45 行かなきゃいいだけ
(ルーク)
黒マントの男は、突然フンフン〜♬と鼻歌を歌いながら、あれもこれもとどこかで聞いた様な世のセリフを言い続ける。
そしてひとしきり言い続けた後、突然声のトーンがガクンと落ちた。
「────ムカつくんだよ、まじでさ。全部、全部。
生まれも育ちも違う、今を取り巻く環境だって違うのに、一体何が分かるの?
そういうのって、結局は『理解』じゃなくて『拒絶』なんだよ。
自分の今が綺麗で完璧、お前のいる場所は汚い。そう思っているから自分の場所へおいでって手を引っ張るわけ。
中身空っぽな綺麗な言葉を吐いて。」
黒マントの男は、何かを握り潰すように開いていた手を閉じて、『ねっ?』と言わんばかりに首を軽く傾げる。
そのまま黙っていると、今度はハァ……と大きなため息をついた。
「そしたら引っ張られた先で、ソイツは一生汚い場所で生きてきた自分の過去に苦しむんだよ。
それがわからないヤツは誰も救えない。
ただの自己満足。ねぇ、そう思わない?」
ハハハッ!と今度は腹を抱えるくらいに笑いだす黒マントの男。
ここまできて、なんとなくこの黒マントの中身が見えてきた気がして、俺はプッと吹き出した。
すると、俺が笑いだしたため、黒マントはピタリと笑いを止めて不穏な空気を醸し出す。
「……何笑ってるの?あ〜もしかして自分のしてきた事で笑ってる?」
「いやいやwwちげぇよ。だからさ、行かなきゃいいんだって!
それがムカつくなら手を伸ばされても、引っ張られても無視すればいいだけだ。
差し出されるモノは選べなくても、何を受け取るかは選べるんだからさ。」
今度は俺が腹が捩れるくらいの大笑いをすると、黒マントの男はムッとした様で、更に不穏な空気は濃くなった。
しかし、俺はヒーヒー笑いながら、目尻に溜まった涙を拭く。
「俺からすれば、お前のその考えは間違ってないし、相手だって間違ってない。
それぞれが正しいと思っている想いがある、それで結構結構。
引っ張られるのも自由、そこで自分の納得する世界を作るのも自由、引っ張ろうとする手を取らずに新たな世界へ飛び出すのも自由。
だからそんなに必死になって、相手を否定する必要はなくないか?
それが救いになるヤツだっているんだから。」
黒マントの男の肩がピクッと一瞬揺れたのは、多分怒りのボルテージが上がっているから。
それが分かったうえでトドメとばかりに言ってやった。
「最後は自分で決めて、自分の足で動かないと何も変わらねぇよ、何があったってさ。
お前が激怒している事なんて、ただの変わるきっかけ程度だろ?
そんなモノに怒って相手を叩き潰したいとまで思うなら……それはただの八つ当たりだ。
自分の不幸を周りのせいにしてたら、めちゃくちゃ楽だもんな?wwや〜い!捻くれ者〜!」
「〜〜……っ!!!」
完全にプチン!とキレたらしい黒マントは、一瞬で俺の間合いへ。
大きく振り上げた足で、踵落としをしてきた。
それを交差した手で受け止めてやると、黒マントの男はチッ!!と大きな舌打ちをした後、また昨日と同じ様に黒い雷の様なモノを足に纏わせるスキルを発動したが……この間より威力は高いものの様だ。
俺達の周辺の地面までもが、バキバキと音を立てて凹んだから。
【王魔人】
< 絶死足(体)>
闇属性の魔力を足に纏わせ、敵にダメージプラス追加の腐食ダメージを徐々に与えていく事ができる特殊付与スキル
それに物理系攻撃属性もプラスされているため、更に威力が上がっている
(スキル条件)
スキル<絶死足>の条件を満たし、更に一定以上の物理攻撃力、スピード、物理ダメージによる瀕死体験を持つ事
「────なるほど、この間のよりまだ上があるのか。」
「当たり前でしょ?最初っから手札は全部見せない。」
黒マントの男は、そのまま怒涛の足技を俺に仕掛けてきたので、俺はそれを受け流しながら、攻撃のパターンを覚えていく。
