56 野望
(ルーク)
「じゃ俺、ルークの隣の部屋で。よろしく。」
「────なっ!!」
アッシュの言葉に、セレンはショックを受けている様な顔をしたが、直ぐにギロッ!とアッシュを睨む。
「アッシュ、さっきから雇い主に対して失礼だぞ。ルークは雇い主で伯爵様で……。」
「え?だって近くにいないと、いざという時守れないんじゃない?
護衛の仕事を全うするには、できるだけ近くにいないと駄目だと思うんだけど。」
「────っ!!」
キリッ!と真剣な顔でそれらしい事を言い切るアッシュに、セレンがまたショックを受けていた。
いや……そもそも、俺夜に襲われても直ぐ起きれるし、大丈夫なんだけど?
化物相手にゲリラ戦の様な混戦に持ち込まれる事もしばしばあり、戦闘員は全員幼い頃から睡眠訓練は必須でやらされる。
そのため、少しでも相手の気配を感じれば、体は自動的に起きてしまうので、自分の奥さんの千代なんて絶対に俺と一緒に寝ようとしなかったくらいだ。
うっかり殺しちゃうかも〜☆と言ってたな……。
「…………。」
とうとうギャーギャーと喧嘩……いや、じゃれ合いみたいなモノを始めてしまった二人を見て口を開こうとしたのだが、セレンがそれより前に口を開いた。
「なら、私もルークの隣に住む!護衛一号として、遅れを取るわけにはいかないからな!」
ドンッ!と胸を強く叩くセレンに、アッシュはぶーたれていたが、とりあえずそれ以上は文句はない様だ。
そして二人揃ってコチラを見てきたので、俺は『────ま、いっか!』とその提案を認め、自分の部屋がある中央部の最上階エリアへと案内してやった。
◇◇
「ほ……ほほ〜……。」
「ハハッ、すっご〜。」
セレンとアッシュは、その階に着くなり忙しなく周りを見ては、驚いている様子を見せる。
ここもかしこもお高そうなこの屋敷の中だが、この最上階エリアは別格で、どう見ても国賓レベルの創りになっていた。
下に敷かれているのは、真っ赤な色のフカフカ絨毯。
壁に掛けられている沢山の絵は、金や宝石がふんだんに使われた額縁からして、絶対傷つけたら人生終わるヤツ。
サイドに設置されているオブジェは、やたら模様が細かいツボやら、甲冑やらと、こちらも人生を終わらせる系のトラップかと思う程わんさかある。
そしてそんな通路の中に大きな扉が真ん中辺りに一つあり、そのサイドにはそれよりはやや控えめな扉が2つあった。
「この真ん中の扉が俺の部屋!サイドの2つが正妻と愛人が使っていた部屋みたいだな。
とにかく広いからさ、見てみろよ。」
ちょっとしたイタズラ心が出て、俺が中央にある扉を開けると、二人の驚きは最高潮に達した様だ。
目をまんまるにして驚いていた。
部屋の中央にあるのは天蓋つきの、キングサイズもビックリな超巨大ベッド!
子供なら30人くらいは一緒に寝れるくらい大きくて、更に注目したいのはその感触だ。
ポヨンポヨンと衝撃を全て受け止め返す、まるでトランポリン仕様は俺の一番のお気に入りで、寝る前は必ず跳ねて遊んでから就寝している。
勿論周りを飾るテーブルやソファー、棚なども全てが芸術品と言っても大正解なくらい職人のこだわりを感じる素晴らしい出来だ。
「こ、これが貴族の部屋……。……ここだけで孤児院が開けるかもしれない。」
「この家具一個で、平民なら一生暮らせるかもね。」
セレンがゴクリと喉を鳴らして震えている間、アッシュは黄金色のやたら仰々しい壺のオブジェをツンツンと突いていた。
安い!辛い!汚い!という<YTK>と呼ばれていた俺の元職場、新日本国軍。
隊員は基本タコ部屋、後に幹部クラスになって初めて個室が貰えるが、畳一畳分────そんな俺にとって、これは未知の世界である。
密かにガッツポーズを決めながら、俺は毎日この部屋で偉そうにソファーに座って悪のボスごっこをしたり(一人で)、たまに寂しい時はセブンを手下役に任命して付き合ってもらっている。
ちなみにセブンは非常にノリが良く、めちゃくちゃノリノリで付き合ってくれるのだ。
二人の嬉しい反応にニヤッと笑い、俺は腕を組んでワッハッハっ〜!と高笑いし始めた。
「この部屋こそ、この俺様に相応しき部屋!ひれ伏すが良い!愚かな愚民共〜!♬」
「────はっ?どうしたの、急に……。」
呆れる顔をするアッシュの横で、セレンは汗をダラダラ掻きながら、直ぐに膝をつく。
「大変失礼いたしました!この部屋はルークに相応しきお部屋です!」
流石は孤児院の年長組……直ぐに相手のノリに合わせてくれるセレンに、にっこり笑いながら指をさした。
「ノリ良し!セレン合格!お前はこの俺、ルークの栄え在る手下一号としてこれから生きていくのだ。
『ハイ!分かりましたニャン!ご主人様!』って言え! 」
「ワカリマシタニャン!ゴシュジンサマ!」
「……いやいや、多分コイツ、ノリじゃなくて本気でしょ。」
アッシュがバシッ!とセレンの頭を叩くと、セレンは大激怒!
またアッシュと、ワンワンニャンニャンバトルが始まってしまう。
それを見て笑いながら両隣の部屋と繋がっているドアを開けると、まだじゃれ合っている二人に声を掛けた。
「ほら、好きな方の部屋を使ってくれよ。そしたらこれから毎日猛特訓だぞ。俺の野望を叶えるために!」
「や……野望ですか?」
「へぇ〜世界征服でもするの?」
セレンは神妙な顔で頷き、アッシュは軽い調子で聞いてきたので、俺は目を輝かせながら天井へ向かって指を一本立てる。




