63 楽しいから!
(ルーク)
◇◇
「……行ったか?」
街に行ったと見せかけて、俺は近くの木の陰へと身を潜め、セレンとアッシュがめちゃくちゃ離れた距離間のまま街へ向かうのを見送った。
それを見てニヤリと笑いながら木の陰から顔を出すと、近くにいたセブンがこちらに向かって小走りしてくる。
「ルーク様、どうして一緒に行かないのですか?」
本日俺によってつきあわされたセブンは、不思議そうな顔で首を傾げたので、俺は悪役の様にクックック〜と笑ってやった。
「ほらほら〜俺ってアイツらの上官じゃん?
だから、遠慮している部分もあると思うんだよ。素の自分を出していない!」
「そうですか?二人ともルーク様の側にいる時が一番リラックスしていると思いますけど……。
アッシュ君なんて、気さくな様に見えて屋敷の全員に警戒している様に見えますし。」
セブンは考え込みながら答えたが、俺はブスッ!とセブンの鼻をボタンを押す様に突き刺す。
「上官の前では誰もが素の自分を出せないもんなんだよ。セブン君。
だが、それだと何かあった時に、アイツらの本音がわからんと動けない時があるかもしれないからな!これは上官として当然の────……。」
「……本音は?」
「楽しそうだから!」
呆れた顔で俺を見つめるセブン。
全てがバレている事を察知し、仕方なく俺は本音を声高々と宣言した。
セレンは真面目が服を着て歩いている様な女の子で、それこそ課題は毎日ゲーゲー吐きながらも完璧にクリアーしてきた努力の鬼の様なヤツである!
対してアッシュは、ひょうひょうとした態度の裏にとんでもない闘志と負けず嫌いを宿し、勝利のために必死に努力してきた戦闘狂。
そんな可愛い可愛い俺の自慢の弟子達……それがどんな物を好むのか、どんな選択をするのか、知りたいじゃん!
「さ〜てと、じゃあ、俺もいってきま〜す!セブン、後は頼んだぞ!」
「承知いたしました。お気をつけて。」
俺はセブンに渡された金貨を手に、ウキウキと二人の後を追いかけた。
気配を完全に消して、まずは比較的近い場所にいたセレンの方へ。
セレンはあっちへフラフラ、こっちへフラフラと周り、主に軽食系のオヤツや絵本などを見て回っている様だ。
これは多分────……。
「ん〜……これは多分自分用じゃねぇな。孤児院の子どもたち用のか。」
明らかに小さい子用の絵本を手にとって、にらめっこしているセレンを見て、ほっこりとした気持ちになる。
セレンは、元々無理やり渡している給料の殆どを孤児院のために使っている。
ちゃんと孤児院には十分な寄付金を渡しているので大丈夫だと言ったが、「自分が好きでやっているので。」とキッパリ言い切ったセレンに、おじいちゃんは眩しい!と目を閉じてしまった。
「臨時収入も全部孤児院の子どもたちへか……流石はセレン、ブレないな!」
ニッコリと微笑みながら────……毎晩毎晩俺相手に行われる寝かしつけについて思い出して思わず真顔になる。
初日に隣の部屋から俺の部屋までやってきて、寝かしつけをしてきたセレン。
その儀式(?)は今も続いていて……俺は寝ぼけたセレンに絵本を読まれ、更にポンポンと胸元を叩かれていた。
そんな姿を、これまた毎晩俺のベッドへやってくるアッシュが腹を抱えて笑っている。
『ル、ルークを赤ちゃんだと思ってる!あ、あ、赤ちゃんっ!こんな強いのに、赤ちゃん!』
ヒーヒー笑うその姿にムカついて、シュパッ!とアッシュを飛び越えセレンから離れると……セレンの寝かしつけの相手は、俺からアッシュへと移行した。
「……狸は山へどんぶらこっこ〜と流されていきました…………。『わぁ〜誰か助けてぇ〜……』」
「…………。」
アッシュがストンと表情を失くすのを見て、今度は俺が腹を抱えて笑ってやると、アッシュは再び俺にその役を押し付けようとしてきたので、しばらく揉み合いになる。
しかし、あんまりうるさくするとセレンが起きてしまうため、仕方なく俺がひたすら寝かしつけをされる役を未だに引き受けているというわけだ。
「俺、人生で初めての寝かしつけ体験……。」
なんとも言えない気持ちではあったが、それでもやってもらったことのない新鮮な体験に多少の喜びはあっため、『ま、いっか!』と割り切った。
とりあえずセレンは、このまま孤児院の子どもたちへのプレゼントしか買わないだろう。
そう思って、その場を離れようとしたが、突然セレンの足がピタリと止まる。
気づかれたか!?と警戒したが、そうではない様で、セレンはその後、ウロウロ……と落ち着かない様子で、ある出店の周りをうろつき始めた。
「…………?」
その表情は真剣で、まるで今から実戦にでも行くかの様。
一体何だ?と不思議に思いながら、並べられた商品を観察すると、どうやらその店は女性向けのアクセサリー店の様だった。
「?孤児院の子供用に買うつもりか?それにしては随分挙動不審だが……。」
不思議に思いながら更に観察を続けていると、セレンの目は一つの大きめな赤いリボン型のバレッタへと注がれていて……それを見ては首を横に振り、見ては首を横に振り、最後は自分の髪を触っていた。
はは〜ん?まさか……。
「自分用に欲しいって事か。ならさっさと買えばいいのに……。」
首を傾げる俺の視線の先で、とうとうセレンは諦めたのか、プイッ!と顔を背け、そのまま絵本が売っている店へと行ってしまった。
それを見送った俺は、そのままセレンが見ていたリボンを見に、その出店へと近づく。
「?何で買わなかったんだろうな?そんなに高い物じゃないのに。」
綺麗な赤色で染まっている大きめのリボン型バレッタは、セレンのボブカットの後ろで止めたら、なかなか良いアクセントになりそうだと思った。
ますます首を傾げると、その出店の店主が声を掛けてくる。




