第6話 ついてる?
好奇心旺盛なラキがどんどん暴走します!
全くもって困った女の子です……。
ついてる?
どうぞ!
俺の名は白銀鏡。
俺は以前、現実世界で命を落としこの世界に転生した。
盗賊に殺され、幽霊?のような存在として蘇った少女、ラキと共にこの世界の主人公であるマルク達を、アリヴェル復興の為に、“天の声”として導く役目を担っている。
現在わかっていることは、俺とこのラキという少女は厳密には幽霊ではなく、この世界の人間の生命の源である“エギル”という存在そのものであること。
エギルは青白く発光する習性があり、今のところラキのみにそれが見えている。
またエギルだけでなく、ラキにはこの世界に存在するすべての魔法の源である“マナ”も見えるらしい。
このマナというのは緑色に発光していて、主に女性にだけ潜在する力であり、ラキが確認したところ魔法使いであるルミナには当然それがあり、マルクにもかすかに緑色の発光が確認できている。
——野宿を終え、なんとなく人気のありそうな方角を目的地としていたマルク一行は、道中である森の中にて遭遇した数人の盗賊をやっつけていた。
『——すごい! やっぱり、マルクさんはお強いですね!』
バッタバッタと敵を倒すマルクの無双っぷりを見てはしゃぐラキ。
(当然だ、最強主人公という立ち位置の設定だからな……)
『……主人公? それより、先ほどの盗賊の一人もマルクさんと同じくかすかなマナの反応がありましたよ?』
(……あいつもか)
『やはり今の方も、“ついてない”のでしょうか……この世界は意外にも男装趣味の女性が多いのですね……』
相変わらずのメガネポーズをとり、自分の理解できない世界があることに驚きを隠せないラキ。
(あのなぁ……言い忘れていたが、マナの発現は女性だけの専売特許じゃないぞ。)
俺は続けて説明する。
(主に女性にのみ潜在すると言ったが、中には男性であってもマナを持っている少ない事例もあるし、逆も然りで、マナを持たない女性もいる)
新たな情報を聞き、ラキはすかさず自分の体の発光を確かめる。
『そういえば、私の体からは緑の発光はありませんね……』
(ああ、ラキの家系はマナを持たない一族という設定にしたからな。つまりはマナの有無で“ついてる”とか“ついてない”とかの判断はできないからいちいち興味を示さなくていい……)
ラキは少しがっかりしたような仕草をとり、こう放つ。
『主に女性にばかり発現する力、なんだか変な話ですね……』
変な話と言われムキになったのか、俺は長々と説明する。
(そう言うな。大昔、この大陸でまだ魔法がない頃、女神族の始祖であるアリヴェルと言う女が、大陸で男に蹂躙されるだけの女を見て不憫に思い、マナを分け与え、均衡を保ったと言う話を俺が練りに練って作ったんだ)
神様と呼んでいたエギルから発せられる単語に、何やら違和感を感じたラキは次々に疑問を投げかける。
『さっきから神様は、“設定”とか“作った”とか言ってますけど、一体何者なんですか?』
(ああ、そういえばラキには言ってなかったな)
俺はラキに、今までの経緯と素性を話した。
俺は生前売れない小説家で、命を落としこの世界に転生?したこと。
この世界の物語を書いている俺は、おおよそ全ての展開を理解していること。
続編であるアリヴェル復興後の世界に繋げる為にマルク達を導いてること。
『へぇー、神様も普通の人間だったんですね〜』
(信じられないと思うが、俺も同じ気持ちだ)
ラキはあまり信じてない様子だが、またまた疑問を投げかける。
好奇心旺盛なやつだ……。
『……名前、神様にも生前、名前はあったんですよね?』
(え? ああ、もちろんあったよ。俺の名は……)
——白銀鏡。
相変わらず変な名前だと思う。
なぜこんな変な名前にしたのかって母さんに文句を言って、父さんと喧嘩したこともあったっけ……。
『鏡……じゃあ“カガミさん”ですね!』
神様が自分と同じ人間だった事を知ったせいか、ラキは嬉しそうにそう呼んだ。
(……ああ、どう呼んでくれても構わない)
