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天声だだ漏れ転生〜女神の温もりと共に〜  作者: 白銀鏡
【第一部】 第三章 希望と共に
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第37話 何もかも

みんなごめんな。

俺が全部悪いんだ。

俺のせいなんだ……。


何もかも


どうぞ。

 全てが終わってしまった——。

 この世界に転生し、帝国に立ち向かう決意をした俺は、俺の知る全ての情報を利用し、最善の策を尽くした。


 だが結果は——敗北。


 バルナ王国は滅び、マルクは王宮に取り残され、ルミナとルキ、二人は心に大きな傷を残したまま敗走した。


 ——すべては、皇帝の力を侮り、物語の全てを知っていると慢心していた俺の責任だ。


”その気になれば、俺たちの存在など虫けらも同然”

 シュダが言い放った、言葉の通りだった。


(はぁ……)


 ——とある街の屋根にて青空を見上げ、俺はため息を漏らしていた。


 ここは、ギルバディア王国の城下町。

 俺は国境の森でアバンと落ち合い、救出されたルミナとルキと共に、この街へと連れてこられた。


「重傷者はこっちだ! 治療室に運べ!」


 城下では、バルナの避難民の介抱にあたるアバンの姿。

 迅速で的確な指示を部下達に送り、皆彼を頼りに動いていた。


 アバン……お前の到着を待ち、戦いに臨んだ方が良かったのだろうか?


(はぁ……)


 後悔ばかりが募り、思わずため息を漏らす。


 ——帝国の横行も、本来ならば女神の力によって阻止されるはずだが、肝心のアリステラはこの世にはいない。

 これまでの展開は一応物語通りなのだが、彼女がいない以上、俺にはハッピーエンドの未来がどうしても見えなかった。


 さらに引っかかっていたのは——マルクのことだった……。


 王宮を強制退場させられてから、彼の安否が確認できていない。

 俺には人のエギルが見えない。だから、普段は誰かしらの気配を読み取り飛んでいくのだが、今はマルクの気配が感じられなかった。

 加えて、あの皇帝の謎めいた力への恐怖もあり、彼のもとへ近づくことすらできずにいた。


 俺が何より恐れているのは——物語の筋を逸れた者の死が、アリステラの時のように、マルクにも降りかかることだ。

 そうなれば打倒帝国の夢も、ますます遠のいてしまう。

 それに、残されたルミナはどうなる……?

 母も国も亡くしてしまった上に、愛する人までもがいなくなったら、彼女の心は壊れてしまう。


 ルキだってそうだ。

 普段は平気そうにはしているが、家族のいない彼だって本当は寂しいはずだ。

 唯一の支えとなるルミナがダメになってしまったら、ルキもきっと……。


(はぁ……)


 ため息と共に、俺の中の希望が次々と吐き出されていく。

 もういっそのこと、何もかも……。


 ——すると、終わりを求める俺の横で、何かが生まれる音がした。


『——カガミさん‼︎』


 呼び出してもいないラキが、声と共に飛び出した。


『皆さんは、どうなりましたか⁉︎ ルキは……?』


 自らの意思で出てくるなり、俺に顔を近づける彼女は問う。


(ルキは無事だよ……他は——)


 俺は今までの出来事を、彼女に全て伝えた——。


* * *


『アバンさん……来てくれたんですね』


 全ての事情を知り、二人の危機を救ってくれた彼を、潤んだ目で見つめるラキ。


 ——やがてアバンは、一通りの介抱を終え、次の現場へとかけていった。


 そこで俺は——ある事に気づく。


(……あれ?)


 彼についていたはずの俺のエギルは、微動だにしていなかった。


 なぜだろう……。

 いつもなら水上スキーのごとく、ついた人間の後を追う様に体が引っ張られていくはずなのに。


 今、俺のエギル体は、他人に依存せず、静かにそこに留まっている。

 今まで“ついていく”ことしかできなかった不安定な存在だった俺が、自由を得ている……?


 先ほどのラキと出現といい、さらに謎が増えていき、頭が混乱しそうだったが、今の俺にとっては、そんな事はどうでも良かった。


 俺はその場を離れ、アバンの向かう方向とは逆の方向へと、自由に体を進める。


(これが自由か……長らく忘れていたよ)


『——どこ行くんですかカガミさん!』


 何も言わずに飛び去ろうとする俺を呼び止めるラキ。

 そして彼女は、いつもの様子で言葉を繋げる。


『また、戦いましょう! 次こそは、帝国に——』


 その言葉に——俺はピクリとなってしまった。


(——なんで、笑ってられるんだよ?)


『え……?』


 いつも希望になってくれる彼女の存在が、この時の俺には、この上なく迷惑だった——。


(うんざりなんだよ! いっつも笑っていやがって、人に希望を持たせて、失った時の辛さなんてまるで考えちゃいない!)


 気づけば俺は、棘を含んだ言葉を彼女にぶつけていた。


(お前もわかっただろ? この世界は絶望だらけだ! 俺がそうしたからな。たくさんの人も死なせてしまった……お前の事だって、お前の家族の事だって、俺が殺したんだぞ⁉︎)


 俺は、この物語を描いた張本人だ。

 この世界の人々が苦しむのも、罪のない人々が死んでいくのも、全て俺が描いた。

 そう、何もかも——。


(それに俺は、元々こんな世界どうでも良かったんだ。俺にとっては、ただの物語の世界——お前らが死のうが生きようが、俺の知ったことじゃないんだ!)


 俺の溜まりに溜まった鬱憤が、ギルバディアの空に響き渡る。

 その言葉に傷ついたのだろうか、ラキは真っ暗な瞳で、俺を見つめていた。


 ——そんな目で見るなよ……。


 ラキのせいじゃない。それは、頭ではわかっていた。

 けれど、心が弱り切った今の俺には、彼女を責めることでしか、自分を保つ術がなかった。


(……怒鳴って悪かったな。でも俺は、もうこの世界にはいられない……だから、俺の事なんかもう忘れてくれ——)


 彼女の顔を直視することすらできず、俺はその場から逃げるように、空へと飛び立った。

 情けなくて、悔しくて……こんな自分が、早く消えてしまえばいいとすら思った。


  ——あの時と、何も変わらない。

 六畳一間の狭い部屋で、何も掴めず、何者にもなれず、誰にも届かない物語を描き続けていた、あの絶望と同じだ。

 希望なんて、とっくに底を尽いていたあの頃のまま。


 こういう時に、俺ができることなんて……結局ひとつしかない。


 そうだ。

 何もかも——諦めるしかないんだ。

彼の希望は本当に尽きたのでしょうか?


お次は火曜日。

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