第5話 少年の目覚め
第二章 目覚めと共に 編
バルナでの死闘を終え、ここからようやく本来の物語が動きます。
少年の目覚め
どうぞ。
「うう……姉ちゃん」
とある部屋の一室、大切な人を求め、夢の中で苦しむ少年。
「——はっ!」
天井も壁も窓の映像も、どれを見渡してもルキの記憶に当てはまるものは、そこにはなかった。
「ここは……? 俺は確か、——痛っ!」
身体中に広がる痛みの数々が、あの戦いの記憶を思い起こさせる。
そして、いつもと違う目覚めの景色を見て、ルキはその決着のいく末を察した。
帰るはずだったあの場所は——先の戦いで、滅びてしまったと。
「お目覚めですか。ルキさん——」
世話係と思しき女性から差し出された水を、矢継ぎ早にかきこみ、無理矢理頭を冷やしたルキは聞いた。
「生き残ったのは……俺だけ……?」
震えた手で、差し出された杯を返すと、彼女は告げた。
「いえ。私が聞いているのは、ルミナさんと言う女性と騎士長マール様だけで——」
「マルクは——⁉︎」
食い気味で言葉を被せるルキ。
最後まで一緒にいたルミナの生存は、なんとなく予想はできた。だが、彼が一番心配していたのはやはり、王宮に取り残された彼の事だった。
「その様な名前の方は、聞いておりません……」
その言葉に、ルキはガックリと肩を落とす。
なんの力にもなれなかった……。
敗北し仲間を失った悲しみが、あの時の悔しさを呼び起こし、さらに自分に突き刺さる。
気がつくと、ルキは部屋を飛び出していた——。
「ルキさん! どこへ⁉︎」
そんな言葉も今のルキには届かず、彼は右も左もわかないまま全力で駆けていった。
* * *
——遠くの方でルキの目覚める気配を感じた俺は、ラキとマリラを連れて、彼のいるであろう場所に足を運んでいた。
(——この中だな)
治療を終えたルキ達が運ばれた宿屋に辿り着き、一度足を止める三人。
『気配だけでわかるなんて、カガミさんはすごいわね。じゃあ——』
『待ってください、マリラさん』
行儀良く入り口から入ろうとするマリラを呼び止め、上を指差すラキ。
『もう、手っ取り早く窓から入っちゃいましょう!』
(まあ、いつもそうしてるな)
自分の立場を思い出し、その提案にすぐに納得するマリラ。
『ふふ、それもそうね。私も慣れていかなきゃ——』
一同は上を見上げ、早速ルキの部屋を探すが——次の瞬間!
『——ふんぎゃ!』
ラキが何者かにぶつかり——身を翻す。
『ラキ! ぶ、ぶつかった?』
(大丈夫か⁉︎ ……って、あれはルキ?)
見覚えのある背中が横を走り去ったが、それは紛れもなくルキそのものだった。
『うう……一体なんなんですか〜』
ラキを優しく起こすように手を引くマリラは、ふと気づいた事を呟く。
『あれが弟のルキくんね。それよりあの子……泣いてたわ——』
その場にいるマリラだけは、彼の溢した涙を見逃していなかった。そして、それを聞いたラキは慌てて追っていく。
『カガミさん私! ちょっと行ってきます!』
瞬く間に飛んでいったラキを見送り、マリラは心配そうに俺に呟いた。
『大丈夫かしら。私たちも行ったほうが……』
(いや、俺たちは残ろう。——ここにはもう一人の仲間、“ルミナ”がいる)
そう言って俺は、ラキに弟の事を託し宿屋へと入っていった。
* * *
——街の喧騒も遠ざかり、気づけば川のほとりの草原にたどり着いたラキ。
『ルキ! やっと追いついたわよ……』
彼女が駆けつけた先には、息を切らし大の字で寝転ぶルキの姿。ただ呆然と流れる雲を見つめていた。
「はぁ……はぁ……くそっ!」
悔しさばかりが湧き上がり、それを押し殺すように歯を食いしばる。
『ルキ……元気出してよ! ねぇ——』
弟の傍に座り声をかけるが、彼の耳にラキの想いは届かない。
やがて——彼の悔しさは、涙となり頬を伝っていく。
「……ちくしょぉ」
ラキは弟の涙を拭うべく、その頬に手を触れようと試みた。
——しかし。
『あっ——!』
自分より大きなエギルの発する青白い光が、彼への干渉を許さない。
『やっぱりダメ……』
今までだって、声は届かなかったし、手を伸ばしても触れることはできなかった。
それでも笑って、そばにいるだけで、他に何もいらなかった。
だってルキの隣には、いつも誰かがいたから。
不器用なマルクがいて、優しいルミナがいて、私にはできないことをしてくれていた。
だけど今は——彼の隣には誰もいない。
『……ルキぃ』
——気づいたら、胸がきしむように痛くて……堪えていた涙が、どうしようもなくあふれてきた。
そこに——。
「ルキ様……?」
どこかで聞いた事のあるような声が、風と共に響き、ルキの肩がピクリと動く。
まさか……そんなはずはない。
耳を疑いつつも、二人は振り向く。
草の向こうに立っていたのは——。
「ナ、ナナ——」
力になれず歯痒い思いをしているラキ。
するとそこに現れたのは、あの少女でした。
お次は火曜日!
引き続き、第二章をお楽しみくださいm(_ _)m




