表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天声だだ漏れ転生〜女神の温もりと共に〜  作者: 白銀鏡
【第二部】 第三章 出会いと共に
65/70

第24話 英雄の名は

勝者だけが英雄とは限りません。

彼こそが、本当の英雄だったのです。


英雄の名は


どうぞ。

 ——ある日、俺はラキとマリラを連れ、城下町から離れた森へと足を運んでいた。

 

 そこで行っていたのは——とある()()


(おっ——あそこにいたぞ、ラキ!)


『よぉし! では、いきますよ——とりゃ!』


 空を羽ばたく小鳥に、ぶつかるようにして飛び込んだラキは、例の如くその体を乗っ取った。


『すごい! ラキの憑依って、動物にもできるのね』


(ああ。この世界では、小動物や虫にもエギルが存在するみたいだからな。ただし条件として——自分より大きなエギルを持つものには、憑依ができない)


 マリラに説明を施す俺の前に、先ほどの小鳥が翼をバタつかせやってくる。


 そして——。


『——やぁ!』


 小鳥の体から、再びラキのエギルが飛び出した。

 なんと、俺の掛け声もなしに、彼女は自分の力だけで憑依を解除する事ができたのだ——。


(ラキ! やったじゃないか。自分で出てこれるなんて)


『えへへ……意外と簡単でした——』


 実験は、成功だった。

 これから、俺が近くにいなくても——動物への出入りが自由にできる。そうなれば、今後何かの役に立つかも知れない……。


 ——新たな希望に心を躍らせていると、彼女は溢れる笑いを抑えるように口を隠す。


『これで色んな事が——むふふ』


(こっそりおいしいもんでも食べようってんだろう?)


 背中をビクリと反応させた彼女は、恐る恐るこちらを見る。


(やっぱりそんなことか……まぁ、憑依解除できるようにもなったし構わないが。だけど、あまり人様に迷惑をかけない程度にやってくれよ——)


 普段から頑張ってくれている事もあるし、それぐらいの自由は与えてもいいだろう……。

 そんなつもりで放った俺の言葉に、彼女は飛び上がった。


『やったぁ! では早速、マリラさんもご一緒に——』


 その言葉をご褒美と捉え、調子に乗ったラキは、マリラの背中をぐいぐいと押す。


『待ってよラキ。私、憑依は怖いわ……』


(こらこら。嫌がってるじゃないか……ん?)


 じゃれつくラキを注意していると——俺は、遠くの方で目覚める、()()()()を感じ取った。


(……すまん、二人とも——俺はちょっと、野暮用ができた)


『『野暮用?』』


 二人を置いて、すぐにそこを飛び立った俺は、その気配のする方へ向かって行くのだった。


* * *


 ——俺が到着したのは、以前訪れた、怪我人が運ばれる宿屋だった。


(ここだな——よし)


 俺は扉をすり抜ける。

 そこに見えたのは、無数の包帯に巻かれ、窓の外を虚ろな瞳で見つめる男。


(……マール)


 その重症患者の正体は、俺もよく知る人物——元バルナ王国の騎士長マールだった。


「——誰ですか?」


 振り返ったマールは扉の方へと目を向けるが、隠れるつもりもなかった俺は——もう一度その名を呼んだ。


(——マール。落ち着いて聞いてくれ、俺は……転生者と言うやつだ)


「——っ⁉︎ あなたは……あの時の、“天の声”ですね?」


 一瞬その細い目を見開くが、俺の声を一度だけ聞いていた彼は、俺の存在を疑う事もせずにすぐに受け入れてくれた。


「……どうか教えてください。転生者と呼ばれた、あなたの事を——」


(……わかった)


 ——俺は、あの時に至るまでの行動や出来事を、彼に語った。

 

