(ルストン)17 一つの正しさの終わり
(ルストン)
「そうだ!親なら当然の事だろう!?
だから、それに協力してくれたルークには今までのお礼として多額の謝礼金を払い、これからの生活で困らない様便宜を払うつもりだったんだ。
一生金に困らず、貴族としての責任は兄たちに押し付けて自由で最高な暮らしができるんだ!最高だと思わないか?
だからこそこれまでの冷遇は、その代価という事だ。全体的に見れば、これでウィン・ウィンな関係になるだろう?」
「ほぅほぅ……。」
ルークがうんうんと頷いてくれたので、俺はチャンスだと思った。
ここで油断させ、金をたんまりやって屋敷から追い出す。
そしてその正体不明な強さを可能にしているアイテムの情報が手に入り次第……この俺に屈辱を与えたルークを確実に消してやろう!
土下座をしながら、俺は見えない様にニンマリと笑った。
最後は必ず俺が勝つ!
だから今は引いてやるが……絶対に死ぬより辛い目に合わせてから消してやるかな!!
そんな殺意を完全に隠してひたすら土下座スタイルをキープしていたのだが……ルークから返ってきた反応は、大きな笑い声だった。
「プッ……ブブッ!!ギャハハハ〜ッ!!!ハーッ!ハーッ!!ひ〜っひっひっ!!いやいや、お前何言ってんの!?全然いい環境じゃねぇじゃん!!寧ろそれ、虐待じゃねぇ〜か!」
「……はっ?ぎゃ、虐待……??」
言っている意味が本気で分からなくて、呆けた表情で顔を上げると、ルークは目尻に溜まった涙を拭き取りながらまだ笑っている。
「ハハハッ!!だ〜か〜ら〜虐待だよ、虐待〜!だってそうだろう?
わざわざ『下』なんて用意しちまえば、もう『上』を見れないクソ雑魚野郎に育つだけじゃねぇか。
下にばかりに目が行く様になれば、人の成長はそこまで。
子供の成長を止めて、これからコイツらはどうやって世を生きていくんだ?常に変化し続ける厳しくて冷た〜い世の中を。」
「……は……は……???」
ライアー達を指差し、笑い続けるルーク。
その姿に、完璧に自分という存在が拒絶された様な気がして、ぐわんぐわんと衝撃に頭の中が回った。
こいつは……一体何を言っているんだ???
呆けた俺を、心底軽蔑した様な目で見てくるルーク。
そこで大声で怒鳴りだしたのは、木につるされているスティーブだった。
「ふっざけるなぁぁぁぁ!!!!なんだんよっ!!!お前はよぉぉぉぉ!!!俺達を……俺達家族を馬鹿にするなぁぁぁぁぁ!!!」
魂の叫びとも言える必死な訴えにも関わらず、ルークはプッ!と吹き出し、また腹を抱えて笑う。
「いや、だってバカじゃん。今からそんなぬるま湯に浸かって、お前達はこれからどうやって生きていくんだよ。
常に『下』を作り続ける人生を送る気か?その人生が崩壊するまで?」
「 そ……そんな……事……っ……崩壊なんて……絶対……っ。」
「起きないってか?この、お前にとっての『幸せ』が、この先ず〜……っと続くとでも?
────無理なんだよ、人には寿命ってもんがあるんだから。
自分の体が動く時にこんな方法で悦っていたヤツは、歳を取れば……必ず『下』へ転落する時が来る。
今まで用意されていた『下』の『上』で笑っていたヤツの中で、それに耐えられたヤツはいねぇよ。
こうやって、いつか散々馬鹿にしてきた『下』に復讐される未来が迎えにくるんだ。
だから、本当に賢い奴は、そんな恐ろしい未来の可能性を作らないさ。」
ルークは俺を指差し、フッ……と笑うと、ライアーとスティーブは意気消沈し黙り、周りにいる使用人達も黙って俯いた。
そんな奴らを俺は震えながら見回し……ダラダラと汗を大量に掻く。
こんなはずないこんなはずないこんなはずない。
これは現実ではない……夢……悪夢だ……っ!!!
