44 お客さん
(ルーク)
「ドルマシスタ〜!そんな優しい言葉で伝える必要はないです!あの女は、最低最悪の悪魔です。
あの歳で男をだまくらかして、気に入らないとソイツらを使って意地悪をしてくるんですよ!」
「そうですよ!この間だって、あの女にそそのかされた街の男達が大勢やってきて『リリスちゃんを虐めるな!』とか抗議しに来たんです!
ちゃんとそんな事してないって説明しているのに、全然信じてくれなくて、本当にムカつきました!」
「どうやら、孤児院の事をわざと悪く言って、優しくしてもらっているみたいです。
だから、余計に孤児院が廃れてしまってるんですよ!」
子供達と同じ様にキーキー怒るシスター達を見て、汗が流れる。
孤児院があんなに廃れているのは、どうやらお金の問題だけではなかったらしい。
確かに大抵孤児院というと、色々な寄付が街の人達からも集まったりするのにおかしいと思っていたが、まさかそういう理由だったとは……。
呆れて言葉を失っている俺の前で、ドルマが他のシスター達をなだめながら、俺に言った。
「お恥ずかしい話をお聞かせしてしまい、申し訳ありません。
リリスはきっと、他の人にはない『力』によって、変わってしまったのかもしれません。
強い力は時に人を変えてしまいますから……。
これでも必死に育ててきたつもりでしたが……残念ながら、私の声は全く届きませんでした。
これから出会う数々の人々との出会いが、彼女にとって良い出会いだと良いのですが……。」
本心で悲しんでいるドルマを見れば、きっと最大限努力はしたのだと思う。
だから、そんな頑張った人を責める事なんて事はできないと思った。
「仕方ないさ。人には相性ってヤツがあるからな。ドルマは頑張ったと思う。
それはセレンや他の子供達を見れば分かるよ。」
ワラワラと集まってはドルマにくっつく子供達や、孤児院を守るために矢面に立ったセレンを見れば答えは明白だ。
ドルマは、慰める様にペタペタくっつく子供達を見て笑うと、そういえば……と思い出したかの様に言った。
「リリスは今現在、まったく孤児院に寄り付かない状態ですが、才能ギフトが授かる前までは寧ろ孤児院から出ようとしなかったんです。
買い物などのちょっとした外出すら嫌がり、どうしたものかと頭を悩ませていたのですが、ある時から急に孤児院を抜け出す様になったのです。
それについて何度も説教していたのですが、リリスは全く聞いていない様子で一言こう言い放ちました。」
『もうここでできることは終わったから。』
「?できることは終わったってなんなんだろう?
あの黒マントが現れた後も言ってたもんな。……う〜ん、分からん。」
色々謎が増えていく事に頭がパンッ!と爆発し、とりあえず考えるのは止めることにした。
まぁ、そのうち分かるだろう!
俺は、スッキリした頭をコンコンと叩いた後、ソファーから勢いよく立ち上がると、そのまま手や足を伸ばす。
「とりあえずは、今はお客さんのお相手をするか。
こんなに早くお出ましって事は、相当焦ってんだろうな〜。
罪を擦り付ける予定の奴らを全部奴隷にしちゃったからねぇ?」
意地悪く笑うと、俺は窓からトンッと飛び出し、そのまま戦いやすそうな庭園の先へ飛んで行った。
すると、お客さんの魔力反応はそれをキチンとキャッチしてくれた様で、正門の方からまっすぐこちらへ向かってくる。
そしてちょうど広くて戦いやすそうな場所に到着後、直ぐに現れたのは……闇夜に負けないくらい真っ黒な出で立ちをしている一人の人物だ。
黒いマントに、黒い服……それは昨日孤児院で会ったばかりの────……。
「こんばんは。クソッタレの野ねずみ君。
よくも邪魔してくれたね。────覚悟、できてる?」
「よう、わざわざ遊びに来てくれてありがとうございます〜。
はて?何を邪魔したのかわかんないな〜。」
傍目から見る分には随分と静かに見えるが、内心はマグマの様にグツグツと怒り狂っているのは、言葉の端端に出ている刺々しい物言いで分かった。
これはそうとう、キテいるな。
冷静にそう思いながら、フッと黒マントの男の履いているブーツに目がいく。
黒のブーツに白銀の貴金属がついた機械的な外見を持つソレからは、不思議な『力』を感じた。
「────良いブーツだな。」
「あ〜ありがとう。これは、俺専用の戦闘用魔道具。だから、前と同じ結果にならないと思うよ。
……お前は邪魔だ。今倒しておかないと、これから全部邪魔されるって俺の勘が言ってる。」
<魔道具>
魔力を流す事で様々な事象を起こすことができる道具
戦闘に使う物から生活に使う物まで幅広く存在する
ただし、制作者のレベルによってその出来はピンキリ
黒マントの男は、トントンッとつま先で地面を叩くと、俺の住んでいる大きな屋敷の方へ視線を向ける。
「ハァ……。結局さ、アンタみたいなヤツにとっては、全部お遊びなんだろうね。
自己中心的な正義を振りかざして、人を助けて、それで感謝の目を向けられて……それって、自分がいる今の場所を最高に輝かせてくれるモノなんでしょ?
楽しいよね?自分より下の人間を使うと。」
クスクス笑う黒マントを見つめながら黙っていると、黒マントの男は、両手のひらを俺に見せつけるように開いた。
「なのに、そういう奴らって口を揃えて言うよね?
『そんな事は思ってない』『その辛さが分かるから助けたいと思った』って。
それで手を伸ばすわけだ。お綺麗な場所から『こっちにおいで、一緒に行こう』ってさ。
あ〜……他にも、『一緒にどうするか考えようよ』とかもあるかな?」




