70 モンスターとの契約
(ルーク)
…………うちの子達、凄すぎない?
浮かぶ二人のステータス値を見て、おもわずニッコリ笑顔に……。
気がつけば、なんか物凄い事になっている事に最近気付いた。
「周りの奴らを見ても、このステータス値は飛び抜けてるもんな〜……。ステータスの横のハテナはよくわからねぇけど。
まぁ、そりゃ〜ステータス値だけじゃねぇよ?戦いってもんはさ。
でも……それでも桁が二個くらい違うのは普通じゃない……はず?」
ジ〜……と二人のステータス値とにらめっこし、後天的に現れたらしい称号とやらへと目を通す。
「俺の先天称号とは違って、これはどうやら後天的に貰える称号ってやつっぽいな。
それになんちゃら文字化け加護ってやつは一体なんなんだ?意味が分からん。
何かに対して信仰?するともらえるっぽいけど……。
まぁ、どっちにしろ、色んな経験をすると貰えるモノみたいだし、これは二人の努力の証って事か。」
しみじみ思い出すのは、ゲロゲロ吐いたり、倒れたまま這いずって家に帰る二人の姿。
なんだか感動してしまい、うっ!と嗚咽が漏れそうになって、慌てて手で口元を抑えた。
こんなに頑張った俺の異世界転生初の愛弟子達!
これから一体どんな人生を選んでいくのか楽しみ!
それはそれは激しい兄弟喧嘩の様な事ばかりの二人の事はスポポンと忘れ、ただただ二人の将来に思いを馳せる。
そうしてしばらく経った頃、水分休憩させようと、馬車のドアを開けたその時────遠くの方でボンヤリと巨大な建造物が見えてきた。
「ん〜……?あれが今日泊まる街か?」
「そうみたいだね。あの高い塔みたいなのは多分、【聖儀式塔】かな。」
「【聖儀式塔】?」
雲に届くほどの高さはありそうな細長い建造物。
それを知らない俺とセレンは揃って首を傾げると、唯一それを知っているらしいアッシュがペラペラと説明を始める。
「今日泊まる街<サマナイズ>にある【聖儀式塔】は、教会が管理しているモンスターと契約ができる塔だよ。
あそこで契約すると、普通よりも強いモンスターと契約しやすいって言われているから有名らしいけど……本当かどうかは不明みたい。
ただ、貴族なんかはああいう『神聖』そうな建物が好きだから、人気はあるかな。」
「あ〜……なるほどね、アレが……。」
【モンスターとの契約】
誰でもできるわけではないソレは、もしそれができたらそれなりの力と地位が約束されるそうだ。
俺はセレンとアッシュに水の入った袋を渡しながら、【グランド・リリスの白い華】の設定について思い出した。
モンスターは人の何に反応するかはわからないが、稀に人の呼びかけに答え、契約してくれる事がある。
一度目の儀式の際は現れてくれなかったのに、二回目には応じてくれたという例もあるため、恐らくこの召喚はランダムなのでは?と言われているが未だに謎。
ただ、その契約によって契約者に新たな力が得られるのは事実らしい。
「確か貴族の方が、契約者が多いんだっけ?」
「そう。チャンスが平民とは違って無限にあるからね。
血筋が高貴〜というよりは、単純にチャンスの回数の差なんじゃない?
ただ、お金の事はクリアーできても、この契約の儀式って魔力コストがバカ高いから、頻繁にはできない儀式って聞くけど。」
アッシュは水を一口飲んだ後、ハァとため息をつく。
そう……そうなのだ。
実はこの儀式────めちゃくちゃ金と魔力コストが掛かるのだ!
あちゃちゃ〜!と異世界でも世知辛い世の中に嘆いた。
教会が管理しているこの儀式は、教会で働く神官達によって行われるわけだが、それをする際は<お布施>という形でお金を納めなければならない。
だからこそ、お金に余裕がある貴族なら、魔力コストが貯まり次第その儀式を何回も受けられるが、日々の暮らしで精一杯の平民はおいそれと儀式をする事はできないわけだ。
そのため、一般平民なら16歳になった時に一度だけ無料で受けられる儀式で、契約できなかったらそれでおしまいという人が殆どだそうだ。
「俺達も学院に受かればそこで受けるんだっけ?