俺は少し驚いていた。
なぜなら俺は生前、この変な名前をよくからかわれていた。彼女みたいに俺の名前を聞いて嬉しそうに呼ぶやつなんていなかった。
本当に不思議な子だ……。
ラキの質問攻めに対応しながらも、俺のエギルはマルクが歩く方向に引っ張られていっていた。
——木々が生い茂り、曲がりくねった山道を越えた先には空が少し近くなったように感じる村があった。
村の宿屋にて一休みし、食事をしていた三人はここでとある情報を耳にしていた。
……まあ俺が簡単に説明すると、この村の近くの谷には盗賊団がアジトを構えていてそのうちの一人がえらい男前なやつで、ペガサスという羽の生えた馬に乗り女を攫うが、何もせずに帰すので、村の女たちの評判になっているというわけだ。
まあこの男はわけありで、実は盗賊ではなくさすらいの戦士で、盗賊の巣食う谷にいたから盗賊と勘違いされたわけだが……。
「——あの人なら……また攫われてもいいかも、なんて……」
頬を赤らめてイケメン盗賊の話をしている宿屋の娘の反応を見て、ルキは箸を置きため息をつく。
「……はぁ、世の中どうかしてるぜ」
盗賊に姉を殺されたルキにとっては当然の反応、マルクとルミナも不思議そうに聞いている。
『……』
いつもなら触れもしない食事に飛びつくラキだったが、今回の話を聞き下を向き考え込んでいる。
ラキも複雑な気持ちだろうな。母親も自分も殺され、勘違いとはいえ盗賊である男がこの村の女にはもてはやされている……。
食事を終え部屋に戻ろうとする三人の背中を見守りつつ、ラキが急に顔を上げ、目を輝かせる。
『その、盗賊の方! そんなに男前なのでしょうか!?』
はい……?
『ぜひ会ってみたいですね! その盗賊!』
心配して損した……。
仮にも親の仇であった盗賊がチヤホヤされている事実に、てっきり怒りを覚えているのかと。
(……はぁ、まあそのうち会うことになるぞ。そいつも今後の物語の重要人物になるからな。ここは俺も見届けるつもりでいたし……)
『わぁい! やったぁ!』
この子をこんなミーハーキャラにした覚えはないのだが……俺はこの世界の人間の事をまだまだわかってないようだな。
——翌日、身支度を整え朝食をとっているマルク一行。
俺とラキは外で待つことにし、イケメン盗賊の存在に浮かれている彼女。
『楽しみですねぇ……』
そこで、るんるん気分のラキは道の真ん中にて走り回る子供と、うっかりとぶつかってしまった。
ドンっ——!
『わっ!』
ラキ!
……って、実体のないラキを心配しても仕方がないか。
しかし……。
ラキの姿はそこにはなく、子供だけが転けて倒れ込んでいる。
——また、いなくなった?
(ラキ! 出てこい! どこにいる!?)
心配して呼びかけるが、ラキは出てこず……。
俺の声が聞こえた様に反応した子供が、むくりと起き上がり声を発する——。
「何言ってるんですかカガミさん……いてて、私はここにいますよ」
……訳がわからなかった。
ラキを呼びかけるもその姿はどこにもなく、代わりに俺の名を呼び、返事をする子供……。
これはまさか……。
「カガミさん……私なんだか変ですよ……体がなんだか、重い?」
憑依した……!?
子供と接触したラキが姿を消し、その子供はラキの様話し方をする。
この現象に一番近い状態といえば、このワードしか出てこない……。
俺はラキが憑いてるであろう子供に声をかけた。
(ラキ! よく聞け。おそらくお前はなんらかの力でその子供の中に入ってしまったんだ)
——そうとしか考えられない。
明らかにこの子供の人格は今、“ラキ”になっている。
「……ええ!? つまり、私はまた自由に歩き回れるんですね!? やったぁ!」
騒ぎを聞きつけ、向こうから母親らしき人がやってくる。
膝小僧を擦りむいて痛いはずの息子が、何故かはしゃいで喜んでいる様子を見てその母親は不思議そうな顔をする。
だがその子供は、今度は泣きながら……
「ううっ……カガミさん……今までお世話になりました。……これからは私は男の子としてこの村で——」
(バカ!出てこい!)
