(アッシュ)48 輝く世界!
(アッシュ)
比較的裕福ではない層の人間が住む貧民街、そこに孤児院があった。
街はモンスターから人々を守るために防壁で囲まれているが、やはりどうしようもできない脅威に晒され、街が全滅することだってある。
その際は勿論、防壁に近い者から犠牲になるので、街は中心部に行くほど金持ちが住んでいて、こうして最外層に住むのは貧乏人、特に孤児院は最外層に近い場所にあった。
直ぐにそこへと到着した俺は、楽しそうに遊んでいる孤児達を見つめる。
「……貴族にとっては、平民、しかも親なしの子供なんてゴミと同じか。」
思わずフッと笑いが漏れるのは、きっと灰黒い想いから。
人の不幸は、自分の心をこれほどまでに癒やしてくれる!
「……そう考えると、結局人って『使う』か『使われるか』の関係しかないんだろうね。
でも、俺は優しいからさ、それ以上使わないよ。しょっぱい世界で、お互い勝手に生きて勝手に死ねばいいと思ってるから。」
直ぐに孤児院の敷地内に立つ巨木へ飛び移ると、早速ターゲットを探す。
孤児達は、自分がいらない存在だというのに、顔には笑顔が浮かんでいて……それが癇に障ってイライラした。
更にソイツらは、街の人達からの寄付だというさつまいもの蒸したモノをシスターに配られ喜んで食べていて……それを見て、思わずチッ!と大きな舌打ちをしてしまう。
ばっかじゃないの?ただ”使われている”だけなのに、そんなに喜んじゃってさ。
心底哀れだとバカにしてやったが、同時にフッと昔の映像が過った。
『はぁ?お前何、生意気に人間様の飯を欲しがってんだぁ?クソ雑魚のゴミのくせによぉ!
────ほらっ!役立たずのお前にはコレでいいだろう!』
”ギャハハハ!”と笑いながら生ゴミを投げてよこす父と、それを見て笑う父の組織のメンバー達。
それを見ても、怒りや悲しみよりも空腹が勝る。
そんな子供時代を過ごした俺にとって、この景色は不快しか感じないモノであった。
『なんでお前達は苦労もなしにご飯を貰えて、笑って暮らせるの?』
怒りの矛先がなんだか変な方向へと向かっていくのに戸惑い、孤児達から視線を逸らすと、ちょうど隣の木を見上げて何かを探している少女がいる事に気づいた。
「…………?」
何やっているだろう?
そう疑問に思ったが、ソイツの髪の毛の色が銀色である事に気づき、ハッ!と気付いた。
この国には珍しい銀色の髪色……アイツがターゲットのリリス!
リリスは何かを探す様にキョロキョロその木を探した後、ハァ〜とため息をつき、なんと俺がいる木へ移動してきたではないか。
まずいな。このままでは見つかる。
直ぐに移動しようかとも思ったが、少しだけ興味が出た。
あのニコニコと幸せそうにしている孤児達から自ら外れ、一人で行動するこの少女に……。
黒いフードをしっかりと被り、顔が見えない様にしてリリスを待つと、リリスは上を見上げて、木の枝に座っている俺を見つける。
すると、目をキラキラと輝かせて突然話しかけてきた。
「……ね、ねぇ!貴方はそこで何をしているの?」
ギラつく目が清楚な見た目に似合わないと思いつつ、「別に?」とそっけなく答えてみる。
すると、リリスは顔を僅かに赤らめボケ〜としていたが、直ぐに正気に戻ったのか、それからワー!話しだした。
「私リリス!ねぇ、良かったら友達にならない?」
「え〜嫌だけど?」
だってどうせアンタ直ぐ殺すし?
どう考えたって無駄な提案をキッパリと断ってやると、リリスは両頬を膨らませ、わざとらしく怒った顔を見せてきた。
「酷いよ。ね?お願い!私達、同じ孤独を知っている同士、絶対に仲良くなれると思うの。」
キラキラ輝く笑顔で言われて────……。
吐き気がするほどムカついた。
「……へぇ?アンタ寂しいんだ?だったら、あっちに行けばいいんじゃない?」
笑い合いながらさつまいもを食べている孤児達を指差すと、リリスはウルウルと涙を目一杯溜めて、上目遣いで俺を見つめる。
「皆、私の事が嫌いみたいで意地悪してくるんだぁ……。私何にもしてないのに、教科書を隠されたり、悪口を堂々と言われたり……どうしてそんな事するのか分からない。
だから辛くて辛くて、あそこに自分の居場所はないの。
でも、同じ想いをしている貴方がいるなら、もう寂しくないと思う。
こんな事言っても信じられないと思うけど……私には貴方の孤独が一瞬で分かったよ。
私達は同じ者同士だって!
辛かったよね?悲しかったよね?私達の気持ちは同じだよ。私だけは貴方を裏切らない。
ずっとずっと側にいてあげるから、もう大丈夫!」
最後はニコッ!と満面の笑みを浮かべるリリスを見ながら、俺は呆然としたよ。
そして、言われた言葉を理解するまで、とてもとても長い時間がかかった。
その間にもリリスは喋り続け、いきなりキャッ!と恥ずかしそうにしたと思ったら、「それにダイエット中だから、さつまいもはちょっと……。」とか?「新しい服だって買って貰えないから……こんなダサい格好で恥ずかしいよ〜。」とか……。
可愛いらしい外見と、恥ずかしがっている様子を可愛いと思う男は世の中にいるとは思うけど、俺にはコイツがただの汚物まみれのクソと同じモノにしか見えなかった。
グチャグチャドロドロの醜悪な中身。
そこからは、酷い腐敗臭とヘドロよりも臭い臭気が漂う。
────気持ち悪い。
「へぇ?俺の気持ちを分かってくれるんだ?」
「────!う、うん!!分かるよ!」
リリスの返事を聞いた俺は、グツグツ煮えたぎる怒りを完全に隠して言った。
「でも俺、この手で沢山の人を殺したんだけど?それでも側にいてくれるの?」
手の平をリリスに見せつけてそう尋ねると、リリスはキラキラとまるで星が光っている様に目を輝かせる。
「貴方のせいじゃないから気に病んじゃ駄目。私も一緒に罪を償っていくから、苦しみは半分こしよう。
これからどうすればいいか一緒に考えて、頑張ろうよ。」
真剣な目で俺を見つめるその顔には、嫌と言うほど『自分が正しい』という想いが浮かんでいて……耐え難い憎しみが沸いた。
こんなクソみたいな女に償われる程度の罪らしいね、命を奪う行為って。
そのままキャーキャーと騒ぎながら、聞きたくもない自分語りを聞かされる。
それを肯定する様に頷きながら、これからどうやってこの女を苦しめてやろうかと考えた。
このままご自慢らしい顔をグチャグチャに引き裂いてやるか、皮膚を全部剥がしてやるか……とにかく苦しめて苦しめて、最後は殺してと願わせてやりたい。
その時の様子を思い浮かべてフッ……と笑うと、リリスは顔を真っ赤にして、輝く様な笑みを浮かべた。
キラキラ……。
キラキラ……。
きっとその目には、自分の見たい綺麗な世界しか見えないし、一生『他』を見ようともしないんだろうね。
だったら、その綺麗な世界、ぶっ壊してやるよ。
俺はリリスを酷く覚めた想いで見下ろしてやると、そのまま無言で立ち去った。




