第6話 少女との再会
振り向いたそこには、旅の途中で出会ったあの子の姿。
少女との再会
どうぞ。
『——ナナちゃん⁉︎』
両手を胸元に寄せ、震えた瞳でこちらを見つめるナナの姿。
——かつて、盗賊に怯えながらも懸命に立ち向かい、涙をこぼすルキの心に優しく寄り添った少女。
そのとき芽生えた絆は、やがて彼の中で特別な想いへと変わっていった。
ナナ——ルキが心を許した、密かな想い人である。
「やっぱり! ルキ様——あっ!」
「危ないっ!」
歩きにくそうな靴で、草原に向かって駆けていったナナは、足をもつれさせ、そのままルキの腕に飛び込んだ。
——彼女の髪から香る匂いと温もり。鼓動が跳ねるのを誤魔化すように、ルキは視線を逸らしながら、その小さな肩を引き剥がした。
「悪ぃ! ……でも、どうしてここに?」
ルキの問いかけに、少女は少し頬を染めて俯き、胸の前で指先をそっと絡める。
「……はい」
一拍置いて、静かに言葉を繋いだ。
「少し前、ここギルバディアに……引っ越しましたの——」
——まだぎこちない二人を見守りながら、届かぬ想いを抱いていたラキも、弟の幸せを願うように、そっと目を細めていた。
* * *
——再会を喜び合った二人は、再び小川の草原に腰掛け思い出話と共に、今までの経緯を話していた。
「——そんじゃナナは、とーちゃんの仕事でこっちに来たってのか?」
「ええ。父は父なりに帝国に抗う決意を固めていた様で——」
ナナの父テスカは、以前から構想していた資金援助を実現すべく、ここギルバディアへと足を運んでいた。
戦に必要な武具や、食料の供給も見越した動きであり、商売人としてだけでなく、支援者としての顔を持っての訪問だった。
「それより——ルミナ様や、マルク様はどちらに? あの時のお礼もしたいですし、是非会いたいですわ!」
禁句を聞いたラキは、目の前に腰掛ける弟の横顔を、恐る恐る覗き込む。
「ルミナは寝てる。マルクは……ここには、いねぇ——」
もう立ち直ったのだろうか……先ほどの涙が嘘だったかのように、ルキはキッパリと答えた。
「……そんな」
ルキの体に残る傷跡を見て、何かあったのだろうと思っていたナナだったが、彼女の中の点が繋がっていく。
「やはり皆さんは、バルナでの戦いに参加されていたのですね——」
ナナは父から、マルク達の次の目的地はバルナであるという事を聞いていた。
その結果、バルナ崩壊の知らせを聞き、まさかと思い、心のどこがで皆を心配していたのだ。
「でもバルナ王国は、帝国との同盟を謳っていたのに。なぜあんな事に——」
「同盟なんて、嘘っぱちだ‼︎」
ルキの突然の憤怒に、ナナはビクリと肩を震わせ、その場の空気が凍りついた。
「ぞろぞろと妖魔まで連れてきて、結界の策まで用意して、あいつらは、ハナからバルナを潰すつもりだったんだ! そんな事は皆わかってた! だから俺たちは、剣を取ったんだ!」
怒りを抑える事ができず、彼は次々と言葉を並べる。
目覚めてからずっと、バルナ兵達の姿と、最後に見たマルクの背中が、彼の頭を離れてくれなかった。
そしてなによりも、その全てをなすすべもなく奪われた自分の無力さが——悔しかった。
——痺れるほどに握り締めた拳の痛みに、ハッとなったルキは、ナナの震えた視線に、ようやく気がついた。
「いけねぇ、俺は一人で何を」
そばにいてくれるナナに、これ以上心配をかけまいと、取ってつけたように笑顔を見せるルキ。
「マルクは、あんなことじゃ死なねぇし——俺もこんなことで、くよくよしてたら、いけないよな……」
『ルキってば……』
ナナの後ろから、弟の横顔を見ていたラキには、それが偽物だということがわかっていた。
——するとルキは、すっと立ち上がり、ずっと黙っていたナナに、今度は優しい言葉で塗り替える。
「そんな顔するなよ、俺は大丈夫だからさ」
『ルキ……』
「そんなことよりさ、楽しい話でもしようぜ」
『……だめ』
——このままではいけない。こんな事を続ければいずれ彼はダメになってしまう。
偽りの笑顔には、いつか限界が来る事を、ラキはよく知っていた。
もう、自分がやるしかない——彼女は、そう決意した。
禁を破ることになるが、目の前の彼女の体を借りれば、弟の涙を受け止められる。
——矢も盾もたまらず、ラキはついに、ナナの体に触れようとした。
だが、その瞬間……彼女の背中がゆっくりと遠ざかった。
「わっ——」
突然の柔らかな感触に驚き、その胸の中で声を上げるルキ。やがてナナは、彼の頭をやさしく撫で回しながら、耳元でそっと囁く。
「——泣きたいのに我慢をするのは、お姉さまとご一緒ですね」
——ナナの、優しい声と温もりの中で、ルキは思い出していた。
姉に無理をさせ、死に別れてしまった話を聞いてくれた彼女が、今と同じように全てを包んでくれた、あの日の事を。
「ご無理をなさらないでくださいね。どうか私にだけは、ルキ様の涙を、受け止めさせてくださいまし——」
彼女は誰よりも先に、ルキが必死に隠していた心の傷に気づいていたのかもしれない。
ナナの愛情に包まれたルキの心の行く先は、涙となってこぼれ落ちるに至っていた。
「ナナ。俺……俺——」
その場でしゃがみ込む二人。
啜り泣くルキを抱きしめながら、ナナは微笑み、何度もうなずき、その涙の一粒一粒を、その小さな体で受け止めていた。
——ラキはすぐに振り返り、その場を後にした。
もう、何もいらなかった。自分がいなくても、弟には支えとなる人がいる。
涙を、心を、まるごと受け止めてくれる存在が——ちゃんとそこに、いてくれたから。
『ナナちゃん……ありがとう』
ナナとの再会。
今後のギルバディア編を彩る重要キャラクターの登場でした。
二人の絆の行方をお楽しみください〜
お次は金曜日!




