第2話 マリラ
今回は短いですが、彼女が死を受け入れる重たい回になります。
新キャラの名はこちら。
マリラ
どうぞ。
気がつけば、マリラの体は屋敷の屋根の上に横たわっていた。
そこには、肩まで下ろした黄色い髪に、青色のカチューシャをした少女が、眩しい笑顔でこちらを覗き込んでいる。
宙に浮いてる……ギルバディアに住む、街娘かしら——? そうだ! この子はきっと——。
『可愛いらしい……あなたは、天使様ね?』
マリラは体を起こし、黄色い天使に問う。
『可愛いらしいなんてぇ、でへへ。照れますねぇ』
羽もなく宙を舞うその天使は、体をもじもじさせながら目を細めている。
——そこに、どこか聞き覚えのある声が飛んできた。
(こら、天使様を否定しろ。全く……)
声のする方へ目を向けるとそこには、モヤモヤとした光の塊。その塊は、マリラには、緑色に光って見えていた。
『その声は——さっきの、天の声?』
黄色い天使を押し除けて近づくその光は、彼女の問いに答えた。
(その通り。君の魂をここに留めたのは——この俺だ)
『魂を、留めた?』
次々と降りかかる疑問に、マリラが首を傾げていると。
それを察した天の声は、説明を始めた。
(簡単に紹介すると——俺は、この世界の“全て”を知る者だ)
『ちょっとスケベな神様と言ったところですね——』
(そ、それは誤解だ!)
人間臭い神様に天使の相づちが入り、どこか間抜けな空気が流れる。
だが次の言葉が、マリラの表情を変えた。
(おほん……実はここにいる“ラキ”も——君と同じ、今は魂だけの存在なんだ)
『すみません。実は、私は天使様なんかじゃないんですよぉ』
その瞬間、マリラは息を呑んだ。
目の前で笑っている少女——さっきまで明るい声で話しかけてくれていたその子は、もう“この世にいない”のだ。
『そう、なのね……』
そして、ようやく声に出せた一言。
この異様な光景に、ほんの少しだけ期待している自分もいたが、彼女は改めて自覚した。
自分が、もう死んでいる事を——。
(……ああ、落ち込む気持ちはわかるが、今この下で起きている事が全てなんだ)
彼女は、その全てを確認しようと、なんとか体を宙に浮かせながら屋敷の窓から、元いた部屋へと入っていく。
「マリラぁ……あぁぁぁ——」
魂だけが抜けたマリラの手を握りしめながら、ベッドの上に泣き崩れる友の姿。
『ジーン……』
その周りには、涙ながらにそれを見守る侍女達と、手を尽くし終えた医者が、彼女の死を確認していた。
——その光景に、マリラの心は縫い止められてしまう。
胸が激しく痛み、頬には涙が伝う。
魂だけの存在となったマリラは、なんとも言えぬ耐え難い苦痛と戦っていた——。
それでも、時というものは残酷なほどに歩みを止めてはくれない。
マリラの死を確認した侍女は、悲しくも次の行動に移っていた。
——ギルバディアの街では、死者の魂が夜を越えぬよう、翌日の昼までに眠りにつかせる習わしがある。
死んだ人間は埋葬される。それはどんな世界でも例外ではない。
すぐに牧師が屋敷に駆けつけ、その日の夜、皆の祈りがマリラに捧げられた——。
——翌日。街の外れにある丘の墓地にて。
「マリラ……」
ただ一人、墓標の前で友の名を呼び、その場をしばらく動かないジーン。
手を合わせた姿は、祈りというより懺悔のようだった。
どれほどの時間が過ぎただろう。ようやく震える声で言葉を落とす。
「さようなら」
その言葉を最後に、重い踵を返すジーン。
だが、目の前にいたマリラの姿は、その瞳には映らない。
そして、そのまま——友の魂に気づくことなく、ジーンは彼女の横を通り抜けていった。
その背中を追うこともせずに、目の前の墓標だけを、ただ見つめるマリラ。
重く、冷たい石の前で、彼女は静かに、自分の死と向き合っていた。
——その光景を見ていたラキは、たまらず神様に漏らす。
『カガミさん……』
(わかってる。今は、そっとしておこう——)
——軽い慰めの言葉など、かけられない。
カガミと呼ばれる神様はただ、彼女がこの痛みを自分の力で乗り越え、もう一度前を向けるその瞬間を信じて——静かに見守り続ける事しかできなかった。
そんな頼りない神様の隣で、ギュッと拳を握る少女は、人知れず、心の中の何かを必死で押さえつけていた……。
死んで幽霊になったらこんな感覚なんでしょうか。
書いてて考えさせられる重たい回になりました。
お次は金曜日!
楽しい回が待ってますよ〜




