(セレン)41 慈愛
(セレン)
「う……うそだ……っ!!だ、だってグリード家の子息は、ライアー様とスティーブ様……っ!」
「あ〜アイツらは愛人の子供だから、俺の腹違いの兄達な。
現在は、この厳し〜い世の中の洗礼を受けて床に塞ぎ込んでいる所で〜す☆
ついでにクソ当主とクソ奥様も同じ様に引きこもり人生謳歌中なので、もうすぐ追い出しま〜す♡」
悲痛な声をあげる筋肉ダルマの頭をグリグリと更に踏みつけ、まるで悪役の様にギャ〜ハッハッ!と笑うルーク。
その姿は傍若無人の暴君の様に見えるが……全然怖いとは思えなかった。
ルークはそのまま震えだした筋肉ダルマとヘビネロ商会の仲間達を見回し、顎に手を当てて考え込む。
「────で?つまりその土地代とやらは、俺のモノって事だよな?
ほら、とっとと返せよ。今直ぐに。勿論全額な?」
「そ……そんな事……できません!」
ブルブル声を震わせ答える筋肉ダルマを見下ろし、ルークはハァ……と大きなため息をついた。
「そうかそうか、じゃあこれは横領罪ってヤツだよな〜?
伯爵家の金を横領、更に返却拒否するなら……体で返してもらうしかねぇなぁ?
────おい、セブン、コイツら全員でどれくらい回収できそうだ?」
「────はっ!ざっと見積もっても、働き次第では八割くらいが回収可能かと……。
囮役や斥候役……それに危険地域への派遣、鉱石の発掘場、溶岩地帯への運送……。」
セブンと呼ばれた使用人は、胸元からメモを取り出し何かを書き出しながら、恐ろしい言葉を口にする。
それに真っ青になった筋肉ダルマとヘビネロ商会の奴らは、突然ドルマ達シスターへ向かって叫んだ。
「た、助けて下さいぃぃぃ〜!!もうこんな悪い事はぜってぇ〜しねぇと誓うから!!
これからは、心を入れ替えて、真っ当に生きっからよぉ〜頼むよぉぉ!」
「精霊神様は、慈愛の神なんだろう!?俺達にも平等に慈愛を下さいよぉぉ!お願いしますぅぅ〜!」
自分達がしてきた事を全てさておき、都合が悪くなると神と今まで散々踏みにじってきた慈悲に縋る。
呆れ果てるしかない私の前で、ドルマは……手を組み目を閉じた。
「確かに精霊神様は慈悲の神……罪を犯した人々にはチャンスを与えよと言うでしょう。」
「────っ!あ、ありがとうございますぅ〜!これからは絶対に迷惑掛けない様に、真面目に生きていきますぅぅ!!」
涙をボロボロと流し感謝する筋肉ダルマとヘビネロ商会の者達を見て、私は胸糞が悪くなる。
ドルマが許しても私は……!
カッカッしながら、もう一発……と足を踏み出そうとしたその時、ドルマは目を開け輝く様な笑顔を見せた。
「ですので、これからは馬馬車のように働いてしっかりとご自身の犯した罪を償ってきて下さいね!
生きて罪を償う事こそ、精霊神様の最大の慈悲ですから。
ルーク様、この度は、この者達に更生の機会を与えてくださりありがとうございました。我が教会一同、神に代わってお礼を申し上げます。」
ニッコ!ニッコ!!
それはそれは輝く様な笑顔でそう言うドルマに、筋肉ダルマ達は絶句し、一斉に青ざめたが、反対にルークは楽しそうに笑う。
「へぇ〜ただ優しいだけのシスターと思いきや、そういうわけじゃなかった様だな。」
「せっかく与えられた更生のチャンス……彼らにはそれが必要だと判断致しました。
慈悲は、ただ無闇に悪を許す事ではありませんから。
それに、私は戦う事で無関係な者達が傷つくならと、戦う選択肢を取らないだけで……断罪自体を否定しているわけではありませんよ。」
クスクスと楽しそうに笑うドルマは、ポカンとしている私の方へ視線を向けた。
「ルーク様の言うとおり、人を許し慈悲を与える事が武器だと言うなら、それを扱うのはとても難しい事。
なぜなら、それを与えた後の可能性が人それぞれ違うからです。
行くところまで行ってしまった悪人の涙は、反省や後悔からくるものではありません。
ただのこの場を切り抜けるための、便利な道具でしかないのですよ。」
ドルマは、涙を流しているヘビネロ商会の者達全員を見回し、心底ガッカリした様にため息をつく。
「これを常人の感覚で『反省した』と見なせば、新たな犠牲者を出すだけです。
きっと慈悲を成功体験とし、更に狡猾で効率よく人を陥れる悪を自分が育ててしまう……そんな事は神の遣いとして許すわけにはいきませんから。」
【信仰者のスキル】
< 罪悪の小さな覗き穴 >
謝罪を口にする者達の、感情を読み取る事のできる精神系特殊スキル
心から罪悪を感じているかが分かるため、罪人の更生期待度を判断する事ができる
(スキル条件)
一定回数以上懺悔する者達の心の内を知ること、更に罪の審判を下す事
「ふ、ふざけんなよ!このクソアマぁぁぁぁ!!!反省してるって言ってんだろうがっ!!
さっさとこのクソガキをどうにか説得しろよ!!」
「そうだそうだ!!神の遣いがこんな非情でいいのかよ!!?この罰当たりぃぃぃ!!!」
ドルマの答えを聞いたヘビネロ商会の者達は騒ぐ騒ぐ……。
これを見てしまえば、ドルマの言葉は非常に納得するモノである事が分かった。
ルークは一番ギャーギャー騒ぐ筋肉ダルマの顔をもう一度踏みつけて、ハァ……と呆れた様なため息をつく。




