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天声だだ漏れ転生〜女神の温もりと共に〜  作者: 白銀鏡
【第二部】 第三章 出会いと共に
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第29話 離れない現実

マルクが生きていた!

この事実を一刻も早くあの子に伝えなくては……しかし、彼女が知るのは……。


離れない現実


どうぞ。

 景色が次々と後ろへと流れていく。

 俺はただひたすらに、街の空を突っ切っていた。


『本当なの? カガミさん——マルクさんが生きてるって……』


 俺の後ろから、必死に追いかけるマリラの声が響く。


(ああ。忘れもしないこの気配……早くルミナの元に——)


 彼女のいる方向へと、俺は止まらず体を運んでいた。

 すると、周りの景色はある場所へと切り替わっていく。


『ここは、王宮?——なんでルミナさんは、こんなところに?』


 そこは、王が不在の国ギルバディアの王宮。

 彼女がなぜそこにいるのかわからなかったが、そんな事は関係ない。

 それよりも俺は——早く彼女を安心させたかった。



 ——するすると何枚もの壁を通り抜け、ついに俺はある部屋の前で体を止めた。


(この奥だ——行こう!)


 そして、その壁へと飛び込み——俺は叫んだ。


(ルミナぁ!)


「——ん?」


 ——部屋の中には、アバンもいた。

 彼はこちらに顔を向けるが、その目の前にいたルミナは、気にする様子もなく呆然と立ち尽くしていた。


(ルミナ……?)


 やがてその体は——膝から、崩れ落ちる。

 床にへたり込み、彼女の唇が震えながら動いていた。


「あぁ……あぁぁぁ——!」

 

 それは、言葉にすらならない叫び。

 ルミナはただ、赤子のように泣きじゃくっていた。


 ——わけもわからずその様子を見守っていると、今度は部屋の扉が勢い良く開いた。


「アバン!」


 ノックもせず入ってきたのはルキ。

 肩で息をしているところを見ると、どれほど必死だったかが見て取れる。


『あれ? ラキじゃない——』


『マリラさん! それにカガミさんまで? お二人もここに来てたんですね!』


 彼の背後にくっついていたラキは、どこか嬉しげな表情をしている。

 その理由は——すぐにわかった。


「本当なのか⁉︎ マルクが生きてるって——」


 慌てた様子の二人を見た後、アバンはニッコリと笑い頷く。

 どうやら吉報を持っていたのは、俺だけではなかったようだ——。


(そうか——だから二人はここに)


 突然崩れるルミナに一時は驚いたが、俺はようやく状況を理解する。

 彼はマルク生存の情報を伝える為に、二人をここに呼び出していたのだ。

 

 そして、その情報に飛び上がり、力無く座り込むルミナの元へと駆け寄るルキ。


「うぅ……私、もうダメかと——」


「だから言っただろ? ——あいつが簡単に死ぬわけねえんだ!」


 ——抑えていた感情をすべて吐き出すように、ルミナは泣いていた。

 毎晩悪夢にうなされ、もう二度と会えないのではないかと、何度も胸を締めつけられていた——そんな矢先の報せだった。


 この瞬間、暗闇に染まりかけていた彼女の心に、ようやっと一筋の光が差し込んだのだった。


* * *


 しばらくして、落ち着きを取り戻したルミナ。

 すると、黙っていたアバンが——徐に口を開いた。


「さて、天の声よ——お前もここに用があったんだろう?」


 鼻をすするルミナの横で、キョロキョロと辺りを見回すルキ。

 

「え? 転生者のやつも来てるのか——」


「そういえば……ずず——声がしたような」


 隠れるつもりもなかった俺は、すぐに名乗りを上げる。


(ああ——ここにいるよ。天の声……いや、転生者ってやつがな)


 皆が一斉にこちらを向き、アバンはさらに説明を促した。


「ほう……転生者と言うのか。それで何があったんだ? ルミナの名前を叫んでいたが——」


(実は俺も——同じ報告がしたくてここに来た)


