(アッシュ)76 シリンズ家の事情
(アッシュ)
随分と正反対な二人だな……。
男の方がゲリーで、隣に座っている女が奥さんなんだろうけど……。
夫婦というにはあまりにも似合わない二人。
そのチグハグさに首を傾げながら、俺は奥さんらしき女の隣に立っている10歳前後くらいの少年へ視線を向けた。
こちらは特に太っているわけでもなく痩せているわけでもなく、ごくごく普通体型の少年で、立ち位置的に恐らく二人の間の子供の様だ
女の顔に隈がなければソックリな顔立ちをしていて、かなりの美少年。
父親の方に唯一似ているのは髪質だけの様で、クリクリとしたパーマ掛かった髪をしている。
「待っていたぞ。早速商品を見ようか。」
「────はっ!以前ゲリー様に報告した通り、今回入手した物はどれも最高級の物でして……。」
太った男、ゲリーの偉そうな物言いに、顔をしかめる事など一切せずに、商人の男は商品を広げていった。
部下に運ばせた木箱の中から次々と取り出されるのは、豪勢な作りの女物のドレスやアクセサリーだ。
どう見ても隣に座る奥さんが使うものには見えずに、疑問に思ったのも一瞬で……ゲリーは奥さんに何も話し掛ける事なく、テーブルの上に並べられたアクセサリーを手に取る。
「私の美しい愛人達は、こういったモノが大好きでな、可愛くおねだりされてしまってたからいくつかプレゼントしたい。さてさて、どれがいいものか……。」
ニコニコ笑いながらアクセサリーを吟味していくゲリー。
そして、それを無感情で見つめる奥さんとただ黙って俯いている少年。
この違和感しかないやり取りから、この家族の歪みをよく理解した。
なるほどね〜。────まぁ、これも一つの『家族』の在り方か。めんどくさそう。
思わずハァ……と大きなため息をつくと、俺は商品に夢中になっているゲリーの欲望に塗れた醜い姿を静かに見つめる。
恐らく、敷地内の建物の殆どが、愛人とやらを囲っている別宅。
権力に支配された人間は、分かりやすく金と女を手に入れたがるから、ゲリーはまさにそんな人物であるという事で間違いないらしい。
ゲリーは商品を選んでいる間も、ひたすらその愛人についての惚気話を続け、商人はそれを聞いては賛辞の言葉を返す。
それを聞いている奥さんと息子は無言。
そんな歪んだ時間はしばらく続き、数十点のドレスとアクセサリーが選ばれた後は、執事が商人へ料金を支払っていた。
そして商人が深々と頭を下げて部屋の中から出ると、ゲリーはワハハ〜!と大声で笑い出す。
「今回は良いものが手に入ったな!これなら愛人達も喜ぶだろう。
それにしても────お前はもう少しなんとかならんのか?その地味で華がない外見では、連れて歩く気にもならん。」
「……申し訳ありません。」
ゲリーはチラッと奥さんに視線を向けると、鼻で笑いながら奥さんの外見や性格についての文句や不満を吐き続けた。
その間、奥さんは何度も謝るだけで特に反論しないし、息子も下を向いたまま何も言わない。
すると、ゲリーは反応が特にない事にイラッとしたのか、奥さんの髪の毛を掴み……そのまま床に叩きつけた。
「仕事をするしか能が無い陰湿な女め!!男を立てる事も喜ばせる事もできない、仕事はできても女としては欠陥品だな!
────ふんっ!お前みたいな醜女など、俺のために働く以外世の役に立つ事はないのだから、これからもしっかりやれよ。分かったな?グズ。」
「……はい。」
奥さんはやはり何も反論せずに下を向き、それを馬鹿にした様に見下ろしたゲリーは、更に不満をブツブツと垂れ流す
「まったく……仕事だけはできるから嫁に貰ってやったが、こんなブスで陰湿な女、見るだけで虫唾が走る。
やはり女は綺麗でハッキリした物言いをする女に限るな。
さっさと捨ててさっぱりしたいが、まぁ、便利だからな。仕方ないから手元に置いてやる。
せいぜい俺と可愛い愛人達のためにしっかりと働いてもらおうか。それしかできる事はないのだから。」
「…………はい。」
「…………。」
グチグチと口から飛び出す言葉に肯定を返す奥さんと、無言で微笑んでいる執事。
しかし、執事の方からは、小さいながらも怒りの感情が滲み出ている事からも、恐らく100%ゲリーの言葉を肯定しているわけではなさそうだ。
なるほど。ゲリーは典型的な無能男か。
シリンズ家の仕事は全部奥さんがやっていて、ご当主様は散財担当って事らしいね。
なんとなく自分の過去がニョッキリと顔を覗かせ嫌な気持ちになったが感情に蓋をして、そのままゲリーの様子を伺い続けた。
すると、ゲリーは壁に掛けられた時計を見て、「あっ……。」となにかを思い出した様に声を漏らす。
「そろそろ【聖儀式塔】へ向かう時間じゃないか。
今回も強力なモンスターと契約できるといいが、最近立て続けにクズモンスターしか召喚でにてないからな。そろそろ当たりが欲しいものだが……。」
ゲリーはチッ!と舌打ちをしながら執事に馬車の手配を命じ、それを受けた執事は速やかに部屋を出ていった。