 俺は命を落とし、この世界に転生した事。

 この大陸で起きることを知り、共に旅する三人に助言をし、先の戦いにて戦況を操作していた事。

 そして——バルナ国王の、最後を看取った事を。


「——そうだったんですか。……あれは、あなたの助言だったのですね。通りでルミナさんとルキくんのあの時の行動には——迷いがなかった」


 半妖を恐れず、一度は結界の策を破った二人の妙な活躍ぶりに、マールも違和感を覚えていた。

 そして、皇帝が言い放った転生者という異質な存在に、改めて納得する。


(本当は、バルナの皆んなにも伝えるべきだったんだけど——混乱を避ける為、あえてそうしなかった。……すまない)


 結果的に皆を救えず、迷惑をかけてしまったと詫びをいれるが——マールは薄く微笑んだ。

 

「……いいえ。懸命な判断です」


 国も仲間も全て失ってしまったのに、辛いはずなのに……それでも人を責めない彼の姿勢に、俺は胸の奥が締め付けられた。


(……俺のせいで、苦しんだ人がいるのに)


「皆、覚悟を持って戦場に臨んでいました。今更、誰を恨むなどとは言いません——」


 彼は最後の最後まで、一人でも多くの人間を生かそうと奮闘し、彼についてきた部下達も誰一人逃げなかった。

 マールの騎士長としての教えが、行き届いてる証拠だ。


(マールは紛れもなく、バルナの英雄だよ……)


 慰めにならない事なんてわかっていたが、俺は彼の勇姿を讃えずにはいられなかった。

 ——しかし、思わず失笑し首を横に振るマール。


「——それは違います。バルナの地を平定し、ならず者の私をここまで育て上げた。本当の英雄は、あの方以外にはいません……」


(バルナ、国王か……?)


 彼は嬉しそうな表情を見せ、大きく頷いた。

 

 ——豊かとは言えなかった小さな国で、人々の笑顔を支えていた国王。優しい王様だった彼に、国民は皆心を寄せ、健気に生きていた。


(……そうかもしれないな)


 たった数日の彼の行いを振り返った俺は、マールの言葉を疑わなかった。

 最期の瞬間まで、彼は英雄と呼ばれるに相応しい人物だったからだ——。


(あっ……! そろそろ俺は——)


 彼については、まだまだ知りたいこともあったが、()()()()の気配を察知した俺は、その場を離れようと体を動かした。


「——おや? もう、どこかに行かれるのですか?」


 マールもずっと、彼の話を続けたかったのだろうか——別れを告げた俺の背中に、名残惜しそうに手を伸ばす。


(ああ。もうじきここも、騒がしくなるからな。——そうだっ!)


 俺は彼に、一番大事な事を聞いていなかった。


(バルナ国王——彼の名前を、教えてくれないか?)


「国王様の……?」


 英雄の名を問う声に、マールは一瞬だけ言葉を失うが——やがてその口は、誇らしげに開いた。


「バリィ——。あの方のお名前は、バリィ様です」


(……バリィ)


「どうか……お見知りおきを」


(……ああ。忘れないよ——)


 そう言い残した俺は、微笑む彼に背を向け、その部屋を後にした。

 ——そして、二つの影が俺を横切り、その扉を勢いよく開く。


「——マールさん! よかった、もう目を覚まさねぇと思ったぜ……」


 声と共に、マールの胸に飛び込んだのは、ルキだった。


「うぐっ! ルキくん……離れてください——」


「こらルキっ! マールさんは、まだ怪我人なんだから!」


 息を切らしながら彼を注意するルミナだったが、二人の登場に、部屋を包む空気は一気に軽くなった。

 既に部屋を離れる俺の耳には、苦痛に歪むマールの声が、どこか嬉しそうにも聞こえるのだった。


 ——それにしても、()()()と言うのか……。


 俺の本来の物語に——バルナ敗北の出来事は、記されていた。

 帝国の脅威を示す為の材料として、彼の死をただ一人の人間の死として扱っていた。


 しかし、物語で知る事はなかった本当の英雄の名を知った俺は、その名を深く心に刻んだ。

英雄の名は、バリィでした。

今後の物語で、彼を掘り下げる事も考えております。

カガミ同様、彼は執筆しているうちに好きになったキャラの一人です。

どうかお見知り置きをm(_ _)m


お次は火曜日!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