(セレン)26 悔しい……
(セレン)
「ハイハイ、注目〜!優しい優しいおじさんが、今月の足りない分を取り立てに来ましたよ〜♡」
シスター達が出稼ぎに行き、孤児院で小さな子供たちの世話係をしている時────ヘビネロ商会の奴らがやってきたのだ。
「……シスターは只今おりません。お引き取りください。」
そう伝えたのだが、男たちは孤児院の中のモノを破壊し始めたので、私は直ぐに子供たちを後ろに庇い木刀を握る。
「子供たちが怖がっているだろう!このゴロツキ風情が!!さっさと消えろ、金に群がるクズ野郎共!!」
「うるせぇんだよ、このガキがぁぁぁぁ!!!ふざけてんじゃねぇぞ!!」
怒りのまま怒鳴り散らせば、相手の男たちも怒鳴り返してくる。
大方、直ぐにギブアップすると思っていた貧乏孤児院が粘ってくるため、強硬手段にでも出たという所だろう。
もしかして、子供達を売りつける最高の契約相手でも見つけたのかもしれない。
煮えたぎる様な怒りを必死に押さえていると、男たちは相変わらず無茶苦茶な事を言ってきて、更にその内の一人がニヤニヤしながら近づいてきた。
「ま、どうせ金なんてないだろうから、その体で支払うしかねぇよな〜?可愛い顔してるし、そのぐらいの金なんて直ぐ稼げそうじゃん。俺達が仲介してやっからさ、後ろのガキ共も一緒に……な?」
ここでもう限界だった。
────バキッ!!!
木刀で、その男の伸ばしてきた手を叩き落としてやれば、そいつは情けない悲鳴を上げる。
「ぎゃっ……ぎゃあぁぁぁ!!!」
「────っ!?こ、このガキッ!!!」
そして後ろにいた別の男が剣を抜いて襲いかかってきたので、私はソイツを思い切りぶっ飛ばしてやった。
その瞬間、自分の中に溢れるのは、喜びとワクワクする気持ち。
自分の信念のために戦う事。
それが……やはり自分の気質にはとても合うものなのだと理解する。
そして、私はさっきからビリビリと肌に刺さるような魔力を感じる黒マントを被っている男へ視線を向けた。
「……お前がコイツラのボスか?」
「え、違うけど〜……ま、今はそんな所かな?」
やる気があまり感じられない様子……。
だけど、今直ぐ逃げろ!と自分の体が訴えてくる様に、鳥肌が立ったまま治らない。
恐らくコイツだけは別格だ。
本能的な恐怖を感じている私を見抜いているかの様に、黒マントの男はわざとゆっくりと私の方へ歩いてきた。
「悪いけど、この教会を適度に追い詰めろって命令されてるからさ、諦めてくんない?
俺、面倒くさいの嫌いだから大人しくしていてくれると助かるんだけど。」
「……馬鹿か?大人しく殴られろって?」
そんなヤツがいるわけない。
当たり前の事を言っているというのに、奴は不思議そうな顔で「え、そうだけど?」と不思議そうに答えた。
「────は???」
一瞬言葉を失った私に、黒マントの男は更にとんでもない事をペラペラと話してくる。
「え?だって、結局結果って変わらないでしょ?
だったら、大人しく従っちゃった方が楽だと思うし……そもそも、なんでソレかばうの?」
「だって、そんなモノ邪魔なだけでしょ?今この場で一番役に立たないモノ。
だから、一番いいのはソレを俺達に差し出して、『好きに使っていいから自分は助けて欲しい』って交渉する事じゃない?