だが、モンスターと契約できると戦うのって基本契約したモンスターになるっていうしな〜……。
なら任意じゃないならパスだな、俺は。」
「俺もいいかな。そもそもどんなモンスターが来るか分からないし……。
レベルの弱いヤツが来ちゃったら、無駄に魔力を吸われるだけで戦いにくくなるしね。
それに、魔力に余裕のあるヤツじゃないと、そもそも戦闘に参加させるのは難しいって聞くし。」
アッシュが飲み終えた水袋をポイッと俺に返しながら、首を横に振るのを見て、俺も同じく首を横に振った。
超実力主義社会だが、戦闘スタイルが多様化しているこの世界。
何で戦うのかは、それぞれの好みと自分に合うスタイルを選ぶ。
大雑把に分けると、純粋な物理的な力で戦う【物理タイプ】と魔力を使った抽象的な力を使う【魔法タイプ】になるのだが、モンスターとの契約はこの【魔法タイプ】に分類される戦い方になるそうだ。
要は、モンスターに直接戦ってもらうというモノだが、人間側はその代わりに自分の魔力を与え続ける&何かしらの契約リスクを負わなければならない。
どうやらモンスターにも人間同様それぞれの個性があるらしく、何を人間側に望むか違うと言われていて、それを叶えるなら従うという納得する関係がないと駄目。
それは人間とモンスター間にレベル差があるほど下のモノが払うリスクは大きくなるので、例えばモンスターの方が遥かに下のレベルなら俺達契約者側はそこまで大きなコストはかからないが、逆なら偉いことになるというわけだ。
「まぁ、品物の売買だってそうか。良いもの程値段が高い。
自分よりも格上と契約するなら、大きな見返りが必要って事か。
更に、儀式でどんなモンスターが出るか確証なしで、お金も魔力コストも掛かるとなると、確かに平民なら手を出しにくい代物だ。
ぶっちゃけ賭博と同じだもんな〜。」
納得の内容にウンウンと頷き────過去に博打で有り金全部なくし、奥さんの千代に半殺しにされた事を思い出した。
その時の事を思い出しながらブルブルと震えていると、セレンが不愉快そうに顔を歪めた。
「私は契約の儀式はしたくありません。そもそも貴族連中は自分が戦いたくないから強力なモンスターと契約をしようとする者達が多いと聞きます。
そのために何度も契約し、より強いモンスターと契約したいがために来てくれたモンスターを殺そうとする輩もいると聞きました。
私は、責任を持てない輩が契約という関係を結ぶのは反対です。
無責任なんですよ。そんなの生むだけ生んで捨てたり、後に利用しようとする親と同じではありませんか。」
「……なるほどな。」
セレンの怒りは多分孤児院にいる子供たちを思っての怒りの様で、確かにそう言われればそのとおり。
最下級ランクに位置するGランクのモンスターなんかは本当に弱くて、できる事と言えばマッチに火を点けるや、口を濡らす程度の水を出すくらいしかできない。
そうなると、契約するだけ魔力の無駄と判断し、面倒だからと殺してしまう人でなし達もいるらしいと小耳に挟んだ事があった。
俺は不快を隠さないセレンから水袋を受けとると、どんどん近づく街の景色を見つめる。
これから行く街は、モンスターとの契約が盛んな街であり、契約できたモンスターによって破格の待遇を受ける事も、逆に差別の対象にもなるかもしれない街だ。
要は身分を尊重しつつ、契約によっても人間の価値が決まる街である。
俺達の様に道すがら泊まる奴らや観光する奴らなら関係ないが、中々住むとなると偏見がすごそうだと、これまた俺も偏見の目でみてしまった。
「────ま、実際は目でしっかり見て判断しようか。この世界の一部ってヤツ!」
ワクワクした気持ちで見えてきた街を見て……俺は不敵に笑ってやった。




