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天声だだ漏れ転生〜女神の温もりと共に〜  作者: 白銀鏡
【第二部】 第二章 目覚めと共に
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第15話 二人を分つ死

マリラには、少々酷な事をしてしまったと作者も反省しております。


二人を分つ死


どうぞ。

 ——彼は一体、何匹の妖魔を退治したのだろう。

 バルナの一戦にて、最前線に立っていたレオンは、誰よりも傷を負っていた。


「さぁ、私の肩に掴まれ。——もう大丈夫、ここはギルバディアだぞ」


 それなのにも関わらず、彼は部下達に優しく声をかけ、次々と医療室へと運ぶ。

 レオン——彼は強さだけではなく、第一に部下を思いやる隊長として、皆に信頼される存在だった。


 ——やがて、その場には怪我人の対応を終え一人立ち尽くすレオンの姿。

 

「怪我人は……もう、いないか——」


 安堵を覚えた体は、今にも倒れそうだったが——そんな彼に、人知れない癒しの手が触れようとしていた。


『レオン——待っててね、すぐに私が治してあげるから……』


 愛する人は——すぐそばにいた。

 その手にマナの光を携えながら、彼の痛みを和らげようと歩み寄るマリラ。

 だが。


『あっ……!』


 ——何かを目掛け、急に駆け出すレオンの肩にぶつかった彼女は、地面へと倒れ込んだ。


『わっ! そっちは、訓練場の方ですが?』


(あんな傷で……一体?)


 韋駄天の様な速さで、俺とラキの横を通り抜けるレオン。

 医療室のすぐそばにあった訓練場へと駆けつけた彼は、早朝から一人剣を振るあの女剣士の肩を掴んでいた。


「——ジーン! マリラ……マリラの調子はどうなんだ⁉︎」


「レオンさん……」


 彼の必死の形相に、ためらいの表情を見せたのはジーン。

 しばらく下を向く彼女は、やがて徐に口を開く。

 

「落ち着いて、聞いてくださいね? ……マリラは——もう、この世にはいません。……つい先日、彼女は手厚く葬られました」


 ——彼女の言葉で、レオンを繋いでいた糸は音を立てて切れていった。


「この世には……いない——」


 力のこもった腕はブラリと垂れ下がり、彼の意思とは関係なく、その膝が崩れ落ちていく。


「——マ、マリラ……そんな、うあぁぁぁぁぁ‼︎」


 今まで聞いたことのない彼の叫び。

 今まで見たことのない彼の痛み。


『……レオン、ごめんなさい』


 崩れる彼の背中を見たマリラは、レオンの中に生きていた自分への想いが、想像を絶するものだと知ってしまった。


「——ねぇ、今の声は一体何なの⁉︎」


 ——すると、叫びを聞いたルミナが医療室から飛び出し、訓練場の方へと足を運んできた。


 力なく座り込む、傷だらけの戦士の姿に彼女は驚愕する。


「あなた! ひどい傷じゃない……すぐに治療しないと——」


 ルミナはレオンの腕に優しく腕を回し、医療室へと連れて行こうとするが、彼はよろめいた足で立ち上がり、涙を拭い言い放つ。


「放せ! マリラのいない世界に、私はもう未練などない」


「マリラって……あっ!」


 そう言って、ルミナの手を振り解き、その場を後にしようとするレオン。


「ちょっと、そんな体でどこへ行くのよ⁉︎」


 彼の耳にはルミナの声は響かず、その足はゆっくりと確実に何かに向かっていた。

 

「私は、彼女のもとへ行く——」


 まるで、死を連想させる様な言葉を吐き捨てる。それを聞いたジーンもまた、涙を流し崩れ落ちた。——彼女は、彼を止める事を選べなかったのだ。


「マリラ……お願い。レオンさんを——」

 

 空に消えてしまった友へと、縋る様に懇願するジーン。


 ——そこに。


『待って! ——レオン!』


 マリラが、彼の前に立ちはだかった。

 震えた両手を広げ、瞳に涙をいっぱいに溜めた彼女は、彼に向かって言葉を放った。


『あなたは、()()()へ来てはダメ! あなたは私と違う。……私の命は終わってしまったけど、あなたにはまだ未来がある!』


「あぁ……マリラ……」


『……っ⁉︎』


 迫ってくる彼の口から聞こえたのは、自分の名前を呼ぶ声だった。

 えも言えぬその懐かしさに、一度はたじろぐマリラだったが、それでも彼女は叫び続けた。


『レオン……あなたが、前を向いて生きるために、私はあなたの気持ちを受け取らなかったのよ! だから——』


 ——涙で滲んだ瞳には、彼と過ごした花火の夜空が映っていた。


 あの日マリラは、レオンの気持ちに応えなかった。

 それは、決して彼女の正直な気持ちではない。

 彼が前を向ける様にと、少しでも彼の心の中の痛み(マリラ)を小さくしたいが為の選択だった。

 

