(アッシュ)49 唯一の居場所
(アッシュ)
◇◇
「そろそろ頃合いだろう。タイミングを見てリリスを殺せ。
他の若いシスターや孤児のガキ共は……ヘビネロ商会の好きにさせてやればいい。
だが、頭が空っぽの馬鹿共の集まりだからな、とりあえず見張りは必要だろう。
だから、お前は当分奴らについて見張れ。分かったな?」
「ハイハイ。分かりました。」
俺がやる気なく答えると、父は無言で俺を殴りつけ、土下座をする形で膝をついた俺の頭を思い切り踏みつける。
「失敗したらどうなるか分かってんだろうな?せいぜい頑張れよ?役立たず。」
「……ハ〜イ。」
素直に返事を返すと、父は俺の胴体をついでとばかりに蹴り飛ばしてから出ていった。
それからは、こちらの思惑通りに派手に暴れるヘビネロ商会の奴らを見張る日々。
ソイツらは、全員が全員、自分の思い通りにならない世界に見切りをつけて壊す事を選んだ奴らだった。
『力』を使って強引に叶えていく欲望には天井がない。
それは自分の欲望を叶えてくれる、自分より弱い存在がいる限り止まる事がない事は、こういう奴らを見ていれば分かる。
俺の父も、その仲間であるブロッセン商会の奴らも全員一緒。
死ぬまで人を『使って』人生を楽しむだろう。
「……まぁ、仕方ないよね?だって『弱いヤツは努力をしない怠惰な人間』、『それは使って下さいと言っているのと同じだから、好きに使っていい』らしいから。」
目の前で、街の奴らに暴言をぶつけて憂さ晴らししているヘビネロ商会の奴らを見て、父が言っていた言葉を思い出す。
そして情けなく何も言えずに謝り続ける街の奴らを見て、喜びを感じていた。
アレより俺の方が全然いいじゃん。
だからここは……俺の幸せの場所!
自分の現状に満足感を得て、俺はこれからもここで生きていく────そう思っていたのに……。
「なん……で……?……な……ん……で……?」
体中に走る鋭い痛みにより、もう戦うどころか動く事すらできない。
つまり俺の負け。
俺は……負けたのだ。
この綺麗な場所でお気楽に生きてきた貴族の令息に……!!
「────っ〜……!!!!」
苦しくて痛くて。
憎くて悔しくてムカついて……今直ぐぶっ殺してやりたいのに、それができない。
アイツが強くて、俺が弱いから。
「……っ……っくしょ……っ。」
視界が滲んできたのは何でか?
理由は分からなかったが……俺は直ぐに万が一の場合に持ってきた<帰還ポート>を取り出すと、俺は直ぐにそれを使ってブロッセン商会の本部へと飛んだ。
<帰還ポート>
危険時に発動させてその場を離脱することができる空間移動型魔道具
あらかじめ指定しておいた場所へ一瞬で移動する事ができるため、戦闘職についている者達にとっては必須と言える魔道具である
親指程の大きさの球体の形をしているため、持ち運びが楽だが……安価ではない
「……ハァ……ハァ……。」
痛む全身にムチを打ちながら、壁伝いに父のいるであろう部屋へと向かう。
貴族が住んでいる様な豪勢な本部の作りは、父の趣味。
伝っている壁に血がついてしまったから、きっと後で殴られるだろうと思ったが……それよりもあの野ねずみ野郎の危険性を伝えないと!と必死に歩く。
そしてやっと父がいる部屋へと到着し扉を開けると、ソファーに偉そうにふんぞり返っている父の姿が目に入った。
「と、父さん……話が……。」
「…………。」
痛みを我慢して口を開くと、父さんは部屋の中に立っている他のメンバーに向かい、無言で顎をシャクる。
すると、メンバーの一人がニヤッと笑いながら、俺の体を蹴り飛ばした。
「────っ?!!」
驚いて息が詰まる俺に、今度は他のメンバーが殴る蹴るをしてきて、俺はその場に倒れてしまう。
しかし、攻撃は止むことはなく、俺はなすすべもなく更にボロボロになっていった。
「クソガキがっ!前から目障りだったんだよ、てめぇはよぉぉぉ!! えっらそうに、指図しやがってうっとおしい!」
「全部仕事は自分でやってるみたいな顔しやがって!!誰でもできるような仕事をしているだけのくせによぉ!調子乗んな、クズ!!」
いつもめんどくさい仕事は全部俺任せ。
そのくせ、その仕事が完了した途端、全員がこうしてイチャモンの様な言葉を吐き捨て、俺を責める。
いつもの事。これが俺の日常だ。別に何も感じない。
「…………。」
でも何故か、今日はやけに胸が痛む。
あの野ねずみ野郎に殴られたせいかな……?
なんとなく動きたくなくなって大人しく横たわっていると、突然父が片手をサッと上げた。
すると、メンバー達は俺への攻撃を止めて、三歩程後ろへ下がる。
俺はコツコツ……という父が近づいてくる音を聞きながら、今までの沢山の思い出を振り返っていた。
気がつけば父と俺一人で、母親はおらず父は唯一の家族で、ブロッセン商会は俺が必死に守ってきた家。
だからここは俺が守らないといけない、俺の大事な────……。
「あ〜……アッシュ、お前、もういらねぇわ。」
目の前で止まった父からぶつけられた言葉が信じられなくて、俺は倒れたまま目を見開いた。
そして、聞き間違いだと思い、上半身を必死に起こそうとしたが……父はそんな俺の頭を踏みつけ笑う。




