18 主人公
(ルーク)
「おはようございます、ルーク様!」
「「「おはようございます!!」」」
「お〜、おはよう。」
ビシッ!と気をつけしたまま俺に挨拶を告げていく使用人達に挨拶を返しながら、俺は朝早くから屋敷内にある図書室に向かう。
全員きっちり制裁してから、約一ヶ月という月日が流れた。
使用人達は俺が命じた通りきっかり3日間、男は全裸、女は坊主という屈辱的な格好で屋敷の前に立ち続け、その後半分ほどの者達は故郷へ帰り、少々困難になってしまった人生を生きていく事を決めた様だ。
しかし、意外だったのは残りの半数の者達だった。
自由になったその日に、その全員が俺に向かい土下座をしてきたのだ。
「今まで大変申し訳ありませんでした。どうか許して頂けるなら、これより我々従業員一同、ルーク様に誠心誠意仕えていきたいと思います。」
その言葉に嘘はない事は、彼らの目を見ればよく分かった。
時に大局に流されないと、生きていく事は非常に困難なモノだ。
だからこそ、それをする事自体は『悪』ではないが……それも一線を超えれば、『悪』へと変化する。
何もしていない少年ルークにしてきた事は、絶対に流されて辿り着いては駄目な場所だった。
どんどん過激になっていくその扱いを見て、最初は抵抗があった奴らもいたのかもしれないが……結局は楽な方へ全員流れてしまったのかもしれない。
まぁ、なんにせよ、きっちり制裁もしたし、新しくルークとなった俺は、これ以上彼らを責めるつもりはなかった。
「分かった、許す。これからはしっかり自分の頭を使い、物事の良し悪しを考え続けるんだな。時に大局に流されても逃げでも構わないが、人としての一線だけは越えるなよ。」
「……っは、はいっ!!!」
涙を流し反省している使用人達を見て、それなりに長い人生を生きてきた者として嬉しく思う。
必死に変わろうとする姿は、いつだって感動させられるってもんだ。
ジ〜ン……。
自分の若かりし頃もついでに思い出し感動しながら、俺は到着した図書室に入る。
そしてとりあえず目についた良さげな本をどっさりと手に取ると、室内にあるテーブルへと運んだ。
まずは、この世界の常識を学ぶ。
そしてこれからどうしたいかを考えようと思ったのだ。
「俺は死ぬはずだったグリード家の無才能少年ルーク……いわゆるゲームの中ではモブ的な立場ってやつだ。
だから、これからの人生をどうやって生きても、きっと『グラン・リリスの白い華』のストーリー上に関わる事はないだろう。さぁ……どうしようかな。」
ドサッ!と置いた本の中から何冊か手当たり次第に読んでいくが、元々の頭が良くないせいか、集中力は長くは続かず、直ぐ近くにある窓へと視線を向ける。
そこには外の景色の他に────うっすらと自分の今の姿が映っているのが見えた。
前世と対して変わらない系統の、イケメン……とは言えない素朴な顔立ちに、ダークブラウンの髪。
何だか既視感を感じる系の外見をしている自分の顔を見て、ふ〜む……と複雑な想いで自分の姿を見続ける。
「……なんだか馴染がありすぎる外見なんだよなぁ。別人になるんだから、もうちょっと違和感があるかと思ってたんだけど……。
そういや〜父親の方はツリ目で派手な顔立ちだったから、ルークの顔はきっと母親の方に似ている顔なのかな?
────まぁ、顔なんてなんでもいっか!人間は中身で勝負だ。
俺の死んじまった奥さんの千代だって、俺の馬鹿だけど努力できる性格が好きだって言ってくれたし〜。」
ブツブツと自分の信念みたいな事を呟きながら、とっくの昔に死別した女房の事を思い出した。
俺の前世の奥さん<千代>
元は上官でもあった千代はべらぼうに強く、夫婦喧嘩の時には俺の方がボコボコ!
正直今でも勝てる気がしないのだが、そんな強くておっかない千代が一度だけ俺の好きな所を言ってくれた事があった。
『アンタ馬鹿だけどブレないし、正しくいようと努力はできる男だよね。
とんでもない方向へぶっ飛ぶ事も多いけど、結局そういう所が嫌いじゃないから結婚したんだ。
だから、ずっとそのままでいてよ。────面白いから!』
最後は誂うように言っていたが、きっとこれは千代の本心だったと思う。
何が正解で何が間違っているかなんて、馬鹿な俺にはよく分からないが、俺はどんな道を選んでも……きっと馬鹿みたいに突っ込んでいって、馬鹿な頭で沢山考えて、馬鹿みたいに努力し続ける。
心底惚れた女が好きだって言ってくれた俺のままで。
「……あ〜うんうん。まぁ、何を選んでも変わらないか、今までと。
じゃあ、どうせなら前世では味わえなかった青春時代ってやつを経験してみよっかな!楽しい楽しい平和で穏やかな学生生活ってヤツ!孫娘の話を聞いて、ちょっと憧れてたんだよ。
順当にいけば、才能を鑑定してもらった後に目指す場所は……【聖グランド学院】か。
でもそれって、ゲームの舞台にもなる場所なんだよな〜……。」
腕を組みながら、ボンヤリと窓の外でバラバラに舞い上がる葉っぱたちを見つめた。
15歳の誕生日に才能ギフトを鑑定後、授かった才能を伸ばす事を望むなら国が管理している教育機関への進学が可能となる。
それが【聖グランド学院】だ。
ただし、勿論才能を伸ばす事が目的であるため、その年の最後の月に行われるめちゃくちゃ難しい試験に合格しなければ、そこへ入る事はできない。
つまりエリートのみが、この学院に通う事が許されているのだ。
そのため、幼き頃から英才教育を受けている貴族の方が圧倒的に数が多く、ほぼ9割以上の生徒が貴族なのだが……稀に強力な能力を持った平民が合格する事がある。
それこそがゲームの主人公である────<リリス>だ。




