(???)47 ……の人生
(???)
「…………っ。」
後ろから引っ張られる様な衝撃によって視線は正面から上へ。
目に写るのは、キラキラ輝く満天の星空だ。
顔をぶん殴られたせいで、まるで焼ける様な痛みがあり、気分は最悪だっていうのに……空はそれとは対照的に輝いている。
それが更に自分の気分を悪くした。
────ドサッ!!
大きく吹っ飛んだ自分の体が地面に落下すると、痛みは全身へと広がり、折れた肋のせいで息が酷く乱れる。
「……フッ……!!……っフッ!!……がっ……ハァ……ハァ……っ!!」
上手く体は動かせず、自分の頭の中に『敗北』の二文字が浮かんでくると……心を覆い尽くすのは、『恐怖』だった。
「…………ハァ……は……???……ハァ……???」
そしてその恐怖に支配された頭で、次に思い浮かんだのは────『何で?』だ。
だって暴力なんて毎日の様に振るわれているのに……俺は何に『恐怖』しているんだろうっ?って────。
◇◇◇
俺、<アッシュ>の人生である15年間は、殆ど全てが暴力に支配されたモノだ。
物心ついた時から父が立ち上げた組織に身を起き、毎日毎日よく死なないなという程厳しい戦闘訓練や、精神ぶっ壊れな汚れ仕事を無理やりやらされて生きてきた。
『何でこんな簡単な仕事なのに、まともにできねぇんだ!!』
『お前は本当に無能で役にたたねぇよな〜。これなら家畜の豚の方がましだな!クズ!!』
父は口を開けば俺への不満と攻撃的な言葉を吐きつけ、更に暇さえあればそのまま手が出て足が出て……きっと俺の役割を一言で言えば『好きに使えるサンドバック』だろう。
父いわく、俺が完璧に役に立っているのは、鬱憤を晴らすために大人しく殴られている時だけだそうだ。
後はどんなに命じられた事を上手くやろうが、プラスアルファーの成果を出そうが、貰える言葉は決まっている。
『そんなのできるのが当たり前だろ?』
『ちょっと上手く言ったからと言って調子に乗りやがって。なんだ?お前、俺をバカにしているのか?!』
そう言って、更に激しく殴られて放っておかれて……まぁ、辛かったかもね?
でも、そういう生活だって、日常になっちゃえば、それが俺の生きている世界なわけ。
だから特に、父に対しての怒りや自分の世界に対する不満はなくなっていった────が……俺にとって絶対に許せない事が一つあった。
それは────……。
『可哀想。話すだけでも楽になると思うから、良かったらお話聞かせてよ。』
『なんて酷い事を……。辛い気持ちはよく分かるわ。今まで悲しかったよね。どうすればいいか一緒に考えよう。』
『共感』『同情』、それを使って、俺に近づいてくる人、人、人。
ソイツらのいる世界はとてもキラキラしていて……きっと俺の今いる場所から見れば天国の様な居場所だと思う。
だからソイツらは糞溜めの様な場所にいる俺に、当然の様に手を差し伸べる。
『そっちの世界の辛さは全部分かっている。だから幸せ一杯のこっちにおいで。』
『ほら、ほら!こっちの世界は綺麗でしょう?羨ましいでしょう?今までの貴方の人生は全て間違いで、全て無駄だったね。可哀想に!』
そう言っては足を止めている俺に、嫌と言うほど自分の世界を見せびらかし、強引に輝く世界へと引っ張ろうとする。
それって、今までそこで必死に生きていた自分を全て殺せって事だよね?
強引に引っ張られると憎しみが湧いて、嫌だと言えば唾を飛ばしながら、自分の世界の素晴らしさや正当性を語る。
────で、気づくわけだ。
あぁ、コイツラは、可哀想な世界で生きてきた俺を自分の世界に置いて、使いたいだけなんだって。
可哀想で間違っている存在に手を差し伸べる自分!
偉いでしょう?優しいでしょう?あ〜……良かった!
自分の人生が、こんな可哀想なモノじゃなくて!!
俺はソイツらの幸せを再確認するのに、最適な存在らしい。
それに気づいた時は笑ったよ。
だから、そんな奴らは全員不幸のどん底に落としてやった。
騙して孤立させて財産も失わせて────そしたら揃いも揃って全員が、周りで助けを申し出る者達に唾を飛ばして怒鳴っていたよ。
『どうせ皆、俺の事を見下して笑っているんだろう!?
冗談じゃねぇぞっ!!人を見下して楽しいのか?!最低なクズ共め!!』
それを聞いた時は大笑い!
だって今まで自分がしてきた事じゃん!って思ったから。
結局全く違う世界で生きている人間を理解する事は不可能。
勝手に想像する『共感』は……俺にとっては、自分が幸せになるためだけの最低な道具としか思えなかった。
そんなある日、俺は一つの依頼を父から受ける。
『孤児院にいるターゲットを観察してこい』と。
投げてよこされた写真を、ジマジ見るとそこには銀色の髪をした、一人の少女が映っていた。
「?この女がターゲット?」
「あぁ、そうだ。在る人物からの依頼でな、酷く痛めつけてから殺してくれとのご依頼だ。
ターゲットの名前はリリス。
両親は流行り病で死亡、今は孤児院にいる。」
ペラペラと話される内容に、さして興味もなく『ふ〜ん』程度で聞いていた。
とりあえず理由は分からないが、この少女を消したいと願うヤツがいるらしい。
勿論、『なぜ』は聞かない。
大事な事は、気まぐれで使うサンドバックには言う必要がないらしいから。
「じゃあ、とりあえず、ターゲットを確認しに孤児院へ行くよ。
────もうやっちゃっていいの?」
ピラピラと写真を振りながら質問すると、父はニヤッと笑いながら言った。
「まだだ。もう少しあのバカ共が暴れてくれるまで待つ。だから、まだ接触しなくて良い。」
「ハイハイ、了解。」
機嫌が良い父を見て、これはかなり上手い話である事だけは理解する。
だから、また何かの拍子に不機嫌にならない内に、直ぐに俺は孤児院へ向かった。




