第1話 癒しをもう一度
ついに第二部スタートぉ!
第一章、癒しと共に編。
始まりの舞台は、ギルバディア王国。新しい仲間たちとの出会いの数々をどうかお楽しみください。
癒しをもう一度
始まりです。
——パルメシア帝国。
野放しにされた妖魔の力を取り込み、その軍勢はもはや人の手で抗えるものではなくなっていた。
アリヴェル王国に続き、小国バルナも、抵抗むなしく殲滅され、大陸は今や帝国の支配に呑み込まれつつある。
だが、この地にはまだ、帝国に屈せぬ強国が残っていた。大陸一の兵力を誇る国家。
——新ギルバディア王国。
堅牢な石畳、そびえる城壁。街の至る所には広大な兵舎と訓練場が並び、鎧の擦れる音と掛け声が、日常の音となって響いている。
魔法使いの女王が統べる国アリヴェルや、交易で栄えていたバルナとは違い、ここギルバディアは、徹底して軍事に特化した国であった。
——とある昼下がり。
訓練場を後にした一人の兵が、足早にどこかに向かっていた。
足を止めたのは、街の花屋。
兵が来るなり、店の者は手慣れた様子で花を見繕い、それを受け取った訓練兵は会釈をし、すぐに店を後にする。
きっと、常連客なのだろう。
——そして、その足が次に止まった場所は、街のとある屋敷。
「——これは、ジーン様! どうぞお入りください……」
“ジーン”と呼ばれる訓練兵の来訪に喜ぶ侍女は、すぐに部屋まで案内する。
しかし、彼女の声がわずかに震えているのをジーンは聞き逃していなかった。
——屋敷の一室。
寝室であろうその部屋の中心には、大きなベッド。それを数人の侍女と、医者と思しき人物が囲んでいた。
その輪の中心には、頬を包む様に丸みを帯びた薄桃色の髪に、切長に尖った耳をした少女が横たわる。
「……ジーン?」
力なく瞼をあげ、天井を見つめていたその少女は、気づくように呟いた。
——すると、部屋の扉が開き現れたのは、先ほどのジーンという訓練兵。
「やっぱりジーンだ……来てくれたのね……」
「“マリラ”——ああ、私の癒し……」
すぐにベッドに駆け寄ったジーンは、今にも壊れてしまいそうな細い手を、優しく握る。
しかし、彼女の手にはそれを握り返す力は、ほとんど残されていなかった。
「ジーン様……」
その光景を見た侍女達は、思わず涙をする。
そう、マリラと呼ばれるこの少女の命は——もう長くはなかった。
「最後に会えて、……嬉しい。私、もう……思い残す事なんて……ないわ——」
「最後だなんて、何を言うのです! それに、“レオン”さんだって……!」
掠れた声を絞り出し、先立とうとするマリラに涙するジーン。
「聞いて……ジーン。あなたはもっと、正直にならなきゃ……ダメ」
ジーンの手を握る力がさらに強くなる。まるで、すぐに遠くへ行ってしまいそうな儚い命を、繋ぎ止めるように。
——そして、悲しみに怯え震えるジーンに、マリラは言った。
「ジーン。幸せに……な、って——」
友の名を呼ぶマリラの手からは、徐々に力がなくなっていく。
「そんな……あぁ、マリラ……マリラぁ——」
その名を何度呼んでも、言葉は返ってこなかった。
閉じた瞼は、もう二度と開かない。
マリラという命は、今ここで終わってしまったのだ——。
…………
…………
…………
* * *
——淡い光に包まれながら、落ちていくでも昇るでもなく、その場に漂う魂。
『——あれ? なんだか体が? ……私、確か……死んだはずなのに』
気がつくとマリラは、自分の意識が天に昇る感覚を味わっていた。
風船の様に体が軽くなった感覚。生涯のほとんどを床に伏せ生きていた彼女にとって、それは初めての体験だった。
『このまま、天国にまで昇っていくのかしら……あっ!』
マリラは、気づいた——。
自分の意識の真下で、自分の姿をした人形の手を握り、涙を流す友の姿に。
『ジーン⁉︎ 私はここよ——』
思わず声を上げるが、ジーンの耳には届いていない様子。そもそも、声などをあげれていようかも、全くわからない。
『そうよね。私、死んだんだもの……』
こうしている間にも、生きていた世界から遠ざかっていくマリラの魂。
ようやく己の死を受け入れ、彼女は今まで生きていた過去を振り返る。
大きな屋敷に生まれ、何不自由なく生活をしていた。だが、生まれつき体が弱く、外に出る事も困難だった。
——そんな中出会った、二人の友達。
“レオン”と“ジーン”。
彼らがいたおかげで、屋敷の中の世界しか知らないマリラも、寂しい思いをすることはなかった。
『ジーン……最後に会えて、本当に嬉しかったよ——』
友に感謝を告げるマリラ。だが、彼女には一つだけ心残りがあった。
『レオン……』
それは、もう一人の友人であるレオン——。
『やっぱり、私……』
思い残す事がないなんて——嘘だった。
本当は、彼にも会いたかった。
笑った顔が、見たかった。
手を繋いで、歩きたかった。
私の想いを、全て……伝えたかった。
——すると、想いを巡らせている少女の意識に、ある声が響き渡る。
(まだ——生きたいか?)
『——だ、誰⁉︎』
突然の天からの声に戸惑うマリラ。
だが、その声はさらに彼女に問う。
(その想い……伝えたくないか?)
『私の、想い……?』
マリラの答えは、決まっていた。レオンは彼女にとって、最も大切な人。
伝えたかった言葉なんて、いくらでもある。
——そして、彼女はその問いに答えた。
『……伝えたい』
(……そうか。やっぱり、まだ心残りがあったんだな)
(……わかった。なら、俺の声に応えてくれ——)
『応える……?』
矢継ぎ早に飛んでくる天の声に、マリラの意識は戸惑う。
理解する間もなく、意識が薄れていく。そして——天の声は、自分の名を大きく呼びかけた。
(——マリラ!)
わけもわからず、もうどうにでもなれという思いで、彼女はその言葉にしがみつくように、大切な人を強く想った。
『(レオン……!)』
すると、彼女の強い想いと共に、その意識は空へと投げ出された——。
…………
…………
…………
『——はっ!』
——気がつくと、目の前には青空が広がり、そこにはハッキリとした意識が生きていた。
『うまくいきましたね! カガミさん!』
声の方を見ると、そこにはなんと——宙を舞う見知らぬ少女が、こちらを覗き込んでいた。
天に昇ったはずのマリラが出会ったのは、天の声となんとあの少女!?
お次は火曜日にお待ちしておりますm(_ _)m




