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天声だだ漏れ転生〜女神の温もりと共に〜  作者: 白銀鏡
【第二部】 第三章 出会いと共に
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第25話 背負う者(前編)

今回は、女神族としての宿命を背負った者のお話。

始まりはあの忌まわしき記憶から……。


背負う者(前編)


どうぞ。

「——あ、熱い……ここは……?」 


 息苦しいほどの熱気に包まれていたのは、ルミナ。

 目が覚めた彼女の足元には、見覚えのある真紅の絨毯が見えていた。


「王……宮? それに、あれは——」


 辺りには火が放たれ、真っ赤に染められた景色の中心には、黒甲冑の兵に囲まれた——最愛の人。


「マルク……! マルクなの⁉︎ 待ってて——今助けるから!」


 既に傷だらけになっていた彼は、もはや立っているのもやっとの状態……。

 すぐに手を伸ばそうとするが、彼女の前に、()()()が立ちはだかる。


「これって……まさか⁉︎」


 それは、氷のように冷たく、全ての力を遮断する程に分厚い、忌まわしき結界。


 ——そして。


「うぐぐ……げふっ!」


 瞬く間に、無数の白骨の触手によって締め上げられた彼は、体中から血という血が搾り出される。


「そんな……待って! マルク——!」


 こんなにも近くにいるのに、手も届かない、触れる事も出来ない、彼女に出来るのは、ただ無力な自分を呪う事だけ……。


 そして、その苦痛に追い打ちをかけるように——血まみれの彼は、首だけを振り向かせ、パクパクと唇を動かす。


「助けて……くれ。ル……ミナ——」


「いや……いやだよ、こんなの——マルク……マルクーっ!」


 ——しかし、その叫びが響いたのは、バルナの王宮でなく、とある部屋の一室だった。


「はぁ……はぁ」


 青い天井の模様で、すぐさまそれが悪夢だったことに気づく。本当は、夢などでは無いのだが——。


「まただわ——」


 こんな目覚めを経験したのは、一度や二度ではなかった……。

 すぐに起き上がり、涙を拭った彼女は、いつものようにローブを羽織り、魔導院の寮を後にした——。

 

