第27話 干渉する力
カガミの秘密に大きく迫る回です。
しかし、まだ謎も残されています。
干渉する力
どうぞ。
『——ほらカガミさん。早く早く』
ある朝、俺はマリラに連れられるまま、ギルバディアの空を飛び進んでいた。
彼女曰く、この国には週に二日、兵士や魔法使いが体を休める日が存在するらしい。
(——こっちの世界にも、休日なんてものがあるんだな。それより、ルミナは元気にやっているのか?)
寮への出入りを止められていた俺は、ふとルミナの顔を思い出す。
『ええ、もうバッチリよ——歪みあって子もいたけど、今は仲良くやっているわ』
(ニーテの事か——それならよかった)
彼女の心の傷が、また痛んでるのではないかと懸念していたが、嬉しそうにするマリラを見て安心した。
そして、ある事を確かめたかった俺は、さらに先を急ぐ。
* * *
——談笑するマリラと共にやってきたのは、魔法使い達を育てる施設、魔導院。
その学舎の扉の前に着いた俺は、いよいよかと胸を高鳴らせる。
(やっと、ここまで来たか……おそらくは——こっちだな)
彼女の気配を確認した俺は、一呼吸を置いて——その壁を、ゆっくりとすり抜けた。
——そこには、いつもの杖を立てかけて、山積みになった書物の前に腰掛ける、ヨヨの姿。
「——おやぁ?」
俺とマリラが部屋に入るなり、彼女は開いていた魔導書をそっと閉じ、小さく呟いた。
「ようやく来たね……アリステラ」
振り返った彼女の瞳には——マナの光が映る。
やはり、このヨヨという人物は——俺の存在を理解し視認できていた。
(……数日振りだな)
女神族と、密接な関係にあったヨヨ。
この世の魔法をよく知り、アリステラの師であった彼女こそ、転生者の秘密に最も近いと俺は踏んでいた。
(また、会いたかったよ——ヨヨでいいかな?)
「ひっひ……いつも通りで構わないさ。私も——アリステラと呼ばせてもらうよ」
(……ああ)
……未だに違和感のある呼び名だが、彼女にとってはそれがしっくりくるらしい。
(——俺から、聞いてもいいかな?)
開口一番、早速疑問をぶつけようとした俺に——ヨヨは優しく頷いてくれた。
(なぜ俺の事を、アリステラと呼ぶんだ? それに、この世界における“転生者”って、一体何なんだ?)
それは、世界の全てを知り尽くしていると思っていた俺が、最も引っかかっていた事。
さらに俺自身が、既に亡くなっていたアリステラだと誤認されている、謎の事実だった。
「それこそ、あんたの力じゃないか——“女神の力”を忘れたのかい?」
女神の力——俺の知る物語ではこう使われていた。
(死者に生命を与え、蘇らせる転生魔法——。俺には、そのぐらいしか……)
答えることができなかった俺に、彼女は少し困惑の色を見せる。
「……それを知ってるなら、もうわかるはずだよ。転生魔法——他への“干渉”を許された女神の一族が持つ、力の一つさ」
ヨヨが言うには、俺の求めていた答えにはもう辿り着いているらしい。
しかし、彼女の発した言葉の中には、俺の知らないものがあった。
(他への干渉——それだ……それについて、俺に教えてくれ)
おそらく、俺が今知るべき力の正体。
これこそが、この存在の鍵になっていると、俺は心で直観する。
そして、その疑問に対し——何故か残念そうに顔を顰めたヨヨは、徐に口を動かした。
「——この世における人間が持つ生命“エギル”。魔法の源である“マナ”。女神の一族は、これらの二つを肌で感じ取り、自由に触れ、扱う事ができる。まさに、奇跡の力と言えるね」
その力は、どれも心当たりのあるものばかりであった。
ここにきてようやく、女神の力の一部を知った俺は、自分がアリステラと誤認される事に、少しだけ納得がいった。
『ヨヨ婆様が言った力……それって、全部カガミさんの——』
隣にいたマリラも、抱いていた謎を徐々に確信に変えていく。
今まで日常的に使っていた——人の気配を察知する力や、死者の魂をこの世に留める力。
彼女も見てきたこの力の正体こそ——干渉の力だったのだ。
(ありがとう……ようやく理解できたよ。俺が転生者と呼ばれる訳が。つまり——)
「そう——転生者っていうのは、自分の魂のみをこの世に残した者の名前さ。“転生魔法”を使ってね……」
声をかすかに震わせながら、こちらを指差すヨヨ——。
——この瞬間、俺は頭の中の点と点が、やっと一つに繋がった。
きっと女神の力を恐れていた皇帝も、何らかの方法で転生者の存在を知ったのだろう。だからあの時、奴は俺の存在に気がついたんだ。
そして俺は——ヨヨに、ある真実を伝え始める。
(ヨヨ……がっかりさせるかもしれないけど、聞いて欲しい——)
彼女は涙を滲ませて頷いていた。
きっと、俺が何を言おうとしているのか、察していたのだろう。
この点だけは、俺が転生者と呼ばれる事にどうしても繋がらなかった。
それは——。
(俺は、アリステラなんかじゃない。俺の名は——白銀鏡と言うんだ)
——今こうして話している俺は、間違いなくアリステラのものではない。
白銀鏡……俺自身だ。
気の毒だとは思ったが、俺はヨヨが求めていた転生者の人格が、既にここにはない事を、彼女に伝えた。
ついに生きている人間に、その名を名乗るカガミでした。
彼は心のどこかで、ヨヨを信頼している……?
今後も彼女との出会いの中で、秘密が明かされていきます。
お次は金曜日!




