表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天声だだ漏れ転生〜女神の温もりと共に〜  作者: 白銀鏡
【第二部】 第二章 目覚めと共に
48/56

第8話 ヨヨ婆

新キャラクター登場になります。

マリラもみんなも信頼する魔法使いさんです。


ヨヨ婆


どうぞ。

 興奮冷めやらぬ様子のルミナを部屋に残し、俺はマリラに連れられ窓から外へと飛び出した。


「——おや?」


 途中——横切った()()がこちらを見た気がしたが、そのまま屋外にある長椅子に腰掛ける。


『——カガミさん。あまり気にしてはダメよ?』


 強かに振る舞い、やさしく手を添えるマリラだったが、俺はため息を吐く。

 

(はぁ、本当にあれでよかったのかな? ルミナのやつ、傷ついたよな……)


『すごく、傷ついたでしょうねぇ——』


(そんな……)


 遠慮なしに、さらっと言い放つマリラ。

 気休めの言葉の一つも期待していた俺は、虚をつかれ言葉を失う。


 ——するとマリラは、幼い頃から体も弱く、一人孤独に闘病していた日々を語り始めた。


『……私もね、不治の病に侵されてから、色んな人からの気休めの言葉をもらったわ——』


 俯いた彼女の瞳は、何もかも吸い込んでしまいそうなぐらい暗く澱んでいる。


『大丈夫。いつか治るって……。でも、そんな言葉をいくら重ねたって、辛くなるだけで——何の薬にもならなかった』


 たくさんの医者からの言葉で希望を持たされたが、それが無意味だったと知った彼女の悲しみを、その瞳の闇が物語っていた。

 

『でもね、そんな中——一人の魔法使いのお医者様が言ってくれたの。……“あんたの命はもうわずか”だって』


(……辛くなかったのか?)


 俺の愚問に対し、マリラは嫌な顔をせずに答える。


『——辛くないって言ったら嘘になるけど。間違いなく、あの言葉で前には進めたわ』


 彼女の言っている事を、頭で理解するのは簡単だった。気休めは誤魔化しはなんの意味もない。

 さっきは、例えルミナが傷ついても、真実を話すべきだったと。

 

 だがそれでも、それを止めてしまいたい自分もいた。


(——俺の……人を傷つけたくないという考えは、甘いのか?)


 その気持ちすらも察したマリラは、今度は微笑み首を横に振る。

 

『大丈夫よ、女の子は強いんだから。——それより、ルミナさんの事、大切に思ってるのね』


(ああ……そうだな)


 俺にとっては、当然の感情だった。

 彼女は俺が思い描いた理想のヒロイン。俺の娘みたいなものだ。

 

 ——すると、マリラは立ち上がり、再び宿屋の方と体を進めていく。

 

(どこへ——行くんだ?)


『カガミさんはここにいて。私には少し、心当たりがあるから』


 何かをあてに、再びルミナの元へと戻ろうとするマリラを、俺は追うこともせず、ただ黙って見送っていた——。


(俺に、戦う力があればなぁ……)


 ”何もできないくせに”……ルミナが言い放ったその言葉がいつまでも刺さり、俺は自分の無力さを呪うばかりだった。

  

 ——ため息をついていると、遠くから別の娘の声が響いてくる。


『カガミさ〜ん! ——あれ? マリラさんは……』


 相変わらずの笑顔で、こちらに手を振り飛んでくるラキ。


(ああ。今は席を外してる。それよりルキはどうだ?)


『もう大丈夫です! それより、河原で誰に会ったと思いますぅ⁉︎』


(……さぁ? 一体誰にあったんだ?)


 物語の中で、ルキが()()()に会う運命を知りつつも、俺はあえて聞いた。


『なんと! なんとあのナナちゃんが、ギルバディアに来てたんですよ!』


(ナナが? それで?)


 長い話になりそうだったが、俺は最後まで聞く事にした。

 この世界のことを全てわかっているようでいて、俺は実際、何一つわかっていないのだから。


* * *


 ——宿屋の一室にて。そこには以前の静けさが戻っていた。


「いや……もう、何の声も聞きたくない」


 震えた体を赤子のように丸め床に伏すルミナ。耳を抑える手からは、いつのまにか血が流れていた。

 

『ルミナさん——しっかり』


 そこに再びやってきたマリラは、彼女の体を撫でるようにして、小さな傷に癒しを施す。


『大丈夫よ。心の方も——きっとすぐに和らげてみせるから……』


 ルミナには決して届く事はなかったが、その声には確かな自信があった。


 ——するとそこに、マリラにとって聞き覚えのある、ゆっくりとした足音が部屋に近づいてきた。


「——入るよう」


 扉がゆっくりと二回叩かれ、やがて一人の老婆が入ってきた。


 ——紺色のローブを纏い、少し曲がった腰を支えるように杖をつき、薄紫色の髪を両脇に結い下ろした、静かな風格を備えた女性。


『——ヨヨ婆様。また会えた……』

 

 自分がよく知るその名を呼んだマリラは、その姿を見て目を潤ませる。


「派手に、暴れたね」


 老婆が軽く手をかざすと、あたりに散乱したものが、風と共に舞い上がり、元の場所へ帰って行く。


「風……魔法?」


 囁くような優しい風に、ようやく気づいたルミナは、その老婆を不思議そうに見つめる。


「傷は——ないようだね」


 頬に触れた柔らかなマナの感触に、どこか懐かしさを覚えつつも、ルミナは尋ねた。


「あなたは、誰ですか? 以前、どこかで——?」


 両手で杖をつき、近椅子に腰掛けた彼女は、おもむろに口を開く——。


「私はヨヨ。——ヨヨ婆と、みんな呼んでるよ」


 その名を聞いた瞬間、ルミナの胸に、縋りたいほどの安堵が込み上げた。

 堪えていた涙が、再び静かに頬を伝う。


「ヨヨ……婆様ぁ」


 ヨヨ——この女性の正体は、母アリステラが最も信頼を寄せていた人物。

 その事実を、ルミナは確かに覚えていた。


「”もう一つの傷”……見せてくれるかい?」    


 微笑む彼女の言葉に全てを預けるように、ルミナは静かに頷く。


『ヨヨ婆様なら、きっとルミナさんを——』

 

 ——それを見守るマリラもまた、安心していた。

 かつて自分の心を救ってくれたヨヨ婆。彼女なら、今のルミナの心の傷を癒してくれるだろうと。 

傷つけまいとする事だけが愛ではありませんね。

一度傷つけてしまう事も愛の形だと思った回です。


お次は金曜日。

お待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