23 いる?この世界で
(ルーク)
アイツだけ、なんか……変。
多分強いんじゃないかな?とは思うが、微細な反応の違いが俺には分からない。
「んん〜……どうなんだろ?イマイチまだ力の使い方が分からん。」
とりあえずスキルを使って正体を見極めようとしたが……突然ソイツから、ふわぁぁ〜……という気が抜けそうになる欠伸の音が聞こえたため、一旦それを止める。
セレンの方も、黒マントの人物の余裕たっぷりな様子に気付いた様で、警戒しながらそいつを睨みつけた。
「……お前がコイツラのボスか?」
「え、違うけど〜……ま、今はそんな所かな?」
やる気があまり感じられない様子で答える声は、まだ大人になりきっていないが変声期は終えたモノの様だ。
姿は見えないが、背は高いしその正体が男性である事は間違いないだろう。
黒マントの男が喋り始めると、セレンの前にいた男二人は、まるで道を譲る様に左右に避けた。
すると、その黒マントの男はゆっくりとセレンの前に向かって歩いていく。
「悪いけど、この教会を適度に追い詰めろって命令されてるからさ、諦めてくんない?
俺、面倒くさいの嫌いだから大人しくしていてくれると助かるんだけど。」
「……馬鹿か?大人しく殴られろと言うのか?」
セレンが怒りに満ちた目で睨むと、黒マントはセレンの前で止まり、首を大きく傾げた。
「え、そうだけど?」
「────は???」
本当に不思議そうに答える黒マントに、セレンは一瞬言葉を失った様だが、直ぐに木刀を強く握る。
「理不尽な要求をして……更に襲ってくるヤツに、どうして大人しく殴られないといけないんだ!?そんな事絶対にしない!」
「え?だって、結局結果って変わらないでしょ?
だったら、大人しく従っちゃった方が楽だと思うし……そもそも、なんでソレかばうの?」
黒マントの男は、スッ……とセレンの後ろにいる子ども達を指さした。
言っている意味が分からず怪訝な顔をするセレンに、黒マントの男はペラペラと喋り続ける。
「だって、そんなモノ邪魔なだけでしょ?今この場で一番役に立たないモノ。
だから、一番いいのはソレを俺達に差し出して、『好きに使っていいから自分は助けて欲しい』って交渉する事じゃない?
ほら、見てみなよ。その助けて貰って当たり前って思っている顔。
アンタがどんなに自分の身を犠牲にして守ったって、ソイツらは自分が助かってラッキー♬くらいにしか思ってないよ。
ねぇねぇ、楽しいの?その自己犠牲ってヤツ。」
「は……はぁ???」
セレンは言い分が全く理解できないのか、一瞬目を見開いたが、直ぐに表情を引き締めて黒マントの男を睨みつけた。
「子ども達を犠牲にしろなんて、よく言える。私達は家族。だから見捨てたりなんてしない。」
「……へぇ〜?」
ふざけた態度から一変、なんだか冷ややかな……嫌な空気がその場に漂い始める。
それを敏感に察知したらしいセレンが、汗を掻きながら木刀を構えたが、黒マントの男はダランと力を抜いた状態で余裕そうに笑った。
「そういうの、気持ち悪い。
家族?絆?正義??……そ〜いうのさ、いる?この世界に。力が全て無情なこの世界で。」
「なにを……?いるに決まってる。寧ろこんな酷い世界だからこそ、必要なモノだと思う。」
「…………ハァ。」
黒マントの男は心底面倒くさそうにため息をつくと、一瞬でセレンに間合いをつめる。
「────っ!??」
突然の事にセレンは驚き反射的に木刀を振ったが、黒マントの男はしゃがみ込む形でそれを避けると、そのままセレンの足を払う。
「────くっ!!」
慌てて体勢を整えようとしたが……黒マントの男の方が早い!
黒マントの男に腹を思い切り蹴られたセレンは、大きく吹っ飛んだ。
「……っが……っ!!」
「はい、弱い弱い。もうちょっと頑張ってよ、正義の味方さん?」
セレンは直ぐに空中で体勢を整え、そのまま追いかけてきて強烈なキックの乱舞をしてくる黒マントの攻撃を、なんとか木刀で流そうとする。
しかし、黒マントの男は全然本気じゃないというのに、セレンの息はどんどんと上がっていった。
「……ハァッ!……ハァッ……っ!!」
「えぇ〜?もう息が上がっちゃった?このままだとアッサリ死んじゃうね。お疲れ様でした〜。」
黒マントの男は、また木刀の攻撃を避けると、グッとしゃがみ込み、そのままセレンの顎を突き上げる形で蹴り飛ばす。
「────っ〜っ!!……ぐぅ……っ!」
顔を歪めてのけぞるセレンを、黒マントの男はなんのためらいもなく、回し蹴りを食らわせふっとばした。
「き……きゃあぁぁぁ!!」
「セレンおねぇちゃん!!!」
そのまま派手に吹っ飛ぶセレンを見て、震えていた子ども達は泣きながら叫ぶ。
すると、黒マントの男は、心底嫌そうにそんな子供達の事を見た。
「あのさ〜泣いてたって誰も助けてなんかくれないんだけど?アンタ達全員、親なしで死んだって誰も困らないゴミなんだからさ。
良かったね〜?そんなゴミの代わりに、痛い思いしてくれる馬鹿がいてくれて。」
黒マントの男はなんとか立ち上がろうとしているセレンの所まで飛んでいき、その頭を踏みつける。
すると、子供達はブルブル震えながら、床に散らばっている木の破片や本の残骸などを手に取り、黒マントの男を睨みつけた。
「セレンねぇちゃんから離れろ!!」
「ばか────!!セレンねぇちゃんに謝れ!!」
「……み……みん……な……に、逃げっ……。」
そのまま震えてまともに動かない手で、黒マントの男に向かい拾ったモノを投げつけようする子供達。
セレンは必死に逃げる様に伝えたが、子供たちはその手にあったモノを離した────が……。
────パシッ!
投げられたモノは、全て俺の手の中。
何故なら、俺がその間に入り、それを全てキャッチしたからだ。