 ようやく俺の声に反応し、こちらへと歩み寄るルミナ。


「何? あなたもマルクを見つけたの⁉︎ 一体どこにいったの——?」


 彼の生存を知った彼女は、声高らかに目を輝かせていたが、俺はそれ以上口を開くことが出来なかった。


 しばらく黙っていると、やがてそれを察したアバンが代わりに口を開く。


「……俺から説明しよう。偵察隊によると、やつは囚われの身になり、北の大地にあるパルメシアの”帝都”に運び込まれたらしい——」


 先ほどまでこの部屋を包んでいた明るい空気は、徐々に反転し始めていた。


「マルクのやつ、帝国に捕まってるのかよ……」


『そんな——』


 アバンの横でご機嫌そうにしていたラキも、思わず肩を落とす。


「わざわざ生かすという事は、帝国には何か狙いがあるのかもしれないな……」


 彼は淡々と口を動かす。

 だがそれは、決して良い知らせばかりではない。

 

 彼のそこまでの情報を俺が出し渋っていたのは、この為であった。


『生きているとは言え、状況はあまり良いとは言えないわね……』


 暗い空気を代弁するように呟くマリラ。

 マルクの生存は確認されたが、彼の命は今皇帝の手中にあった。


 ——すると、ルミナは突然頭を抱え、小さくこぼした。


「あいつの欲しがる情報なんて……一つしかない——」


 彼がなぜ生かされているか、彼女には心当たりがあった。

 

 女神の力を恐れ支配下に置こうとする帝国。

 アリステラの命を奪い、次の狙いは行方不明となった娘のアリシア——自分自身の存在だ。


「なんだって? ルミナ……おい。聞いてるのか——」


 うわ言を言うルミナの耳には、アバンの声は届かない。


「私の……せいで」


 アリヴェル王国の女神の騎士マルク——。

 おそらく皇帝は、彼が消えた()()()()()を知っていると考え、その命を生かした。


「……絶対に、そうだわ」


 ——やがて、確信を持った彼女は悪夢を思い描く。


 運が悪い事に、マルクは自分の正体を知ってしまっている。

 守ると言ってくれた彼は、何をされてもそれを絶対に吐く事はないだろう。

 そう、何をされても……全ては自分のせいで。


「そんなこと……ダメ……!」


 やがて、彼が傷つく姿で頭がいっぱいになった彼女は——ゆっくりと踵を返す。


「ルミナ? 一体どこへ行くんだよ……」


 状況の読めないルキの横を通り過ぎるルミナだったが、いち早く()()に気づいたアバンは彼女の腕を掴んだ。


「待て! お前……一人で行くつもりか?」


 刺し止めるような眼差しで、手に力を込めるアバン。


「決まってるでしょう! マルクを、ほっとけるわけないじゃない——」


 突然の行動に皆が唖然とするが、彼だけは帝都に向いた彼女の強い意志に、毅然と立ち向かっていた。


「無駄な事はよせ。犬死にするだけだ——」


 冷たく言い放つアバン。

 彼女の行為は無謀そのもの……そんな事は、ここにいる誰しもがわかっている。

 だが、それでも彼女は止まらなかった——止まれなかった。


「わかってるわよ。でも、私……私——」


「……畜生」


 たまらず飛び出す彼女を、ルキは止める事ができなかった。

 家族のように思っていた仲間の危機に、一緒になって歯を食いしばっていた彼は、自分の足をこの場に止めるのが精一杯だった。


 だが、そんな二人の気持ちがわかっていながらも、アバンはその手を離さない。


「離してよ。お願いだから——」


「……ダメだ」


 ルミナから懇願するような声が絞り出される。

 頭では理解できても、自分の中の何かを押し殺すことが出来ない彼女は、その現実を振り解く事に必死になっていた。

 

 ——すると、これ以上動く事はない思われたこの状況に、そっと言葉が落とされる。


(安心してくれルミナ……俺がマルクのとこまで、行ってくるよ——)


 意を決し、俺はせめぎ合う二人の間に入っていった。

 はなから、そのつもりで考えていたから——。


「……っ! あ、あなたが——?」


 その言葉に一縷の望みを見出してくれたルミナは、ようやくその足を止めた。

状況はあまり良い他は言えませんが、カガミの男の見せ所です。


お次は金曜日!

第三章もあと二話!

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