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天声だだ漏れ転生〜女神の温もりと共に〜  作者: 白銀鏡
【第二部】 第三章 出会いと共に
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第28話 生きていた想い

当たり前のように存在する、エギルの正体とはいったい何なのでしょう?


生きていた想い


どうぞ。

「シロガネ……カガミ? 変わった名だね——」

 

 この世界にあまり干渉するつもりはなかったが、ヨヨにだけは、俺の正体を隠す事を躊躇わなかった。


(以前少し話したけど、俺は違う世界で命を落とし、この世界に転生した——俺がよく知る書物に記されていた、この世界に……)


 首を傾げながらも、彼女は俺の言葉を一つずつ飲み込もうとする。


()()()からの……転生者といったところかね。——それより、この世界の事が書いてある予言書みたいなものがあったのかい?」


(ああ——この世界の全てが描かれた、お伽話のようなものかな。他所者の俺が“法王ヨヨ”を知っていたのはその為だ。他にも“エクサル”や“リンギル”、“レイス”の事だって、全部知っている)


 彼らの名前を聞いたヨヨは、目を見開き、驚きを隠せない様子。


「そんな事まで、書いているのかい……」


 しばらく彼女は、言葉を失っていた。

 流石の法王様にも、理解し難い事実ばかりだったのだろう。


(本当に、変な話だろう? 自分のエギルだけがこの世界に飛んでくるなんて、俺も信じられないよ——それからは、偶然居合わせたルミナ達にくっついてきたんだ)


 これが、俺の今までの経緯だった。


 頭を抱えていたヨヨも、ようやく落ち着きを取り戻し、何とか俺の存在を受け入れる。


 ——そして、目を瞑った彼女は、ようやく口を開いた。


「これも、()()()のなせる技か——」


 この世の全ての生物が持つ光——エギル。

 それは、異世界からやってきた俺にも例外なく内在していた。

 転生を果たし付与されたものなのか、はたまた、俺が元から持っていた何かなのか。


(エギルって——一体何なんだろうな……)


 ただの生命力だと何となく理解し、当たり前のようにあった不思議な存在に、俺は初めて疑問を抱いた。


「エギルかい……?」


 その言葉を拾い上げたヨヨは、静かに言った。


「エギルとはね——人の想いそのもの。そういう風にも言われてるよ」


 俺はこの瞬間、この世界の謎に大きく一歩踏み込めた気がした。


(なるほど、人の想いか……ありがとう——ヨヨ)


 ……確かにその通りかもしれない。

 死んだ人間のエギルがしばらくこの世に漂ったり、戦いの中で、自分よりも大きな力を持つ者に打ち勝ったり。

 どれも強い想いがあってこそなせる事だ。


 人間の心が何かに直結し、強さに変わる。

 俺が描きたかった世界そのものじゃないか……。


「はぁー……私は熱が出そうだよ。今日はこれくらいにして、またゆっくり話そうじゃないか」


 難しい話に付き合ってくれたヨヨは、少し疲れた様子で息を大きく吐く。


(ごめんな、ヨヨ。じゃあまた——)


 感謝しかなかった俺は、言う通りにし、この場を締めようとするが——彼女はふと呟いた。


「そうだ——あんた、マリラって知ってるかい?」


 その言葉に、隣にいた本人はピクリと動く。


(……ああ、知っているよ)


 もちろん、よく知っていた。

 彼女は強い想いを残し、ずっと存在していたから。


 しばらく沈黙が続いていたその場に、やり切れない思いがこぼれた。


「私はね、あの子がまだ近くにいる気がするんだよ」


(それは……)


 やがて立ち上がったヨヨは、俯くマリラの横を通り過ぎ、窓の外から空を見上げた。


「いいんだよ。それ以上は答えなくても……ここからはババアの独り言だと思って、聞き流しておくれ」


 彼女の声は、すでに悔しさで震えていた。


「あの子はきっと、想いを残して死んでいったんじゃないかな。でもね、私はあの子を救いたかった——」


 そして、嘆くように、詫びるように、言葉を並べるヨヨ。


「できる事なら、レオンと一緒に幸せになってほしかったのに、私は救えなかった……。私はね、あの子の想いも——命も、本当に……本当に救ってあげたかったんだよぉ……」


 今にも崩れそうな彼女の背中は、何よりも脆く見えた。


 わかるよヨヨ……。

 いなくなってしまった人を思って、俺も何度空に向かって嘆いた事か。

 言葉が返ってくるわけないってわかっていながらも、そうせずにはいられない気持ち。


 でもなヨヨ——あんたは違う。


(マリラの心は——ちゃんと救われているよ)


 俺は死んでいたマリラの心を、生きているヨヨにそっと繋いだ。


(レオンには最後会えなかったけど、ルミナが彼を救ってくれて、今もきっと前を向けている。間違ってもヨヨの事を恨んだりしていないし——すごく感謝しているよ)


 そして、そこには震える彼女の肩を抱きしめ、決して伝わる事のない言葉を囁く、マリラのエギル(想い)があった。


『泣かないで……ヨヨ婆様。私は、大丈夫だから——』


 ヨヨがそれに気づく事はなかったが、彼女は温もりに包まれた自分の肩に優しく手を添え、ようやく微笑んだ。


「……ありがとうね。あんたのその言葉、本当だと信じる事にするよ——」


 もしかしたら彼女は、既にマリラのマナを感じ取り、ここにいる事を予感していたのかもしれない。


 ——俺はこれ以上の言葉を返さなかった。

 彼女の想い(エギル)がここで生きている現実を、伝える事はしなかった。

 近くにいるのに会えない……そんな辛い思いをするより、心の中でその人を想う事の方が大事だって、きっと彼女もそう思ってるはずだから。


* * *


 ——昼下がり。

 無事話を終え、帰宅したヨヨを見送った俺とマリラは、がらんとした教室に残っていた。


『ありがとうカガミさん……本当に優しいのね』


(当然だ——ヨヨはこの物語に登場する人物の一人。俺は心から愛している)


 もちろん、他のみんなだって……だが、マリラに面と向かって愛しているなんてのは、恥ずかしくてとても言えない——。


 しかし、俺の言葉を聞いた彼女は、クスクスと笑い始めた。


『ヨヨ婆様が好みだったなんて、さすがカガミさんはお目が高いわ! ふふっ……これはラキにも報告しなくちゃ——』


(待て待て! そういう意味で言ったんじゃない。あいつに言ったら騒ぐからやめてくれ)


 マリラは俺を見て、嬉しそうに頬を押さえる。


 するとその瞬間——。

 俺の体は、ある感覚によって急に静止した。


(——っ⁉︎)


 そのまま空へと舞い上がり、俺は屋根の上からその方向を見据えていた。


『カガミさん……一体どうしたっていうの?』

 

 それは、間違いなくその方向だった——。


(ああ——この気配だよ)


 懐かしい——ある男の、エギルの気配。


(よかった……本当によかった。これでルミナも——)


 俺は、ホッと胸を撫で下ろした。

 そして、隣で首を傾げていたマリラに、俺の口からその気配の正体を告げた。


(マルクが——生きていたんだ)

エギルとは人の想いそのもの。

そして、彼のエギルも生きていました。


お次は火曜日!

いよいよ第三章もクライマックス⁉︎

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