正しい形になると、残されたもう一人の護衛の男は「ヒィィィ!!!」と悲鳴を上げてその場に尻もちをついた。
「なっ……なぜこんな事をっ!!ウォン様っ!!どうしてっ!!」
「どうしてって、それが分からねぇからだよ。無能が。
めんどくせぇ仕事増やしやがってよぉ〜。
保管していた奴隷で遊んでいた事くらいは構わねぇが、計画をペラペラ聞かせちまったら、今すぐ消さなきゃいけなくなっちまっただろうが。
……まぁ、いいか。
少しだけ前倒しになっただけだし、可愛い可愛い子どもで遊んでやるかな。」
「なっ何を言って……。」
護衛の男はダラダラと涙と鼻水を垂らしながらウォンに質問したが、それに答える間もなく、そいつもクラフト・マンティスに捕まる。
────ゴキッ!!
……バキッ!!ゴキゴキッ!!!…………グチャッ……グチャッ……。
大きな悲鳴と共に、骨が折れる音、肉を引きちぎる音が聞こえると、残されていた護衛の方も同じく人間肉団子へと変えられてしまった。
「────…………っ!!!」
一瞬で起きた目の前の事が信じられなくて、ガタガタ震えながら汗を掻いていると……ウォンは俺の方に背中を向けたまま、突然手を二回叩く。
「ハイハイ、美味しい美味しい餌の時間ですよ。さぁ、おいで〜。」
ウォンがそう言うと、何か大きな魔力を持った反応が少し離れた所から近づいてくるのを感じた。
何かが近づいてくる……?
息を潜めてそれを待つと、ウォンはそのまま大きい声で独り言を言い始める。




