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天声だだ漏れ転生〜女神の温もりと共に〜  作者: 白銀鏡
【第二部】 第二章 目覚めと共に
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第13話 私じゃなくても

先の無いマリラには、この先の彼を癒すことはできません。だからこその、彼女の選択です。


私じゃなくても


どうぞ。

 ——訓練場に、終業の鐘が鳴り響く。

 業務を終えた兵士達は、その疲れを癒すべく各々の兵舎へと戻っていった。

 

「はぁ……はぁ、まだまだ!」


 薄暗くなった訓練場には人気(ひとけ)もなくなり、そこにはただ一人で剣を振るジーンの姿があった。


『あんなにいっぱい訓練したのに、まだまだ頑張るんですね——』


(自分に厳しい性格をしているからな——きっと今頃、次の目標に目を向けているだろうさ)


 苦労して勝ち得た名誉な肩書に、あぐらをかくこともせずさらに自分を追い込むジーン。

 

 ——するとラキは、それを微笑み見守るマリラに問いかけた。


『そういえば——マリラさんのお友達の”隊長さん”って、どんな方だったんですか?』


『隊長……? あぁ、レオンのことね』


 友人の方ばかりに目を向けていたマリラのすぐ横には、物欲しそうな笑みを向けるラキの姿があった。


『——むふふ、レオンさんって言うんですね。その方は恋人が何かで?』


『恋人って……そんな』


 彼女の言葉に反応したマリラは、頬を赤く実らせる。

 そして彼女の圧に観念し、おもむろに彼との出会いを語り出す。


『レオンとはね——彼が私の担当医だったヨヨ婆様の付き人だった頃に出会ったの』


 ——男でありながらマナを発現させる特異体質を持ったレオンには、魔法使いヨヨの付き人として働いていた時代があった。


『これは、初めて会った日の事。ヨヨ婆様がちょうど席を外した時に、私は熱を出してしまったの。……医学の知識がなかった彼は、とても慌てていたわ。でもそんな時、彼は濡れた手ぬぐいをそっと変えてくれたり、手を握って、何度も大丈夫だって言ってくれた——』


 それを聞いていたラキは、続きを促すように頷いている。


『ずっと薄目で見ていた彼の必死な姿が——すっごく心強くて、かっこよくて……。それから仲良くなって——彼はずっと、私のそばにいてくれた』


 真っ赤にした頬を抑えながら目を閉じるマリラだったが、ラキは恥じらう彼女を逃がさない。


『それでそれで! 結局二人は、どこまでいったんですか⁉︎』


(その辺で…….もう、いいんじゃないか?)


 俺は無理に結末を聞こうとするラキを宥めるが、それでもマリラは答えた。


『花火が上がる祭りの夜、とうとう彼は私に言ってくれたの。——好きだ、結婚してくれ。ってね』


 レオンの口から出た情熱的な言葉の数々に、ついにラキの血潮は最高潮に達する。


『キャーーー‼︎』


 彼女は、マリラが見せた切なげな表情に気づかないまま、一人のたうち回る様に舞っていた。


『恋人からの熱い思い——もちろんマリラさんは、お受けしたんですよね⁉︎』


 ——期待が絶頂にまで上ったラキだったが、マリラはそれには応えられなかった。


『いいえ。——彼の気持ちは、受け取らなかった』


 彼女は、少し後悔が混じった表情で続けた。


『ありがとう。……そう伝えて、彼には諦めてもらったわ』

 

『そんなぁ、どうして……』


 好きな人と一緒にならなかった選択を理解できないラキだったが、マリラにはそれを納得させる理由があった。


『その時既に——私の余命宣告は、なされていたから……』


 マリラが語った悲しい真実に、ラキは思い出す。

 彼女が病気で痩せ細り、なすすべもなく命を終えたあの日の事を。


『——嬉しかった、本当に嬉しかった。短い間でも、彼の隣にいれるなら幸せだと思った。だけど私は、近いうちにこの世を去ってしまう。残された彼はきっと、もっと悲しむことになる』


『マリラさん……レオンさんの為に』


 ——これこそが、マリラが望んだ結末だった。幸せになるのは簡単だったが、それよりも彼女は、彼を傷つけない事の方が大事だったようだ。


『……ぐすん』


 悲しくも意外な結末を聞いたラキは、先程まで踊らせていた肩をガックシと落とした。


(おい……どうするんだよ)


 俺は静かにつぶやき、沈んだ空気を作ってしまった彼女に詰め寄るが、マリラは決してそんな様子を見せなかった。


『本当はね、すごく後悔してた。ずっと会いたくて、伝えたくて。でも、私の想いは今こうして()()()()()


 胸の中の温もりを確かめるように、優しく握った手を当てるマリラ。


『これからも、彼を見守ることができる。——だから今は、その選択を選んでよかったって、本気で思ってるの。だって、()()()深く傷つく彼を見なくてすんだもの……』


 申し訳なさそうな顔で涙ぐんだラキの頭を、マリラは優しく撫でている。


(強いんだな。マリラは…….)


 その言葉に彼女はコクリとうなずき、こちらに微笑みを向けた。


『やっぱり、カガミさんは知っていたの? 私とレオンの物語を——』


 俺は当然、この悲しい結末を知っていた。

 だが、彼女が抱いていたこんな想いまでは知らなかった。


(ああ、花火の日の事ぐらいはな。だけど、二人にとって、それでよかったのだろうか…….)


 彼らを()()()俺にとっても、何が正解かはわからない。

 それでも彼女は今、胸を張っている。


『仕方なかったのよ。レオンだって、いつかきっとわかってくれるわ。それに——』


 マリラは再び訓練上のほうに目を向け、一人孤独に剣を振る友を見据える。


『私じゃない誰かが、きっとレオンを幸せにしてくれるって、信じてるから——』


 大切なレオンをこれから癒すものは自分じゃないと、託す様にジーンを見つめるマリラ。


 ——自分の気持ちを押し殺したその選択は、きっと彼女にとっても辛かったと思う。

 それでもなお前を向くマリラの背中は、この時の俺には、誰よりも強く、美しく映っていた。

第9話 愛の在り方 

のお話ですね。

まだ正解は分かりません。

いつか、わかるかもしれません。


お次は金曜日!

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