とにかくスピードが早く、威力だって凄まじい。
この力は、きっとこの黒マントの男が、自分の人生の中で手に入れてきた『力』。
痛みと苦しみと、悲しみ、怒り……その全てが、この力を手にするための原動力になったはずだ。
「……お前、ホントに強いな。」
「────クソッ!!はいはい、それはどうも。なのに……どうして当たらないんだ────よっ!!」
強烈な回し蹴りは、しゃがみ込んで避けると、そのまま軽く足払いを仕掛けられたが────それはヒョイッと飛んで避けてやる。
「〜っあぁぁぁ〜っ!!っもう!!むっかつくなぁ!!何でだよ、クソッタレが!!」
空中で止まり、そのまま魔法陣の足場を作った黒マントの男は、そのままトントンッと後ろへ。
そして全身からブワッ!と魔力が溢れ出す。
【王魔人】
< 身体強化術(闇) >
自分の魔力を全身に巡らせ、ステータス値をUPさせる強化系スキル
更にそれに闇属性値もプラスされるため、通常の身体強化術より強化値は大UP
(スキル条件)
一定以上の魔力、闇属性魔力を持つ事
スキル<身体強化術 >を使い、一定回数以上の戦闘経験を持つ事
「一気に決めてやるよ。」
黒マントの男がそう呟いた瞬間、その姿は一瞬で俺の目の前へ。
さっきよりも更に早くなっている様だ。
そのまま俺の頭を確実に狙うハイキックを打ってきた黒マントの男に、俺は思わず「お見事!」と言ってしまった。
これは、どうみてもボスレベル!
ゲームでいうと、最終ステージに待ち受ける魔王レベルと言ってもいいかもしれない。
だが────……。
────ガッ!!!!
その蹴りを片手で受け切り、ニヤッと笑ってやると、黒マントの男は息を飲んだ。
「────っなっ……!!」
「ククク〜!悪いな?お前が魔王なら、俺はエンディング後の隠しダンジョンの主なんで〜!まだまだ……甘い!」
足を掴んだまま、その場で回って放り投げてやると────……黒マントの男は、大きく後ろに吹っ飛ぶ。
「────っクッ!!」
すると黒マント空中でクルッと回って威力を殺し、そのまま木の側面に着地すると、俺の方へと飛んできた。
そしてまた怒涛のキック攻撃をしかけてくる。
「なにわけわかんない事言ってんだよ!っつーか、アンタの言ってる事は、何一つわからないんだけど!」
「へぇ〜?お前、わかんねぇ事にこんなに怒るの?分かってっから怒ってんだろ?
いい加減、ダラダラ文句ばっか垂れてねぇで自分の足動かせ。
攻撃してくる時はこんなに動いてんだからさ〜。」
「〜〜っ〜〜っ!!!?」
ムカ〜ッ!!
あからさまな不快マックスの感情をぶつけられ、俺は呆れてしまいハァ……と大きなため息をついた。
こいつがココから動かない理由。
それが分かったからこそ、本当にバカだなと思う。
しかし────同時に、憐れにも思った。
『それ』は、きっと今置かれている場所が明らかにおかしいと分かっていても……足を踏み出す事をさせてくれないから。
その場所が存在する限り……。
「お前さ、ホントに強いよ。うん。前だったら、是非部下に欲しいって思っただろうな。」
「────ハァ?アンタの下なんて、死んでもゴメンなんだけど!」
キックの乱舞を受けながら、俺が正直な気持ちを口にしてやると、黒マントの男は鼻で笑った。
そしてフェイントが入った中段蹴りを肘で止めて、しみじみ語る。
「そんなに強いんだから、さっさと動けよ。
お前にとって、何が救いになるかは知らないが……とりあえず、そこに居続けても、欲しいモンは絶対に手に入らないぞ。」
「────ハッ??ホント、アンタ何言ってんの?うざいんだよ!!」
更にまたフェイントを入れた俺の足を狙う攻撃は、ヒョイッと飛んで避け、続けて放たれたハイキックも首を傾けて避けた。
そのままバキバキと壊れていく地面を見下ろしながら、俺はピッ!と下を指す。




