倉田と死神ノックス
クソガキの所在を倉田が探索し始めてから2時間……
大きな街と街の間にある寂れた廃工場のほうから嫌な……おびただしい陰鬱な空気が漏れ出すのを察知する……
―――
裏手に舞い降り、静かに歩を進めていくと目の前に
思い出したくもない存在。
ノックスが現れた……
相変わらずのふざけた調子で語尾を伸ばして話しかけてくる。
「……やっぱり会っちゃったねえーん」
その声は、耳に絡みつくように湿っていた。冗談めかした響きの裏に、どうしようもなく陰鬱な熱が潜んでいる。
倉田は口元を歪め、ただ視線だけを死神へ向ける。
その眼差しは、過去を抉り返す鋭さを帯びていた。
「……ノックス……おまえまだ、諦めていなかったか」
ノックスの顔に、にたりと笑みが浮かぶ。
「当たり前だろーん。あのとき、もう少しでおまえを連れていけるはずだったんだ。……なのに、間抜けな野郎が割り込んで呪いを引き受けちまったからなあー。ケルちゃんはあの忌々しい魔女に殺られちゃうしいー」
声色は軽いのに、吐き出される言葉は爛れた怨嗟そのものだった。
「巽……」
倉田の目が僅かに細まる。戦友の姿が、鮮烈に脳裏をよぎる。
己を庇って呪いを背負い、姿を変えられた猫。――その代償が、倉田にとって最大の悔恨だったのだ。
ノックスは続ける。
「俺はお迎えに来てたんだよーん。おまえの魂を狩りに。あそこで拾えるはずだったのに……横取りされた気分で、ずーっと腹の虫がおさまらない」
黒い指先が空をなぞるたび、空気そのものが冷たく震える。
「だからさあ、おまえを殺して、やっとこの腐った怨みを晴らせる……
ずっとこの瞬間を、舌なめずりしながら待ってたんだよーん」
倉田は、ほんの一瞬だけ眉をひそめた。
視界の隅に
クソガキ(陽翔)の体が容赦なく切り刻まれゴミのように廃炉に投げ捨てられているのを見つけ……
次の瞬間には、その表情すら消え去り、石のような無表情に戻る。
「……俺を欲するのは勝手だ。だが――」
低い声が空気を震わせる。
「おまえは昔から……決定的に、俺を殺し損ねている」
ノックスの笑みが引きつり、空気に鋭い緊張が走った。
まるで、過去の因縁が、ここで再び刃を交えようとしているかのように。