74 不穏な話
(ルーク)
「ゲリー様か……。な〜んか、胡散くせぇよな〜。
今日も契約の儀式をしているって……結構頻繁に儀式をしてるっぽいが、そもそもそんなにおいそれとモンスターの契約の儀式なんてできるもんか?」
「貴族だから資金的には問題なさそうですが……一番は問題となるのは魔力コストではないでしょうか?
孤児院のシスター達も、この儀式の際に魔力コストのために呼ばれた事がありますが、結構な人数を集めないと集められない量であったと聞いています。」
セレンはそれを聞いた時の事を思い出しているのか、腕を組んで首を横に倒している。
確かに貴族なら資金面なら問題なくとも、魔力コストはそれなりに集めるのは大変なはず。
この街に神官達がどれくらいいるのかは分からないが、そんなに頻繁にできるモノではないと思われる。
俺はフードを深く被り始めたアッシュに視線を向けた。
「アッシュ、行けるか?」
「ハイハイ。そう言うと思って準備は万端だよ。
まったく……俺達受験生ってヤツなんだけど?少しはゆっくりしたかったけど、仕方ないか。っじゃ、いってきま〜す。」
アッシュはそう言い残すと、そのままフッと消える。
とりあえず情報収集はアッシュに任せる事にし、俺はまだ考え込んでいるセレンに向かって言った。
「セレン、俺達は街の人達の話を聞きつつ、契約の儀式ってヤツを見に行ってみようぜ。俺、実はまだ見たことないんだよな〜。」
俺達が住んでいる街は、脳筋最高!なグリード家であったためか、そのモンスターとの儀式をしていなかった。
だからモンスターとの儀式ができる教会へは、ちょっとした旅感覚で他の街へ行くしかなかったらしく、それに対して街民達は不満があったらしいが……まぁ、そもそも契約できるヤツが物凄い稀らしいので、最後はアッサリ諦める事にしたらしい。
「そう考えると、この街はまさに選ばれた者達だけの楽園ってヤツか。
そしてその楽園を作り出しているのが、ゲリー様だと……。」
俺はキラキラと輝くこの街の様子を思い出し────なんとなく嫌な予感に震えながら、セレンと一緒に街へと向かった。
◇◇
「ゲリー様の契約の儀式?気がつけばやってるよ。
だから街の人ならわざわざ見学には行かないねぇ〜。
今日も今から一時間後くらいに、あの塔でやるらしいから良かったら見に行ってみなよ。……オススメはしないけどね。」
先程歩いた道から街の中央に向かう道へと進めば、更に出店は増えていき、その分人も多くなっていった。
俺はセレンと一緒に商品を見ながら、その店の店主にさりげなく話しかけ、ゲリーについての情報を集める。
「へぇ〜。あの儀式をやる塔は誰でも入れるのか。でもオススメしないっていうのは何で?」
「あ〜……それは、まぁ、世間一般的な理由だよ。
ゲリー様はお貴族だし、それでいてモンスターとの契約についての極端な思考を持っている方だから……。」
言いにくそうな物言いを聞き、大体の事情は察知して、あえて詳しく聞かずに話題を変える事にした。
「俺はモンスターとの儀式がそんなに盛んじゃない街から来たから知らなかったが、そんなに頻繁に契約ってできるモンなんだな。知らなかったよ。」
「…………。」
サラッと疑問を口にすると、店主の男は少しだけ考え込んでいる様子を見せ、その後俺に顔を近づけた。
「……実は街の連中も皆、そこを不思議がってる。
ここまで頻繁に契約をできるなんて、他では聞いた事がないからな……。でも、それについて調べるのは止めておいた方がいい。」
「?なんで?」
神妙な面持ちでそう忠告する店主に首を傾げていると、店主はヒソヒソと声を潜めて話を続ける。
「それを調べようとしたヤツらが全員行方不明になったからだよ。
……お貴族様なんて、どこにいても多少無茶な事をしているもんだ。だから、平民如きがその無茶を暴こうとすると────……。」
店主が自分の首を掻っ切る様なジェスチャーを見せたので、俺とセレンは顔を見合わせた後、わざとらしく体を震わせた。
「なるほどな、肝に命じよう。
ちなみにそれだけ契約していたら、そのモンスター達は全員ゲリー様の契約モンスターになるわけだが、複数契約は例え下級のモンスター相手でもあまりに魔力消費が激しすぎるんじゃないか?実質不可能なんじゃ……。」
「ゲリー様いわく『合わないモンスーとの契約は、破棄して帰ってもらっている』と言っていたよ。だから、現在ゲリー様が契約しているのはオリジナルモンスターが一体のはずだ。」
「そうなのか。戦いに優れた加護がついているだって聞いたが……この街を襲ってきたモンスターを倒したのも、そいつなんだって?」
