32 ヘビネロ商会
(ルーク)
「さてと……まずは、孤児院の状況と街にいるゴロツキ達の正体を確かめねぇとな。」
家に到着した俺がまず向かったのは、セブンの所だ。
広い敷地内の中で、セブンがいる場所を感知しそこに向かう。
これは一ヶ月の間にできる様になった事の一つなのだが、人の魔力反応というモノはまるで指紋の様にそれぞれ違うため、一度覚えてしまえば居場所の特定は簡単にできる。
ただし、反応が微妙な人間や離れすぎてしまえば、他の沢山の反応に紛れて見つけるのが難しい。
「元々こういう感知系の能力に疎いっていうのもあるんだろうな〜。微々たる違いなんて、そこまで気にした事ねぇし……。」
基本は、自分より強いか弱いか。
そして戦いのクセや、弱点、それを考えた上で勝つための戦略……と、相手を見た時に最初に考えるのはソレ。
それが安全なモノだと分かれば、その後は物凄〜くマイペースに理解を深めていくので、息子や孫娘から見れば『ちょっと変』だそうだ。
「俺の才能ギフトは、前世で培ってきた努力が引き継がれたモノみたいだから、苦手なモノは苦手なままって感じっぽいな。
それは、これから頑張ろう!────あ、セブン発見。」
セブンはちょうど資料室から出てきた所で、両手に書類の束を抱えたまま、俺に気付いて頭を下げる。
「お帰りなさいませ、ルーク様。孤児院の視察は如何でしたか?」
「その事について話を聞きたいんだ。悪いが、今から時間はあるか?」
遠慮するセブンの手から書類の束の半分を受け取ると、セブンはニコッと笑った。
「はい、本日分の仕事は終わっていますので、問題ありません。では、執務室の方でお話されますか?」
「あぁ、頼む。」
執務室は当主が仕事をする部屋で、現在は俺がちゃっかり使わせて貰っている。
大体仕事の話をする時はそこでするため、俺達はいつも通りそこへ向かった。
◇◇
「どうぞ、ルーク様。お熱いのでお気をつけください。」
「お〜ありがとう。」
俺が部屋の中のソファーに座った瞬間、前にあるテーブルの上に紅茶が差し出された。
それを入れてくれた侍女にお礼を告げ、立っているセブンに座って欲しい旨を伝える。
すると、セブンは頭を下げた後、俺の向かい側にあるソファーに座ったので、俺は早速話を始めた。
「実は孤児院に、たちの悪そうな輩がちょっかいを掛けているみたいでさ。勝手に土地代だとか言って、毎月金を巻き上げているみたいなんだ。大したことのないゴロツキ連中みたいだったんだが……。」
「なんと……。それは酷い話ですね。
孤児院にはルーク様の指示通りに、キチンとした運営費を渡しているのに、そんな事に使われていたとは……。────ふざけてますね。」
日頃真面目にお仕事をしているセブンは憤っている様子を見せ、その後少し考え込んだ後に口を開く。
「街でよく問題に上がっている輩としてトップとしては、【ヘビネロ商会】でしょうか……。
商会と名乗っていますが、暴力や恐喝は当たり前の悪質な金貸しらしいです。
何度も守備隊のお世話になっている様ですが、組織内の人数が多い事と、牛耳っているのが貧民層の辺りである事から中々一掃できない様ですね。」
「なるほど……。【ヘビネロ商会】ねぇ? 」
要は貧民達相手に暴力や恐喝をする分には手を出さないよと、俺の父親は放置していた様だ。
そのせいで、迷惑な連中が野放し。
結果、貧民街に住む者達は余計に暮らしが苦しくなっていると……そういう事らしい。
俺は頭が痛くなるような事実に、ハァ……と大きなため息をついた。
「規模が小さいウチにさっさと潰しときゃ良かったのに、あのバカ親父が。ホント無能なご当主様だな〜あんにゃろう。
要はどうしようもないチンケなチンピラが集まってできた、素人集団って所か。
だが……一人だけ別格の奴がいた。
あれもヘビネロ商会の一味なのか?声を聞くにはまだ年若そうだし……どうも引っかかるんだよな〜。」
「なるほど……。ルーク様がそこまで言うなら、相当の実力者なんでしょうね。
しかし、それほど突出した者の名は、少なくともこの街で聞いた事はないですね。
ヘビネロ商会のメンバーなら、名前くらいは上がりそうですが……。」
「……う〜ん。確かに。────なぁ、お前達もなんか聞いた事ある?
些細な噂話とかでもいいんだけど。」
俺が部屋の隅に控えている、侍女の<サリー>と執事見習いの<ザムザ>に声を掛ける。
二人は俺がルークになった日に、料理を持ってきて床に落とした奴ら。
断罪後は、勿論故郷に帰る組になるかと思いきや……なんと俺に土下座をして、再び謝ってくるという根性を見せてきたのだ。
基本断罪後に去っていったのは、従事するのに適した才能もなく、努力するつもりもない見た目麗しかった愛玩用の者達だったそうで、そんな奴らに真面目に仕事をしている組の者達は、バカにされたり意地悪されたりで散々な目に合っていたらしい。
それを当主であるルストンに告発しても、愛玩用の味方しかせず、不満と怒りで満ち溢れていたと、涙ながらに語られた。
そして────……。
『ルーク様を”自分よりも酷く扱っていい存在”だと考え、俺は八つ当たりをし続けてました。それで自分の不満や鬱憤を晴らしていたのです。何一つ状況は変わらないのに……。』
『毎日毎日外見の事でなじられ、どうしようもできない事が辛くて辛くて……。
もっと可哀想な存在がいれば……自分はマシなんだって思えて……辛さを忘れられたから……。私、本当に最低でした!!』
二人は静かに話を聞く俺を前に、自分の想いを吐き出した後、同時に大声で叫んだ。
『『申し訳ありませんでした!!もし許して頂けるなら、これから一生仕えさせて下さい!!』』
それから1ヶ月後、別人の様に生き生きと仕事をし始めた二人は、今やセブンを支える期待のルーキーになった。
まぁ、ひ孫より下くらいの若者がこうして立ち直って頑張る姿は、感動しちゃうよな。
ジ〜ン……と感動する俺の前で、ザムザとサリーは考え込む表情を見せ、先にサリーの方が口を開いた。




