第10話 また、一から
今年は、この頼れる男で締めたいと思います。
彼がギルバディア編の入り口へと誘ってくれます。
共闘の誘い
どうぞ。
『それでそれで! ナナちゃんが、こう言ったんですよ——』
(だから、それはさっきも聞いたって……)
道をいっぱいに使った、弟の再会話が演じられている中——一つの影が、その真ん中を疾風の如く通り過ぎた。
『——どわっ!』
(大丈夫か⁉︎ ……って、噂のルキが戻ってきたぞ?)
尻餅をつくように倒れ込んだラキは、宿屋に駆けていく彼の背中へ向かって拳を突き上げる。
『もう! 気をつけなさいよぉ!』
(はは。……む? この気配は——)
俺は、覚えのある気配を背中で感じ取り、その場を振り返った。
『何ですか一体……おおっ! あの方は——』
歓喜の声が向けられた方から姿を現したのは、あの長身の男前。
頼れる男——アバン。
まっすぐと宿屋に向いていた彼の足は、俺の目の前でピタリと止まった。
「——どうやら、そこにいるようだな。“天の声”よ」
(ああ。やっぱり、わかってたか……)
鋭い感覚で俺の場所を言い当てる彼を見て、ラキはあれを思い出し、慌てる様子を見せる。
『——アバンさんには、カガミさんが見えるんですか⁉︎ それに、普通に返事なんてしちゃってますけど……』
(彼には、俺の事がわかるらしい。それに、あの鳥人間じゃないんだし、恐れることはない——)
バルナ戦で目視を許した時の恐怖が蘇ったラキだったが、以前のアバンとの共闘を知る彼女は、彼を信用するのに時間はかからなかった。
「——鳥人間? そこに、誰かいるのか?」
(いや、ただの独り言だ。それより、あいつらに何か用があるのか?)
——アバンは二人の目覚めの報告を聞き、すぐに駆けつけた事を説明する。
「——色々と、話したいことがあったからな。お前もどうだ?」
(俺はいいよ。——さっき、ルミナと喧嘩になったばかりだ……)
それを聞いたアバンは、上を向いて軽く笑い飛ばしていた。
「ハハハ、年頃の女の子は難しいからな。お前も無理をするな」
気持ちが沈んでいたことを見透かされ、彼がかけてくれた言葉に、俺の心は少し和らいだ。
「じゃあ俺は行く。お前にも山ほど聞きたいことがあるから、今度時間がある時にでもな——」
真剣な瞳に、一瞬だけ何かを映したアバンは、こちらに手を振り足早にその場を去る。
——すると、彼の背中を見送っている視界の横から、それを追っていくラキの姿が見える。
『では——私も』
(——おいラキ。どこ行くつもりだ?)
振り返った彼女は、反発する様な表情で言い放つ。
『勘違いしないでくださいよ! いつまでも落ち込んでるカガミさんの代わりに、情報収集をするだけですよ』
(ああ……ありがと)
——彼女なりの気遣いだったのかと、俺はその言葉に甘え、また一人その場に留まる事にした。
『アバンさ〜ん。待ってくださいよ〜』
ご機嫌そうに鼻歌を歌うラキは、彼の顔を見つめながら、アバンの横に寄り添うように舞って行くのだった。
* * *
——部屋を後にしたヨヨが廊下を歩いていると、その先に見えたのはアバンの姿。
「ようやく来たね。アバン——」
「ヨヨ婆……報告ありがとう。それで、ルミナはどうだろうか——」
部屋の扉を振り返り、彼女は微笑む。
「とりあえずは大丈夫——後はあの子次第さ」
そう言って軽く会釈をし、通り過ぎる彼女の背中を見送るアバン。
——そしてその場には、何かを思い出そうと首を傾げるマリラの姿もあった。
『アバン……? どこかで聞いたことあるような……あれ?』
昔の記憶をたどりながら彼を見つめていると、その背中に寄り添うように隠れていた黄色い少女を見つけた。
『あっ、マリラさん! 部屋にいたんじゃなかったんですか?』
ルキが戻ってきた事で、彼女がこの場にいる理由に納得がいったマリラは、ラキを部屋へと案内しながら事情を話す。
『今ちょっと見送りをね——それよりカガミさんは?』
『一人でうじうじしてたので、私が代わり様子を見に来ました……』
二人が談笑しながら、アバンの背中を追い部屋へと入っていくと、目の前の彼は何かに驚いていた。
「おお……これは」
——部屋には抱き合うルミナとルキの姿。
「……あ。——あれ? あなたは」
扉が開き、そそくさと離れる二人に、彼は何かを勘違いをする様子を見せた。
