(ジョアン)80 ある計画
(ジョアン)
「僕にとっての幸せは……きっと母様と形が違うんだ。
それって、一生違うままなのかな……。」
また心はズンと重くなり、傷ついてきた心がもう限界だと悲鳴を上げているのを感じた。
そしてその悲鳴を聞いている内に、『悲しい、辛い』は不思議な事に『怒り、憎しみ』へと変化していき、父は勿論の事、何故か母にもそれは向かう。
それを感じて、僕は慌てて首を横に振って不可解な方向へと広がろうとする感情を抑えた。
「母様は僕をこんなにも想ってくれているのに、どうして怒りが向くんだろう……?
それに、最近は全然関係ない街の人達にまでそれが向く……。
怖いよ……僕は、自分が……。」
幸せそうに暮らしている侍女や執事、そして街の人達の話。
その話が侍女や執事達の雑談から聞こえるたびに、怒りはどんどんと強くなっていってる気がする。
『なんで自分ばかりがこんな辛い目に合わないといけないの……?』
『ズルい……ズルい……ズルい……!同じくらいの苦しみを────……』
心の奥底から聞こえる声を聞かないように、僕はすぐに両耳を塞ぐが……それでもだんだんとその声は大きくなっていった。
いつか限界が来て、僕はこの声こそが『正しい』と思う様になるかもしれない。
それが怖くて怖くて……でもどうしたら良いのか分からず今のままずっと過ごしてきた。
「この先は一体何があるんだろう……?」
不安を呟いた後、いつもと同じ様に窓から勢いよく飛び降りれば、そこに広がっているのは、色とりどりの花達だ。
それはとてもとても美しくて────自分の薄暗い心とは正反対に、光輝いていた。
「…………。」
こんなにも綺麗な場所なのに、最近はフッと見たくないなと思う事もあって、それもとても不思議だと思う。
それに首を傾げつつも、光差す園庭をゆっくりと歩いていった。
庭園は植物系の能力に特化した能力者の庭師が、精魂込めてこの美しい庭を作ってくれて、目の前で見事に咲く花たちを見ながら、思わずほぅ……と息を吐く。
しかし同時に────……。
『いいなぁ……何かに特化した能力。』
『………………ズルい。』
そんな嫉妬のような気持ちが顔を出し、慌てて首を振ってその感情を散らした。
「……この街の人達は皆、僕と違って自分に相応しいモンスターと契約している。
それに比べて、きっと僕には召喚の才能はないんだろうな。
だってもう何度か儀式をしているのにGランクモンスターすら答えてくれない……。
シリンズ家はモンスターとの契約に特化した家……契約できない者はでていかないといけない……。」
自分の無力さに怒りを覚えて手のひらを見つめていると……突然ボソボソと男性二人の話し声が聞こえてきた。
「?誰だろう……。」
ここはシリンズ家の庭園で、入るのはシリンズ家の人間と庭師だけのはず……。
気になった僕は、その声がする方へと向かっていった。
「ゲリー様は今日もこれから儀式するのか〜。
もうレアな戦闘系に使える加護つきと契約できたんだからいいじゃんな。」
「だよな〜。精霊の加護つきと契約なんてできたら人生大逆転っしょ。あ〜……俺達も非戦闘系でいいから、加護をもらって出世してぇよな〜。」
「いいよな〜加護付き!」
話が聞こえる位置までくると、姿が見えないのは分かっていたが、なんとなく近くにある茂みへ身を隠す。
すると話をしているのは、どうやら父によくゴマをすっている護衛の下っ端である事が分かった。
父に気に入られようと、僕や母様に向かいヒソヒソと陰湿な悪口や嫌がらせをしてきたから顔を覚えていたのだ。
仕事の休み時間なのかサボっているだけかは分からないが、どうやらここでお休みしていた様で……ギャハハ!と笑い合う二人は、ココに僕がいる事すら気づかず話を続けた。
「<サンド>様と<ウォン>様なんて、加護つきの専属護衛だからめちゃくちゃ金貰ってるらしいじゃん。いいよな〜エリート様は!
まぁ、そんな優秀な二人のお陰で、俺達みたいな下っ端もおこぼれも貰えるんだけどな♡
この間の魔力コストの調達は楽しかったよな〜。好きにボコしても最後は綺麗に消してくれるんだから、最高のストレス最高だわ。」
「だよなだよな♡女は最高だけど、最近は俺より体格のいい男が這いつくばって命乞いするのも悪くないかなって思ってる。
あの丸呑みがエグいけど、それが良い。さいっこぉ〜……。」
サンドとウォンは、父を昔からの護衛をしている専属護衛二人の事だ。
二人共戦闘系ではないらしいが加護つきのモンスターとの契約に成功していて、そのお陰で今や護衛の中ではダントツトップ。
その二人については知っていたが……おこぼれを貰えるとはなんだろう?
その後に続く言葉の数々が恐ろしくて、心臓はバクバクと早く鳴り出した。
魔力コストの調達……?
楽しい?
命乞い……丸呑み…………。
ガクガクと震えだした足を必死に押さえて話の続きを聞くと、とんでもない話が耳に入ってくる。
「今回で犯罪奴隷は全部使っちまったらしいから、今度大量に王都の方へ買い出しにいくんだと。
だがそれも何ヶ月後か先になるらしいから、一度この街で調達するらしいな。……えっと……?どこだっけ?」
〈犯罪奴隷〉
犯罪を起こした者に与えられる身分。
人としての権利はなく、基本はモノとして売買される。
「西外層にある低級エリアだろ。ついでに街の大掃除もできるからちょうどいいってゲリー様が自ら決めたって聞いたじゃん。
直ぐ側にある山をを爆破して、土砂流をおこしてうやむやにして〜……って。
まぁ、何人かは次回の分として敷地内に閉じ込めておくだろうから、後でコッソリ遊んだって、殺さなければ怒られないだろう。
くくっ。犯罪奴隷じゃない一般人を使うの初めてだから、めちゃくちゃ楽しみだな〜♬」
『アハハハ〜!!』
楽しそうに笑い合う護衛の男たちは、とてもじゃないが人間の様に見えなかった。