心の中で現実を全否定しながらも、苦しみ藻掻き変わり果てた姿になっていく美しかったフルートの姿を見て……ゾゾゾォォ〜!!と背筋を凍らせた。
「ま、待ってくれ!!これは本当に誤解だ!!そ、そもそも、復讐というなら……お前だってこの場にいる奴らにいつか復讐されるぞ!!!それでいいのか!!?」
「────あ、そういえばさ、お前さっき回復薬とか言ってたけど、今持ってんの?」
突然の話題転換に驚きはしたが、しめた!と内心ほくそ笑む。
回復薬は非常に高価なモノで、更に俺が持っているモノはレベル7という純度の高い最高級品だ。
勿論売ればかなりの値段になるため、ルークはそれに目をつけたに違いない!
「────あぁ!持っているぞ!ほら、今は手元にあるのは数本だけだが……まだまだ屋敷の中には沢山ある!それを好きなだけやろう!だからこの場はこれで────……。」
俺はジャケットの前ボタンを外し、中の内ポケットを見せびらかす。
伯爵家なら、万が一強敵に襲われた事を想定し、従者が犠牲になっている間に回復し助けを待つ、または逃げる事を考えるモノだ。
そのためにこうして常に回復薬は常備しておく。
だから俺の内ポケットには、まだ数本の予備が装備されていた。
ニヤニヤと笑みを浮かべながらそれを見せつけてやると、ルークは俺の前に立ち、それを一つ取り出す。
「なるほど……こんなモノまであるのか……。これも魔法の力で作り出したモノ……魔法については勉強が必要だな。」
ブツブツと呟きながら、ルークは小瓶に入った回復薬を夜空の光に向かってかざしながら、まるで世間話をする様に言った。
「あ、そうそう。さっきの復讐がどうとかいう話。
そうなんだよな〜。人間って本当に面倒で、どんなに自分が悪くても復讐されたらまた復讐をしてくる奴が多いんだよ。
多分、自業自得ってやつを受け入れられないんだろうな〜。
まぁ、そもそもそれを簡単に受け入れられるヤツは、最初から復讐される様な事はしねぇだろうけど。」
「ハ……ハハハッ……。」
曖昧な笑みを浮かべながらも、俺の心はその復讐心で一杯だ。
自業自得?
そもそも、この俺に逆らうルークが悪いというのに、何を反省する事がある?
だって俺は由緒正しき伯爵家の当主。対してルークは無才で生まれてきた、役立たずの長男。
俺の様に生まれも才能も、フルートの様な美しさや賢さ、そして息子達の様な才能や度胸もない弱者であったのだから……俺達は何も悪い事はしてない。
悪いのは、そんな俺達のために思い通りに動かないルークと、今の目の前の事実の方だ!!
明確な怒りと憎しみ、復讐心を完璧に笑顔の下に隠し、ニコニコしていると、ルークも同じく笑顔を見せた。
「そういう奴は駄目だな。もう、手遅れってヤツ。ただただ自分の欲望のために、周りを壊し続ける化け物だ。
ただ────その見極めが難しいんだ。なにせ、人の姿に擬態してっから。」
「…………。」
笑顔のまま固まる俺を見下ろし、ルークは口端を僅かに上げる。
そして、俺の内ポケットから全ての回復薬を取り出し────表情をなくした。
「だから俺は、いつも一度だけチャンスを与えてやるんだ。
徹底的にやり返した後は、自由を与える。
人間ってのは根本は変われねぇ弱いヤツが多いからさ、本当の意味で変わらなくとも、今後世に迷惑を掛ける事なく生きていくなら見逃す。
だが、もう一度自分にとっての楽園を取り戻すために復讐しようとしてきたら……次はない。分かるか?」
「……あ……な……何をするつもりで…………。」
雲行きが怪しくなってきたのを感じ、やっとの事で尋ねたが……ルークは笑顔で俺の顎を掴み────……。
────ゴキッ!!!
上下の顎の骨をズラして折った。
「〜っあ”あ”あ”……ああああああああ〜ッ!!!」
ちゃんとした言葉も喋れなくなった俺を、見下ろす絶対強者であるルークは、優しい手つきで俺の人差し指を掴む。
「回復薬は全部で4本。なら4回は大丈夫だな。とりあえずショック死しない様に頑張れ、以上。」
「あ……ガガガ……ひ……ああああ!!!」
俺は一切の感情もなく俺を見つめるルークが掴んだ指を折っていくのを見て、痛みに悲鳴をあげながら……この地獄が早く終わりますようにと願った。
<スチル1>未来ブレイク
『ルークの最後』⇒『ルークの始まり』