ほら、見てみなよ。その助けて貰って当たり前って思っている顔。
アンタがどんなに自分の身を犠牲にして守ったって、ソイツらは自分が助かってラッキー♬くらいにしか思ってないよ。
ねぇねぇ、楽しいの?その自己犠牲ってヤツ。」
そこまで言われて私は理解した。
コイツには、人の心というものがない。
平気で他人を犠牲にして、罪悪感など微塵もない……両親とは真逆にいる様な人間だ。
「子ども達を犠牲にしろなんて、よく言える。私達は家族。だから見捨てたりなんてしない。」
「……へぇ〜?」
家族亡き今、この孤児院の者達は全員が私の家族だ。
それはどんなに意見が違えど、変わらない。
だから自分の意見をしっかり口にすると、黒マントの男から、何故か嫌な空気を感じ、緊張は一気に高まった。
「…………っ。」
胸が苦しくなりそうな威圧感に汗が大量に吹き出したが、ここで引いたら子供達が連れてかれる。
だからこそ踏ん張っているというのに、黒マントの男は更に威圧感を高めて、クスクス笑った。
「そういうの、気持ち悪い。
家族?絆?正義??……そ〜いうのさ、いる?この世界に。力が全て無情なこの世界で。」
「なにを……?いるに決まってる。寧ろこんな酷い世界だからこそ、必要なモノだと思う。」
多分それをいらないと言えば……この世は強いヤツしか生き残れない暴力だけの世界になる。
まだ自分がどうしていきたいかはハッキリ言えないが……少なくとも、私が求めている答えはそこにはない。
戦うのは、自分と自分の大事な人が害される時。
寧ろ、理不尽な暴力や一方的な搾取が許せないから、私は戦いたいのだ。
「…………ハァ。」
黒マントの男は、私の答えが気に入らなかったらしく、ため息をつくとそれからは一方的な暴力が始まった。
悔しい……。
手も足も出ない!
体の痛みに耐えながら悔しくて悔しくて……黒マントの男を睨みつける。
しかし────そんな怒りの他に、喜びもあった。
女だから。
子供だから。
そんなモノ関係なしに、容赦なく戦ってくれる。
それが嬉しかったから。
怒りと悔しさは全て、自分の力のなさに対してだった。
女だから、子供だから、可愛いから……だから『守ってもらう』のは嫌だ。
そんなモノはいらない。
これで死んでも……自分の人生は満足だ!!
容赦なく頭を踏まれ痛みに呻くが、戦って負けたなら本望。
しかし、子供達が震えながら床に散らばっている木の破片や本の残骸などを手に取り、黒マントの男を睨みつけたのが見えると、血の気は引いてしまった。
「セレンねぇちゃんから離れろ!!」
「ばか────!!セレンねぇちゃんに謝れ!!」
「……み……みん……な……に、逃げっ……。」
駄目だ!
多分その攻撃とも言えない行動は、黒マントの男に大義名分を与えてしまう行動だと気付いたため、必死に手を伸ばす。
このままじゃ……子供達が殺される!!
無慈悲にも手が届かない事に絶望した、その瞬間……!!
────パシッ!
子供達が投げたモノは、突然現れた人物の手の中へ。
これには私だけじゃなく、黒マントの男も驚いているのが分かった。
この人は……?
外見は同じ歳か年下の少年のモノ。
でも病気なのか?凄く痩せていて心配になるくらいだ。
「よう。随分と楽しそうに遊んでいるみたいだったから、窓から『こんにちは』しちまったわ〜。俺も、混〜ぜ〜て☆」
あっけらかんと言ったこの少年を、黒マントの男はひどく警戒した様子で見ている様だった。
私もその少年の魔力反応が、あまりにも静かで驚いてはいたが、そこまで警戒する程のモノは感じられない。
しかし────その後の二人の戦いを見て、その警戒の意味を知り、非常に納得してしまったというわけだ。
今現在、目の前で戦い続ける二人を見て、私はゴクッと唾を飲み込んだ。
「…………っクソっ!!」
「 へぇ〜やっぱりお前強いじゃねぇか。今まで見た中でダントツだ。」
傍目から見れば、黒マントの男が一方的に攻撃し攻めている様に見える。
足技の連続攻撃はスピードが早すぎて、私の目から見たらもはや光の筋にしか見えないのだが……相手の少年は、そんな攻撃の全てを軽々と避けているのだ。
実力が違う……。
そう確信を持つくらいその実力は測れずとも、その差は大きい事が分かった。
勿論黒マントに手も足も出なかった私とは、更に大きい────。
「……悔しい。」
その差に悔しさを感じながらも、しっかりとその戦いを見届けようと、必死にその戦いを追いかけた。