店主は複雑そうな顔をしながらも、コクリと頷く。
どうしてそんな顔をするのか分からず、尋ねようとしたのだが……それより前に店主が口を開いた。
「俺もこうしてモンスターと契約できたからこそ、この街の街人として住んでられる……だから、契約する事自体に何か文句があるわけじゃない。
だが────オリジナルは別モンだよ。あれは……人の手に負えるモノじゃない。
さっきまで生きていたはずのモンスター達が一瞬で……。
俺は……声を大にしては言えないが、あまりモンスターに依存しすぎるのはよくないんじゃないかって思うよ。特に自分の力を大きく上回るモンスターとの契約はね……。」
「…………。」
突然ブルブルと震えだした店主を見て、俺は口を閉じる。
まだ精霊の加護というモノをよく知らない俺としては、その恐怖は分からないが……少なくとも、一般的人にとって、それは『怖いモノ』である事は間違いない様だ。
「そうか……済まないな、変なことを思い出させちまって。
よく分からない『力』には手を出さないのは、長生きの秘訣だ。だから、俺はアンタが正しいと思うよ。」
「そうかい、ありがとよ。────じゃぁ、話ついでになんか買っていってくれるともっと嬉しいんだが……?」
コロッと雰囲気を変えて、揉み手をする店主に苦笑いしながら、俺はズラリと置かれている商品を見た。
商品は全て女性物で、フリフリの洋服からアクセサリーまで色々ある。
「セレン、好きな物を一つ選んでくれ。せっかくだから買っていこうか。」
「────は、はい!」
商品には目もくれていなかったセレンは、突然の俺の申し出に驚いた様子で体を震わせた。
そして真っ赤になって動揺しているように見えたが、すぐに表情を引き締め真面目な顔に。
フリフリと沢山のフリルがついた洋服のエリア、キラキラ輝くアクセサリーのエリアを────あっさりと飛ばし、簡素なタオル達が積まれたエリアへ向かう。
「では、ちょうど訓練の時に使うタオルを……。」
おずおずと差し出される無地の白いタオルを手に取り、『本当にいいの?』と確認する様にセレンを見たが、逆に不思議そうな顔をするだけだった。
う〜ん……。あの赤いリボン型のバレッタを欲しがるくらいだから、本当は可愛い系の小物が好きだと思うんだけど……。
なんとなく納得しかねながら、とりあえずタオルを購入し、俺は腰にぶら下げている小さな麻袋へ手を伸ばす。
そしてそれを開けると、その小さな麻袋に絶対に入らなさそうな体積があるタオル達を次々に入れた。
実はこの世界で非常に便利な物の一つが、コレ。
<次元袋>!
これは、概念的には四次元と呼ばれる違う空間を作り出し、それを使える様にした魔道具と呼ばれるアイテムだ。
<次元袋>
違う次元に空間を作り、それと袋の入口を繋げた魔道具の一つ。
その作られた容量に入れるだけ荷物を入れる事ができるが、その出来はピンキリ。
その空間内に荷物を入れても、外にある次元袋の外見も重さも変わらない。
だから持ち運びに物凄く便利なわけだが、この空間を作れる能力は非常に稀で、更に作れる空間の広さもその能力の高さに比例するらしいので作るのは凄く難しいらしい。
そのため凄く高価なわけだが、贅沢大好き!な両親が買っていた様なので、ちゃっかり自分の物にしてやったのだ。
別にいいよな〜。アイツら、どうせ連れて歩いている使用人に荷物持ちさせてたらしいし〜。
今頃何をしているのか分からない元家族達。
どうやら、使用人達がヒィヒィ重い荷物を持つ姿を楽しむという特殊な趣味があったらしく、この次元袋を使用しなかったそうだ。
聞けば聞くほど性根が腐っているどころか、発酵してキノコ栽培してそうな元家族達は、恐らく、復讐を諦めないだろうと思う。
実はそれを────めちゃくちゃ楽しみにしているため、口からは悪い笑いが漏れてしまった。
「ククク……次はどうしてやろうかな〜?出口のない迷路をグルグル回る子ネズミを追い詰めるのは楽しいな〜!」
「?そ、そうですか。なるほど……。」
ハッハッハ〜!と笑う俺を見て、セレンは少し考え込んでいたが、すぐにコクリッと頷き肯定を示す。
コラコラ〜すぐに意見を合わせては駄目だぞ♬
俺がツンツンとおデコを突くと、セレンは顔を真赤にしておデコを押さえた。
そんな俺達のやり取りを見て、店主は「イチャつくなら店の外でやったやった!」と言ってしっ!しっ!と野良犬を払う様に手を振る。
「────なっ!い、イチャ……??!」
「へいへ〜い。お邪魔しました〜。」
冗談がイマイチ通じない真面目っ子セレンがカッ!と怒り狂う前に店を出て、同じ様に目に付く出店を回っていった。