「君を……一人にはしないさ。すぐにそちらへ向かう——」


 レオンの足は止まる事はなく、その命はまっすぐと(マリラ)へと向かう——彼の頭の中には、もうマリラしかいなかった。


 想いが空を切り、言葉だけがすれ違うが、それでもマリラは必死に首を振る。


『ダメ……ダメ! 絶対に、こっちには来させない!』


 傷だらけのレオンの体が、とうとうマリラの目の前まで迫る。

 彼女しか映っていないはずの彼の瞳には——目の前の彼女の姿は、決して映らなかった。


『——お願い! レオン!』


 声がダメなら、もう体を届けるしない。

 藁をも掴む思いで両手を広げたマリラは、彼を止めようと腕を回す——だが。


『……あっ!』


『マリラさん!』


 ゆっくりと步を進めるレオンは、いとも簡単にマリラをはじき飛ばしてしまう。

 彼女の小さなエギルでは、生きている彼に気づいてもらう事すらできなかった。


『……どうして……どうして私は——死んでしまったの?』


 ——地面に向かって、呪いの言葉を吐き始めるマリラ。


 死に勝てなかった、自分の弱さが憎かった。

 彼が辛い時に、本当の意味でそばにいてあげられない。思いや叫びが、何一つ干渉できない。


「——何を馬鹿なことを言ってるの⁉︎ 早く戻りなさい!」


 ——この場で彼を呼び止めようと叫んでいたのは、ルミナだけだった。

 その後ろには、自分の無力さを憎み、動けずにいるジーンの姿。


 二人の事をよく知る彼女には、レオンの心が痛いほどわかっていた。

 彼が、どれほどマリラを好きだったか。どれほど想っていたか。マリラが全てだと言った彼の言葉が、嘘じゃなかった事を。


 彼女もまた——ずっとレオンを見ていたのだ。


『ちょっとカガミさん! レオンさん、本気で死ぬつもりですよ。止めなきゃ——』


(そんなこと言ったって、俺には……)


 彼の本気の気持ちに焦るラキだったが、俺は彼を止める言葉を持っていなかった。

 彼を足を止め、救う言葉があるとすれば、それはやはりマリラの言葉しかない。

 

 自分ではレオンの力になれない——今なら、動けなくなるジーンの気持ちがよくわかる……。


「マリラ——寂しがる事はない。すぐに会いにいくから……」


 虚ろな目で歩を進めるレオンの足は、徐々にマリラの体を離れていく。


『レオン……』


 彼の背に手を伸ばすマリラ。だが、その手は決して彼に届く事はない。こんなにも近くにいるのに、こんなにも想っているのに、触れることもできない。伝えることもできない。

 

 二人を分つ死の絶望に、彼女は打ちひしがれていた。


 ——誰もが、彼の悲しい背中をただ見送っていたが、その瞬間!


 ボンッ——‼︎


(あぁ……?)


 俺の後ろで何かが光ると同時に、レオンの背中に小さな火球が直撃した。


『あ……あれって』

 

 そして傷だらけの彼はプスプスと音を立てながら倒れていく——。


『(えぇぇぇっ⁉︎)』


 振り向くとそこには、煙を立たせた手のひらをレオンへと向けるルミナがいた。


(ルミナぁ! お前、何やってんだぁ⁉︎)


『あなたは、悪魔ですか⁉︎』


 俺とラキは一斉に声を上げ、その犯人へと詰め寄った。


「あら? あなた、そこにいたの? こうでもしなきゃ、おとなしくしないでしょ彼——」


 聞き分けのないレオンに呆れていたルミナは、口を尖らせている。

 

「——レオンさん!」


 ——ジーンはすぐに駆け寄り、気を失ったレオンを抱きかかえ声を荒げた。


「あなた、何て事をするんです⁉︎ レオンさんは、怪我人なんですよ!」


 その光景に、マリラはただ呆然としていた。

 荒ぶるジーンを気にも止めず、ルミナは彼のもとへと歩み寄る。


「このぐらいじゃ、人は死なないわよ。さぁ——そっちを持って」


「えっ? あ……はい」


 彼女の言われるがままに、レオンの両脇を抱え医療室へと運ぶジーン。


『い、一応エギルの反応はありますから——生きているとは思いますが……』


 心配そうに観察していたラキが彼のエギルを確認した為、なんとか彼の安否は確認できた。


(そうか。生きてるんなら……いいけど)


 結果的に、重症人のレオンを医療室に運ぶことに成功したルミナ。


『カガミさん……これも、物語通りですか?』


(そんなわけないだろ!)


 もちろん、ヒロインが重症人に対して魔法をぶっ放すシーンなんて、俺の()()にはない。

 

(……ルミナ、お前。もう少しで未来の英雄を、殺すところだったぞ——)


 ルミナの大胆な荒療治に肝を冷やしながらも、俺は二人を連れて医療室に体を運ぶのだった。

超シリアス絶望エンドと思いきや、爆炎ヒロインの奇行でした。

一体どうなる?


お次は金曜日!

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