「悪い。お前ら、そういう関係だったんだな。——邪魔をした」
白々しいニヤケ顔と共に踵を返そうとする彼に、みるみるうちに顔を赤く染め上げた二人は——言い放った。
「「違ぁう!」」
「ははは——」
敗北からの目覚めで、どんよりとした空気を危惧していたアバンは、冗談を言い笑っていた。
「アバンじゃない! もう! ノックぐらいしてよね……」
涙の跡を残しつつも、ルミナは彼との再会に喜びの表情を見せる。
「悪い悪い。でも、元気そうでよかった」
かつての仲間笑い合う一同だったが、ルキは思わず口を挟んだ。
「——それより! なんでアバンが、こんなとこにいんだよ?」
——やがてアバンは、マルクとの再会を約束を果たしたあの日からの経緯を説明する。
「——お前たちと別れた後、俺は再びギルバディアに戻り、軍入りを果たしたんだ。——その後、昔の仲間やヨヨ婆の勧めもあって、出戻りでありながら、この軍の長をやらせてもらっている。こういうわけだ」
するとマリラは、彼の言葉で何かを思い出したかの様に顔を上げた。
『——アバンさんって、昔のギルバディアにいたことのある隊長さんの一人ね』
『隊長? アバンさんを知ってるんですか?』
マリラは昔、友人のレオンから彼の話を聞いていた。
『ええ。レオンから、とても頼りになって、素敵な人だって聞いたわ』
手を合わせ、羨望の眼差しで彼を見つめるマリラに、ラキは腕を組み険しい表情を見せる。
『マリラさんもアバンさんを……。むむむ、私も——負けませんよ!』
『あはは、そんなつもりじゃないから……』
ラキの対抗心を、宥めるように手を添えたマリラが笑っていると——。
そして、ついにアバンは、細めていた目を開きその場の空気を締めた。
「そこでだ……! お前たちには——このギルバディア軍として、共に戦って欲しい」
——その言葉を聞いた二人は、その肩をピタリと止め震わせた。
“戦い”という言葉に、あの時の記憶が思い起こされてしまう。
「……お前たちはバルナ王国にて、苦い敗北をしたと聞く。だがその悔しさは、この先の戦いできっと役に立つと思う——」
さらに飛んできた、“敗北”という言葉に、あの時の恐怖と悔しさが込み上がり、二人は言葉を失うばかりだった。
『——ラキ?』
話についていけなかったマリラの隣では、両拳を握り黙り込むラキ。いつも明るかった彼女の今の表情が、バルナでの戦いの過酷さを物語っていた。
——すると、その沈黙を一人の少年が破った。
「俺は……やるぜ。——あのまま終わったんじゃ、納得いかねぇ」
一歩前へと踏み出したルキは、勇ましく言い放った。
「絶対、強くなって! アバンだって、マールさんだって……マルクだって越えてみせる!」
腕を組んだアバンは、笑みを浮かべ彼の挑戦的な勇気を受け取る。
「ほう……俺すらもか、面白い」
——そして、拳をそっと胸に添え、ゆっくりと瞼を下したルキは、心の奥底にあった思いを引っ張り出した。
「——強くなりたい。……姉ちゃんが死んでから、それだけは変わらねえんだ……」
それは、悲痛にも聞こえる小さな叫び。
アバンは、まだ幼さが残る少年に宿る、確かな闘志を見た。
「そうか……その意気だ。姉ちゃんもこれを聞いたら、きっと喜ぶぞ」
——温かい言葉が並べられる中、人知れず揺れていた肩がぴたりと止まり、マリラの肩に縋り付く。
『ううう……マリラさ〜ん』
『よしよし——ルキくんは、お姉さん思いなのね』
泣きつくラキの頭を、優しく撫でるマリラ。
——ナナとの再会もあったルキは、既に吹っ切れた様子だった。そして、二つ返事をした彼は、その思いを繋ぐようにルミナの方へと振り返る。
「ルミナも——もちろんやるよな⁉︎」
皆が彼女の方を向き——期待の目でその答えを待っていた。
だが——。
「私は……少し考えさせて」
彼女の心の傷の深さは、まだその思いを繋ぐには至っていなかった様だ。
ご愛読ありがとうございますm(_ _)m
主人公マルクは、しばらく席を外しますが、修行編にもなるギルバディア編にて、彼が色々と助けてくれることでしょう。
しかし、彼女が決意を揺るがせる理由はなんなのでしょう……。
お次は! 正月を休んでの火曜日更新!
お正月は皆さん忙しいでしょうし、どうかゆっくりなさってください!
では良いお年を!!!
白銀鏡でしたm(_ _)m