俺は子供に向かって強く呼びかけると、ラキをその子供から引っ張り出す事ができた。
スゥ……。
ラキは引っ張り出され、再び転ぶ子供。
母親は何が何だかわからない様子である。
(何考えてんだ。一歩間違えれば誘拐みたいなもんだぞ!)
俺は安心しつつも、ラキを叱る。が、
『冗談ですよ〜。それならぁ……』
ラキは両手でいやらしく何かを揉みしだく動きをしながら……。
宿屋での食事を終え村を後にする三人の中の、一人の青年騎士に目を向ける。
その顔には、発情したうさぎの如く恍惚とした表情が写っていた。
(お前、まさか……)
次の瞬間——!
人に憑依できる事に味を占めたラキは、疾風の如くマルクに向かって飛んでいった。
『やっぱり“ついてる”か、確認してきまぁぁぁーす!』
(コラっ! 待て!)
まずいぞ……!
このままでは、この人気の多い村で一人の青年騎士がニヤニヤしながら自分のナニをいじくり回し確かめる様がお披露目されてしまう。
そんな事をしたら、マルクに憧れついて行ったルキはきっと失望し離れていく……。
それに未来のフィアンセで、マルクに好意を抱いているルミナは、ショックで街一体を無に返すかもしれない。
どう転んだってバッドエンドまっしぐらだ……。
頭をフル回転させながらもラキを追うが、もう遅い。
彼女の好奇心が光の矢となって、ついにマルクに突き刺さろうとした、その時!
ドンっ——!
『ふんぎゃ!』
ラキはマルクに弾き飛ばされた——!
一方、マルクは全く気づいていない。
(……!)
『なんで……とりゃ!』
ラキは何度もマルクに、体当たりを試みるが、マルクの中に入ることはできず弾き飛ばされる。
『だめです! 青白い光が邪魔をして入れませ〜ん!』
(光って、ひょっとしてエギルが邪魔をしているのか?)
『エギルが? どういうことですか!?』
……今度はこういうことか?
俺はすかさず調べ物をする為、ラキに指示をする。
(マルクのエギルと、さっきの子供のエギル、最後にお前のエギルを見てみてくれ)
ラキは疑問に思いながらも、例のポーズをとる。
『ええ、マルクさんのエギルはかなり大きいのに対し、さっきの子供のエギルはかなり小さいですね……そして私のエギルは……さっきの子供より少し大きいぐらいでしょうか』
(やっぱりな……基本的にエギルの大きさはその人自身の強さで決まると言ってもいい)
『確かに……ルミナさんのエギルは中ぐらいで、ルキは……私ほどではありませんが小さいですね』
(青白い光に邪魔をされて入れなかったのは、おそらくラキのエギルがマルクに及ばなかった為じゃないか?)
俺とラキはようやく、憑依能力の仕組みを理解した。
『……つまり、誰かの中に入るにはその人より大きなエギルを持っている必要があるんですね』
おそらくそういう事だろうな。
やれやれ、本当にまだまだ分からないことがたくさんあるな。
だが、ついていたことにラキの好奇心おかげでどんどん道がひらけていく。
ラキには感謝だな。
隣にいるラキはなぜか、肩を落とし落胆している様子だった。
『……この先、私より弱い大人の男の人っているんでしょうか?……』
(“ついてる”かの確認は、もう諦めるんだな……)
こりないラキを見て、感謝をしつつも少し呆れる神様だった。
全てをわかっているようで、わからない事だらけのカガミ。
暴走するラキと共に、アリヴェル復興の夢は叶えられるのか……。