第11話 ギルバディア王国
今年の始まりと共に、新しい物語の始まりはこの国からお送りいたします。
ギルバディア王国
どうぞ。
——バルナの戦いの敗北により、仲間を失った彼らに告げられる共闘の誘い。
アバンのギルバディア軍入りの勧誘に、闘志を燃やすルキだったが、ルミナはまだ動けなかった。
「……少し考えさせて」
首を縦に振らない彼女を見て、頭に血を上らせるルキ。
「——どうしてだよルミナ! やられっぱなしで……悔しくねーのかよ⁉︎」
下を向く彼女に詰め寄るルキだったが、その怒れる肩をアバンが止めた。
「待て、これはルミナが決めることだ。——辛いことも、あっただろうからな……」
強い力に抑えられ我に帰ったルキは、今の彼女の心中を察し、言葉を詰まらせる。
——しかし、愛する人を失い、心が闇に沈んでいたと思われたルミナだったが——彼女はハッキリと答えた。
「そうじゃないの! 少し、気になることがあって——」
彼女の心には——何かが引っ掛かっていた。
彼のことだけでは無い、前に進もうとする気持ちを抑止してしまう、他の何か……。
「なんだよ、それ……」
ルミナの迷いが、いまいち理解できないルキ。
これ以上は話が進まないと悟ったアバンは、部屋を後にしようと振り返った。
「——とにかく、今はゆっくり休め。また来る」
腑に落ちない様子のルキも、彼に続き自分の部屋へと戻っていく。
『ルミナさん……』
『——ラキ。私たちも、カガミさんのところに戻りましょう』
二人の目覚めの結末を見届けたマリラは、彼女の心配をするラキを連れて、カガミの元へと戻るのだった——。
* * *
——何気なく街を進む三人、やがて辺りは暗くなり、人の気配はなくなっていく。
『夜の噴水広場も、綺麗ですね!』
『ええ。私も、あまり外を出歩かなかったから——新鮮』
俺は、噴水のそばに腰掛けるマリラと、その周りを子供のように飛び舞うラキを、ただ眺めていた。
——すると、いつまでも黙っていた俺を、呆れるような表情で覗き込むラキ。
『カガミさぁん……いつまでウジウジしてるんですか』
ルミナに言われた痛烈な言葉が、いつまでも耳に残っていた俺は、ここに来るまでほとんど口を閉じていた。
『カガミさん。さっき言った通り、ルミナさんの事なら大丈夫よ。——ヨヨ婆様って人が、来てくれたから』
(“ヨヨ婆”が? あそこに来たのか……)
俺は、この世界の要人である彼女の名を聞いて、少しだけ安堵を覚えた。
『カガミさんも——知っているのね?』
(もちろん知っている。物語の中でも、大活躍する人物だからな)
俺とマリラだけで盛り上がっていると、置き去りにされていたラキが、声を荒げた。
『もう! ヨヨ婆様って誰なんですか? 私にも、教えてくださいよ!』
(あ、ああ。そうだな——)
——俺は少し落ち着き、皆の状況を整理することにした。
まず、ルキは以前出会った少女、ナナとの再会も経て立ち直り、ギルバディア軍に入隊することになった。
次にルミナは、ヨヨ婆の言葉で少し落ち着くが、何故か軍入りは決めあぐねているらしい。
そして、このヨヨという人物こそが、ルミナの母にして、女王であったアリステラの師匠であり、マリラが生前お世話になった魔法使いのお医者様である。
『それにしても驚きだわ。ルミナさんが、行方不明の女神様、アリシア姫だったなんて——』
ルミナの秘密を隠していた俺を、ジッと優しく睨むマリラ。
(すまない。人混みの中、あまりペラペラと喋るわけにはいかなかったんだ)
彼女の状況をよく知るラキは、心配そうに俯いた。
『ルミナさん大丈夫でしょうか。大好きだったマルクさんと、会えなくなっちゃって……』
ルミナのことを思うと、いたたまれない気持ちになってしまう俺とラキだったが。
マリラはただ一人、この先の展開を促した。
『今は傷が癒えるまで待つしかないわね。それよりカガミさん——次はどんな物語が始まるのかしら』
(そのうち、バルナ王国で戦っていたレオンが、帰ってくると思うよ。それまで待つことにしよう——)
——こうして俺達は、傷ついたレオンが帰ってくるであろう。王宮の近くにある兵舎にて待つことにした。
* * *
一日、二日と経ったが、レオン帰還の報告は未だなく、退屈していた俺たちは、兵舎の近くにある訓練場に顔を出していた。
『——おお、バルナでの訓練も迫力がありましたが、ギルバディアの皆さんは、もっとすごい熱気ですね!』
剣のぶつかる音が無数に飛び交う中、訓練場の脇からそれを眺めていたラキは目を輝かせる。
『もちろん。——ギルバディアは、大陸一の軍事国家と言われているからね』
俺が説明するよりも先に、マリラの合いの手が入り、彼女は指を立てそのまま続けた。
『それから、この国の兵隊さん達は——主に三つの部隊に配属されているわ。それぞれの隊を、“隊長”と“副隊長”の二人が率いてて、私の友達のレオンは、その隊長の一人なのよ』
誇らしげに話すマリラの説明を、コクリコクリと聞いていたラキは、やがて俺の方へと目を向けた。
『マリラさんがいれば、カガミさんの役目は、なくなっちゃいますね……』
(うぅ……)
傷心中に解説役まで奪われようとしていた俺には、中々効く言葉だった。
——すると、ふと視線を流した先に何かを見つけたマリラは、細めていた目を大きく見開く。
『——あっ! あれ⁉︎』
『……あの方は! 確か、マリラさんの——』
ラキの記憶にも新しいその人物は、早歩きで訓練場の中心へと向かってくる。
——釣り上がった青い瞳に、短く整えた薄い金色の髪。針のように鋭く細身の剣を腰に差したギルバディアの戦士。
「遅れてすみません——ジーン、到着致しました」
何度も見た丁寧な会釈。マリラは親しい友との再会に涙を滲ませていた。
やってきたのはマリラの友人、ジーンでした。
次回は訓練場にて、その実力が明らかに……。
お次は金曜日!
お待ちしております。