* * *


 ——魔導院の実践訓練場にて。

 日の光もささない空を照らすように、炎が舞い上がる。


「うん、今日も悪くない。次は——」


 心のモヤを消し去るように、無心で訓練に励むルミナ。そこに——。


「こんなに早起きしちゃって、歳でも取ったのかい?」


 燃え盛る豪炎の光に当てられやってきたのは、ヨヨだった。


「ごめんなさい。こんなに朝早くから……」


「いいんだよ。それより——」


 彼女は、その細めた目で、恐怖に震えるルミナの手を見据えていた。


「また、怖い夢でも見たんだろう?」


「いえ、これは……」


 ——ヨヨは知っていた。

 彼女がここ数日間、早朝から訓練に励んでいた事。それに、傷ついた心は簡単には修復しない事を。


「しばらくは——痛いままだろう? 隠さなくたっていいさ……」


 ルミナの顔からは、自然と笑みが溢れていた。

 何でもお見通しのヨヨなら、全てをさらけ出しても受け止めてくれる——そんな気がしたから。


 ——すると、さらに目を細めたヨヨは、ある話を始めた。


「ひっひ。一つ、面白い話を聞かせてやろう。なんと、女神アリステラ様の、()()さ——」


「お母様の——恋話⁉︎」


 彼女しか知り得ないであろうとっておきの情報に、ルミナは胸をときめかせる。


「——お母様が、どんな恋をしたのか……ぜひ聞きたいです。そういう話、私には全然教えてくれなかったから……」


 娘には見せなかった、母の女としての顔……。

 ヨヨは早速——その経緯を語り始めた。


 ——かつて、アリヴェル王国の女王だった、“アリエル”の元に生まれたアリステラは、女神としての英才教育により、幼少期から魔法の()()()を叩き込まれていた。

 その師に当たるのが、後に法王の称号を得る、ヨヨだった。


 魔法だけではなく、身の回りの世話役も買っていた彼女は、度々アリステラの相談相手となっていた。


「——彼女はよく、勉強をサボってね……。王族だからって、なぜこんなことばかりしなくちゃいけないんだと、よく文句を垂れていたよ」


「あの……お母様が」


 母の意外な一面を知り、目を丸くするルミナだったが、ヨヨは次に悲しそうな顔を見せた。


「——自分の運命を嘆きながらも時は進み、ついに戦いの中で、あの子は囚われの身となってしまった……」


 ——いつの時代も同じだった。人々の希望となっていた女神の力は、戦争の引き金となり、それを恐れた他国はその力を欲した。


「そんな時さ——彼女の前に、()()()()()()が現れたのは」


「王子様? 名前はなんていうの?」


「そやつの名は、レイス——」


 それを聞いたルミナは——首を傾げていた。

 彼女が想像していたその名は——父のものではなかったからだ。


* * *


 ——ある日の夜、王都から離れた森の廃寺に幽閉されていたアリステラ。


『こんな運命なら、もうどうでもいい……好きにして……』


 狙われたのは“女神の系譜”を受けた、アリステラの力。縛られた彼女は、抵抗もせずただ壁にもたれていた。そこに——。


『アリステラ様!』


 扉の破壊音と共に現れる青年。

 剣を背に、泥にまみれた白い外套を携えた彼に、彼女は虚ろな目を向けていた。


『誰……?』


『アリヴェル騎士団、レイスです。——お迎えにあがりました』


 青髪の青年騎士は、レイスと名乗った。だが、せっかくの助け舟に、彼女は乗り気ではない様子を見せる。


『今すぐ帰って。……私は助けを求めてなんかいない——』


 白銀の髪の間から覗かせる、彼女の瞳は——今にも沈んでしまいそうなぐらい暗く澱んでいた。


『女神の力なんて持たなければ、誰も死ななくて済んだのに……こんな血筋は、もううんざり——』


 ——すると、ゆっくりと歩み寄るレイスは、彼女の言葉に、ため息を吐くように答えた。


『私も……うんざりです』


『——えっ?』


 それは——予想だにしない反応。

 今までアリステラが見てきた、姫だ女神だと言った鬱陶しいぐらいの羨望の眼差しが、この男にはなかった。


『ですが、今はここを脱出しましょう——失礼っ!』


 彼の剣が、手足を縛る縄を切り捨てる。

 だが、先ほど漏らした彼の不満に——今度は腹を立てるアリステラ。

 

『やめてよっ! 私なんか、迷惑だと思ってるんでしょう? それなら、ここに置いていけばいいじゃない!』


『——そんな事を言っている場合ではありません! さあ早く!』


 逆上する彼女を、無理やり背負うようにしてその場を後にするレイス。

 そして、揺れる背中の温もりに当てられながら——彼女は呟く。


『なんで……なんでよ』


 アリステラの熱い涙を背中で受けるレイスは、それを拭うように言葉をかけた。


『——あなたが、女神族だからではありません。あなたが国を思い、愛してくれているのは皆もわかっています。だから、そんなアリステラ様を——皆も愛しているのですよ……』


『皆んなが、私を……?』


 女神族ではなく、ただの人間としての自分の行いを、皆が見てくれていると言ったレイス。

 ——すると彼女は、彼の背中から、()()を感じ取った。


『そんな血筋が無ければ、私もあなたと……』


 それは、密かに高鳴る彼の鼓動(想い)——。

 その先の言葉を、ただの騎士であるレイスには答える事は出来なかったが、アリステラは彼の背中の温もりに顔を埋め、熱く胸を焦がすのだった——。


* * *


「——それから彼女は、レイスにぞっこんさ。決して結ばれる事はなかった恋だけど、あの時の彼の言葉のおかげで、自分は愛されてる事に気づくことができたって、あの子は喜んでいたよ……」


「お母様……だから私に、話してくれなかったのね」


 ルミナは理解した。

 母がずっとひた隠しにしていたのは、これが禁断の恋だったからだと。


「夜中に兵舎に忍び込んだりもして、何だ私が言い訳したか……まあ、今では懐かしい思い出さ。ひっひ——少しは気分が晴れたかい」


「お母様ったら——なんて、はしたない真似を……」


 いつのまにか、暗い顔をしていた彼女は、自然と笑みをこぼしていた。

 それにつられた朝の光も、辺りを包み込んでいく。

 

 ——すると、遠くの方から、ある少女の声が聞こえてきた。


「あれ? お婆様に……ルミナさん⁉︎ なぜここに——」


 魔導書を片手に歩いてきたのはニーテだった。

 どこか不満げな表情で近づく彼女に——ヨヨは笑いかける。


「朝の訓練だよ……あんたと()()さ」


 朝を越されたのがよっぽど悔しかったのだろうか、彼女は歯噛みをしながら、ルミナから顔を背けた。


「くっ……絶対に、負けませんから!」


 そう言い残し、訓練場の隅の方へと足を向けるニーテ。

 そして、対抗心に燃えるその背中を見送っていたルミナに——ヨヨが小さく呟いた。


「背負うものも多いだろうけどさ……あんたは、自分の運命に負けちゃいけないよ——アリシア」


 ——まるで、懇願するかのような彼女の瞳に、ルミナはあの“晒し首”を思い出す。

 しかし彼女は、力強く握った拳を胸に当て言い放った。


「わかっています……私は最後の希望(女神族)。ですが、一人の人間として、皆の希望になってみせます。私は私——ルミナですから」

女神アリステラと、騎士レイスの禁断の恋物語でした。

この日のお話はもう少し続きます。

後半もどうぞ〜


お次は金曜日!

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